6話 微笑みの仮面
「お嬢様、あんまりです。ひどすぎます。母親代わりの人と引き離されて、妹にはひどい扱いを受けて……」
そう言うエルヴィンの目には、涙が溢れていた。
それとは対照的に、セレスティアは相変わらず微笑みの仮面をつけている。
「お嬢様、辛いなら辛いと言っていいんですよ。泣きたいなら泣いたっていいんですよ。お嬢様は俺よりも小さい女の子なんだ。我慢なんてしなくていいんです。俺の前だけでも、本当の自分でいてください」
エルヴィンは自分の思いを口にしている間も、ぽろぽろと涙を流し続けた。
それを見ていたセレスティアの瞳から、ツーっと涙がひとしずく零れ落ちた。
「エルヴィン、ありがとう。ああ、わたくし、あなたに釣られて涙が零れてしまったわ。ふふっ、淑女失格ですわね」
「お嬢様、そんなこと言わずに、もっと泣いてください」
「あなたは私のために泣いてくれるのですね。その気持ちだけ受け取っておきますわ。それより、さあ、涙をおふきになって」
セレスティアは白いハンカチを差し出したが、エルヴィンは頭をブンブン振って断った。
「仕方がないですわね」
セレスティアはハンカチを持つ手を伸ばして、エルヴィンの涙をふいた。
「お、お嬢様!?」
抵抗しようにも、セレスティアの手を掴むことなんてできなくて、結局エルヴィンは、セレスティアのなすがままに、涙をふいてもらうのだった。
しばらくして、涙が収まり平常な思考に戻ったエルヴィンは、今度は恥ずかしさがぐっと込み上げてきた。
自分よりも二歳も年下の少女に無様な泣き顔を見られ、その手でハンカチを使って涙を拭いてもらったのだ。
いたたまれない気持ちになったが、必死で気持ちを切り替えた。
「お嬢様、お手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした。それにしても、やっぱりひどいです。ご主人様はお嬢様のことをいったいなんだと思っているんだって思うと、怒りが湧いてきます」
怒りが湧いていても、エルヴィンは務めて冷静に話すように努力した。
「エルヴィン、わたくしは今まで一度もお父様に優しくしてもらったことがありません。愛していると言われたこともありません。ですが、お父様はわたくしを良い人に嫁がせると言って、淑女教育に一流の先生をつけてくださいました。きっと、口に出さなくても、わたくしのことを大切に思っていてくれているのだろうと思うのです。だから、その期待に添えるように、わたくしは勉強を頑張っているのです」
「良い人に嫁がせるって言っても、貴族様は政略結婚なのでしょう? ご主人様の選ぶ人が、本当にお嬢様を大切にしてくれるかなんて、わかりませんよ」
「エルヴィンは、わたくしのことを心配してくれるのですね。でもわたくしは、お父様の決めた人に嫁ぐつもりです。それが貴族と言うものですから」
「お、お嬢様……」
エルヴィンはまた泣きたくなったけれど、今度は必死に我慢した。
この目の前の少女に、どうか幸せになって欲しいと願わずにはいられなかった。
「あなたにお話したいことは終わりましたから、わたくしは薬草を摘みに行こうと思います。よろしかったら、エルヴィンも一緒に行きますか? 薬草のことを教えて差し上げますよ」
セレスティアは、場の雰囲気ががらりと変わるほど、明るい声でエルヴィンを誘った。
「は、はい。お供いたします」
二人が家を出て裏庭を歩いていると、おどおどと周りを警戒しながら、女の使用人がセレスティアに近づいてきた。




