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木こりの俺がお姫様と結婚する方法  作者: 矢間カオル


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88話 お嬢様はどこに?

エルヴィンは、自分の耳を疑った。

今まで夫人としか言ってなかったシンディーが、初めてセレスティアの名前を口にしたのだから。


「あの、領主様は、お嬢様と話をしたことがあるのですか?」


「ええ。これ以上隠すことは止めましょう。セレスティアは一年近く、ここで一緒に暮らしていたのです」


「一年近くも?」


お嬢様は盗賊に攫われて行方不明になっていたのではなかったのか? 


「あの子はあなたのことを、この世で一番信頼していると話していたわ。自分の命を投げうってでも泥沼から救い出してくれるような人だって」


「お、お嬢様がそんなことを……」

エルヴィンの赤い瞳に、ぶわっと涙が滲み出る。


「セレスティアが信頼している人だから、私も信頼して話しましょう。ただし、今から話すことは絶対に口外しないこと、それは約束できますか?」


「もちろんです。絶対に口外いたしません」

エルヴィンの赤い瞳がまっすぐにシンディーの水色の瞳に向けられる。


「セレスティアが盗賊に襲われたあの日、騎士団長は彼女が盗賊に攫われたと証言しましたが、それは虚偽の証言でした。騎士団がぎりぎりのところで間に合い、彼女を救い出すことができたのです。ですが、シモンズ伯爵から離婚を引き出すために、わざと攫われたことにしたのです。頃合いを見計らって救出したと報告する予定でしたが、シモンズ伯爵の方が一枚上手でした。翌日には密葬を終え、死亡届を提出したのですから」


「では、お嬢様は、今どこにいるのですか?」


その問いに、シンディーは答えることはできないと思った。


セレスティアがここを去る前に、一番良い方法は何なのかを何度も話し合った。


セレスティアはフォーサイス家が罪に問われることを恐れていた。

だがシンディーは、セレスティアが王女だと露見した際のシモンズ伯爵の動きを恐れた。


伯爵の性格なら、一時でも隣国の王女が妻になったことを自慢し吹聴する恐れがあるからだ。


もしそんなことになれば、若い彼女にとって致命的なスキャンダルになる。

だから、今後一切連絡を取り合わないとお互いに約束をした。


セレスティアはフォーサイス家を断ち切ることに悲しみを露わにしていたが、それがお互いのためだと納得して別れたのだ。


「あの、領主様?」

じっと黙り込んだシンディーに、エルヴィンは次の言葉を促す。


「セレスティアが今どこにいるのか、答えることはできません。彼女が生きていることをシモンズ伯爵に知られてしまうことを恐れて、お互いに一切連絡を取り合わないと彼女と固く約束をしたのです。ですから、私が彼女との約束を破るようなことはできません。」


「そ、そうですか……。教えてはいただけないのですね」

エルヴィンはがっくりと肩を落とした。


「ですが、あなたがあの子を探すことを、とやかく言う筋合いはございません。どうぞご自由になさってください。ですがこれだけはお伝えしておきましょう。彼女はこの国では死んだことになっています。彼女は新しい生を得るために、どこかで生きているのです」


新しい生を得るためにどこかで生きている?

その言葉を心の中で噛みしめたとき、エルヴィンの顔に歓喜の笑みが宿った。


「領主様、ありがとうございます。それだけわかれば十分です。俺はお嬢様がどこにいても絶対に探し出しますから」


「そうですね。あなたならできるかもしれませんね。ですが見つけたからって報告しに来ないでくださいね。彼女が生きていることはくれぐれも内緒でいてください」


「わかりました。ところで領主様は、もしかしたらお嬢様と何か繋がりがあるのではないですか? 初めてお会いしたとき、お嬢様によく似ていたので驚きました」


「ふふっ、私はあの子の母親の双子の姉なのです。あの子の祖父母もここで暮らしているのですよ」


「そうなのですね。領主様とのお話で、お嬢様が大切にされていたのだとわかりました。お嬢様は、ここでやっと幸せな暮らしを手に入れたのですね」


「ええ。短い間でしたけれど、あの子は幸せに暮らしていたと自信を持って言えますわ」


「領主様、ありがとうございました。俺はもう行きます。やらなければならないことができました」


エルヴィンはベラトール領に向かって急いで馬を走らせた。



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