7話 薬草
「あ、あの……、お嬢様、今よろしいですか?」
周りに誰もいないことを確認してから、使用人はセレスティアに声をかけた。
「ええ、ケイト。よろしくてよ」
「またお薬をいただけませんでしょうか? 娘が昨日から熱を出しているのです」
「ええ、かまいませんわ。ダイアナの症状は? 発疹は出ていますか?」
「発疹は出ていませんが、咳がなかなか止まりません。熱が高くてなかなか下がりません」
「そう。わかりました。それではついてきてください」
セレスティアは、マキを乾燥させるために作られたマキ小屋へと歩を進める。
風通しの良い場所に作られたマキ小屋のそばに、薬草を乾燥させる小さな小屋も作られていて、さらにその横には小さな倉庫があった。
ベンジャミンがセレスティアのために作ってくれた薬草専用の倉庫である。
倉庫の中には薬箪笥が置かれていて、セレスティアは乾燥した薬草を薬箪笥に保管しているのだが、ものによっては薬研や乳鉢で細かくすりつぶして保管しているものもある。
セレスティアは、薬箪笥から薬包紙で包まれた二種類の薬を取り出してケイトに渡した。
「こちらが咳止めの薬で、こちらが解熱作用のある薬です。どちらもよく煎じて飲ませてあげてくださいね」
「お嬢様、ありがとうございます」
ケイトは一礼すると、その場から逃げるように走り去っていった。
エルヴィンはその後姿を見て、彼女はセレスティアと一緒にいるところを誰にも見られたくないのだと思った。
「あの、お嬢様は使用人の名前を覚えているのですか? 娘の名前まで?」
「ええ、そうですわ。ケイトは娘と一緒に住み込みで働いている使用人です。ダイアナは12歳ですが、真面目によく働いてくれますわ」
「年齢まで!?」
エルヴィンは驚いてぽかんと口を開けてしまった。
「屋敷の主人が使用人のことを把握しているのは、当然のことですわ」
いやいや、主人って言っても、それは旦那様のことだし、お嬢様はまだ8歳だろ?
エルヴィンは複雑な思いでセレスティアを見つめた。
「でも、お嬢様、ここの使用人はお嬢様に話しかけないし、誰も味方になってくれないのでしょう? それなのに、薬をあげるのですか?」
「皆がわたくしに話しかけないのは、仕方がないことですもの。わたくしに話しかけたらメリンダに睨まれて、最悪解雇されてしまいます」
「だからと言って……」
「お母様が生きていらした頃は、使用人が病気になったらお医者様を呼んでいたのです。ですからお薬もお医者様からいただけました。ですが、ナタリー様がいらしてからは、使用人のためにお医者様を呼ばなくなったのです。当然お薬ももらえませんから、わたくしの作ったお薬が役に立っているのですわ」
「お嬢様は人がよすぎます。なんだか、都合の良い時だけ利用されているみたいで、釈然としませんよ」
「ふふっ、利用されて皆が喜んでくれるのなら、よろしいではないですか? さあ、今から薬草を摘みに森へ行きましょう。これはあなたの分ですわよ」
倉庫から持ち出した大きなザルを一つエルヴィンに渡し、セレスティアとエルヴィンは森へと入って行った。




