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木こりの俺がお姫様と結婚する方法  作者: 矢間カオル


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87話 お嬢様は死んでない

「騎士団長、お忙しいところ申し訳ございません。約二年前にあなたが関わった盗賊による強盗殺人事件について詳細を教えてください」


いきなりやって来た黒髪赤目の若者に、フォーサイス騎士団長フェクトス・レガートは頭を悩ませていた。


聞けばエマーソン伯爵家の元使用人で、セレスティアと手紙のやり取りをしていた間柄だと言う。


「お嬢様は生きています。私はお嬢様を探したい。だから手掛かりが欲しいのです」


この若者は本気でセレスティアを心配している。

その熱意にほだされそうになるが、フェクトスは必死に自分の心を抑えた。


セレスティアが生きていることは極秘事項である。

仲が良かったからと言って、簡単に教えることはできない。


「何度も言っているが、シモンズ伯爵夫人は殺されたんだ。伯爵が確認して死亡届も出している。私がとやかく言える話ではない。諦めて帰りなさい」


「そこを何とかお願いします!」

若者は必死の思いで騎士団長に縋りつく。




エルヴィンはフォーサイス城に着いてから、真っ先に騎士団の皆で鍛錬中のフェクトスを訪ねた。


騎士たちに聞かれたくないと思ったフェクトスは、騎士団から離れて中庭でエルヴィンに対応している。


「何やら騒がしいわね。フェクトス、その方はどなた?」


そこを通りかかったシンディーが、見知らぬ若者を訝しんだ。


シンディーを見たエルヴィンは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。


「あ、あなたは……」

一瞬次の言葉を失ったが、我に返り慌てて名前を名乗った。


「失礼いたしました。私の知人によく似ていたもので。私は、エルヴィン・ベラトールと申します。先の戦で男爵位を賜りました。騎士団長が証言をした殺人事件について詳細をお聞きしたくてお邪魔しております」


「私は領主のシンディー・フォーサイスです。詳細とは何を聞きたいのかしら?」


「殺人事件に関わった盗賊の特徴、アジト、どんな小さな情報でもいいので知りたいのです」


「領主様、男爵にシモンズ伯爵夫人は亡くなったのだから話すことはないと言っても、納得してくれないのです」

「だから、お嬢様は死んでないんだって!」


エルヴィンの叫びにも近い声音に、シンディーの眉がぴくっと動いた。


「男爵には私が対応しましょう。男爵、どうぞこちらへ」


シンディーの後を追い、エルヴィンは応接室へと案内された。




テーブルを挟んで二人は向かい合う。


「先ほど、伯爵夫人は死んでいないと言ってましたが、どうしてそう思うのですか?」

シンディーは極めて冷静な口調で問う。


「知人に聞きました。知人はシモンズ伯爵家のメイドから聞いたと教えてくれました」


「そうですか、夫人が生きているという噂を私も聞いたことがあります。ですが、人は面白おかしく噂を広めるもの。シモンズ伯爵がその目で夫人の死を確認し死亡届を出したと言うのに、それを疑うのはどうかと思いますが?」


「ですから、それが間違いだと言っているのです」


シンディーは手で額を押さえ、ふぅと小さくため息をつく。


「いったい何を根拠にそんなことを言うのか、私にはわかりかねます」


「……きました」

「えっ? 今なんと?」


「墓をあばきましたと申し上げたのです」

「なっ!?」

シンディーの目が驚愕で大きく見開かれた。

あまりの衝撃的な内容に愕然として、ただただエルヴィンを見つめることしかできなかった。


「俺は真実を知りたくて、夜中に棺の中を確かめました。そこには大きな石が三っつ置かれているだけでした。お嬢様は生きている。きっとどこかで俺のことを待っているのです。だから俺はお嬢様を探すために情報が欲しいのです」


「あなたは、どこにいるのかわからない夫人を探し出すつもりなのですか?」

「はい。絶対に探し出します」


「探し出してどうするのです?」

「もしもお嬢様が許してくれるのなら、俺はお嬢様と結婚します。俺はお嬢様の隣に立ちたい、その思いだけで武功を挙げて男爵になりました」


「ですが、見つけたところで夫人は身も心もボロボロになっているかもしれないのですよ。もしかしたら誰が父親なのかもわからない子だっているかもしれない。それでも良いのですか?」


「そんなこと、俺には関係ありません。俺はお嬢様が生きてさえいてくれれば、それだけで十分なのです。子どもがいたら、俺がその子を育てます」


シンディーはこめかみを両手で押さえて、はあと大きくため息をつく。

しばらく視線を落としていたが、覚悟を決めたように顔を上げた。


「あなたは、セレスティアが話していた通りの人なのですね」



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