89話 旅立ち
ベラトール領に着くと、エルヴィンは真っ先にフラギスとマグヌを呼んだ。
「お前たち、墓のことは誰かに話したのか?」
「そんなの話せるわけないじゃないか。墓を暴いたなんて、恐ろしくて言えないよ」
「ああ、俺もだ。何だか言いふらしちゃいけない内容だと思って、お前が帰って来るのを待っていた」
「さすがお前たちだな。お前たちと行って正解だったよ。墓地で見たことはもう忘れてくれ。俺たちは何も見ていない」
「ああ、わかったよ。きっとお前のことだ。何か考えがあるんだろう?」
マグヌの言葉に、フラギスもうんうんと頷く。
「ありがとう。恩に着る。ところで、急な話なんだが、俺はベラトール魔獣専門傭兵団の支店を作ることにした」
「支店だって? いったいどこに?」
「ウイキヌス王国だ。あの国は魔獣の出現率が高くて魔石の研究も盛んだ。きっと良い商売になる」
「確かに良い商売にはなるだろうが、こっちの仕事はどうするんだ?」
「もうみんな慣れてきて、俺なしでも大丈夫だろう? ゲートはロイに任せれば何とかなる」
「ここを少年に任せるってことは、俺もウイキヌスに行くことは決定ってか?」
「フラギス、頼む。俺と一緒に来てくれ。マグヌも頼む。俺にはお前たちが必要だ」
エルヴィンは両手を合わせて必死で二人に頼み込む。
「まあ、そこまで言われちゃ断れないな。俺はお前と一緒に行くぜ」
マグヌが太い腕を組んでにんまり笑う。
「まっ、この仕事は俺抜きではできないからな」
フラギスも鼻の下を指でこすりながら自慢げに言った。
この後、会議が行われ、ウイキヌス王国に行くメンバーについて話し合い、拠点となる館を手に入れ次第、引っ越すことが決まった。
エルヴィンの動きは迅速で、ウイキヌス王国で暮らすための諸々の手続きをさっさと終えて、一か月を過ぎたころには旅立ちの日を迎えた。
ベラトール領主代理はベンジャミンに任せた。
腕の良い執事がついているから心配ないだろう。
働き者の庭師が植えたパンジーとチューリップの花が咲く庭で、エルヴィンは陽気に別れを告げる。
「じいちゃん、俺、行ってくるわ。元気でな」
「ああ、お前もな」
エルヴィンはフォーサイス城でシンディーと対面した際の、彼女の言葉を思い出す。
『彼女は新しい生を得るために、どこかで生きているのです』
あのとき、彼女の言葉の意味を聞いた瞬間に理解した。
この国では死んだことになっているのなら、他の国で新しい生を得るという意味だろう。
行くとしたら友好国でベルランテ王国から移住しやすいウイキヌス王国だろうと目星をつけた。
きっとお嬢様はそこにいる。
薬屋を営んでいるかもしれないし、もしかしたら家庭教師をしているかも。
お嬢様のスキルなら、路頭に迷うことはないだろう。
どこにいようと、絶対に俺は探し出す。
お嬢様、待っていてください。
俺が迎えに行きますから。
エルヴィンがウイキヌス王国の国境を越えたのは四月、20歳の誕生日を迎える一月前のことであった。




