8話 薬草摘み
森の中は、樹木が大きく育ち、年中日陰になっている場所もあれば、木々が少なく、低木しか育っていなくて日当たりが良い場所もある。
薬草は、自分に適した場所を選んで生えている。
群生していれば見つけやすく簡単に摘めるが、雑草に紛れて生えている場合は雑草をかき分けて探さなければならず、これがなかなか難しい。
セレスティアは薬草を見つけては、エルヴィンにその名前と効能を説明しながら摘んでく。
「お嬢様、よくそんなに覚えていられますね。どこで覚えたんですか?」
「ふふふっ、薬草のことは、ベンジャミンさんから教えてもらったのですわ。ベンジャミンさんは、森の先生ですのよ。この森は薬草の種類が豊富で、すべて覚えるのはたいへんだったのですけれど、薬草辞典も貸していただいて覚えたので、この森の薬草のことなら何でも言えますわ」
そう言えばと、エルヴィンは物の少ない家の中に、分厚い薬草辞典が三冊置いてあったことを思い出す。
お嬢様はあれを全部覚えたのか?
かれこれ十種類ほどの薬草を摘んでザルに入れたのだが、一度では覚えられそうもない名前と効能を、セレスティアは迷うことなくスラスラと言ってのけた。
それを聞くたびに、エルヴィンは感心してばかりだった。
セレスティアは、薬草を摘むためにしゃがみこむ。
だから、ドレスの裾が地面に触れ、どうしても汚れてしまう。
初めに使用人が着るようなグレーのワンピースを見て驚いたが、今にして思えば、薬草を摘むには最適な服装なのだと言うことがわかる。
そして、ふと思った疑問。
「お嬢様、初めて会った日は、きれいなドレスを着ていましたよね。お客様が来ていたからだとおっしゃいましたが、ドレスを汚さないためにも、お屋敷の中にいた方が良かったのではありませんか?」
「そのことなのですが、わたくしがきれいなドレスを着ているときは、できるだけ人の目に触れないようにしているのです。どうも、メリンダが機嫌を悪くしてしまうので。わたくしのせいで使用人にも被害が出ては困りますし……」
「なんだかメリンダお嬢様が、諸悪の根源のような気がしてきました」
「うふふっ、それは否定いたしませんわ」
あっ、セレスティア様が本当の笑みを浮かべた!
エルヴィンは、嬉しくなって目を細めてセレスティアの微笑みを見ていた。
「もうザルが薬草でいっぱいになってしまいましたね。そろそろ戻りましょう」
摘んだ薬草は、薬草小屋で干して乾燥させなければならない。
薬草小屋に戻ったセレスティアは、薬草を井戸水できれいに洗い、それを種類ごとに器用に束ねてひもで結び、名札をつけて薬草小屋に張られたロープにひっかけていく。
丈が短いものは、重ならないようにザルに広げて名札を付けた。
「エルヴィン、ありがとう。あなたのお陰で仕事がはかどりましたわ」
「いえ、こんなことぐらい、いつでもお供いたします」
「頼もしいのですね。では、わたくし、もう屋敷に戻ります」
「あ、あの、本当に遠慮なんてしないで、いつでも俺を頼ってください。」
「ええ、ありがとう」
セレスティアは、そのまま振り返ることもせず屋敷に戻った。
その後姿をエルヴィンはじっと見ていたのだが、屋敷に戻ったところで、また諸悪の根源に、いちゃもんを付けられるのではないかと思うと気が気ではなかった。
どんなに辛いことがあっても、まっすぐに前を向いて姿勢よく歩いているお嬢様。
だけど、その後姿を見ていると、もろく崩れてしまいそうな気がする。
誰かが支えてあげなければ、お嬢様はきっといつか倒れてしまう。
俺がその誰かになれないのか?
俺が支えてあげることはできないのか?
エルヴィンは外でマキ割りをしているベンジャミンまで走った。
「じいちゃん!」
ハアハアと息を切らしながら声を掛けてくるエルヴィンを見て、ベンジャミンはマキを割る手を止めた。
「どうしたんだ? そんな切羽詰まったような顔をして」
「じいちゃん、平民の俺が、貴族のお姫様と結婚するにはどうしたらいいんだ?」




