84話 討伐依頼
「エルヴィン、あんたの活躍は他領でも評判になってるよ。俺の耳にもよく聞こえてきた。仕事が順調で良かったな」
半年ぶりに会ったドルスは至極機嫌が良い。
「ああ、領民にも喜ばれてるし、俺を慕って一緒に来てくれた仲間たちにも給金をたくさん払えるから良いことづくめだ。ところでお前が戻って来たってことは、頼んだことは終わったんだな?」
「ああ、エマーソン伯爵ってヤツは用心深いヤツだったから結構時間がかかったが、アイツにも焦りがあったようで、懐に入り込んだらあっという間だったぜ」
「焦りって?」
エルヴィンが知るエマーソン伯爵は、いつも落ち着き払った冷たい態度で人に接していた。
客人が来た際には体裁を繕って嘘の笑顔を貼り付けていて、焦った姿なんて見たことがない。
「あんたの大事なお嬢様の一件で、スコット伯爵が非人道的だと怒ってエマーソン伯爵の事業から手を引いたんだ。スコット伯爵を敵に回したら、他の貴族からの信用もガタ落ちでね。事業が上手く回らなくなったってことさ」
「そうか……。自業自得ってやつだな」
「ああ。アイツは今もあの屋敷で暮らしているが、屋敷も土地も抵当に入れている。追い出されるのも時間の問題だろう」
「ドルス、よくやった。感謝するよ」
「感謝するのはこっちだぜ。お蔭で面白い仕事ができたし、稼いだ金を組織にとられないんだから、こんなに嬉しいことはない。ああそれから、あんたに借りた金、利子をたんまりつけて返したから、銀行で確めてくれよ」
ドルスは狐顔の灰色の細い目を、さらに細めてニヤリと笑った。
寒くなると森の動物の中には巣穴で冬眠するものもいて、腹を空かせた魔獣は家畜を襲うことが増える。
エルヴィンのもとへ、魔獣討伐依頼の手紙が滞ることはなかった。
ドルスが戻って来て二か月ほどだった頃、執務室で書類仕事をしているエルヴィンに執事が一通の手紙を運んで来た。
魔獣の恐怖が払拭されたベラトール領の城下町には人が戻り、住民が増えたお陰で活気に溢れ経済も上手く回っている。
今では城に執事もメイドも諸々の使用人もいて、皆がそれぞれの仕事に誇りを持って働いている。
「旦那様、エマーソン伯爵家からお手紙が届いています」
「エマーソン伯爵家だって?」
エルヴィンが顔をしかめて手紙を受け取り、差出人の名前を見ると、書かれている名前はメリンダ・エマーソン。
なんでこいつが?
と訝しく思いながらエルヴィンは封を切る。
手紙を読んでいる最中に、マグヌ、フラギス、ドルスが入って来た。
「エルヴィン、また魔獣討伐の依頼か?」
マグヌが指をポキポキ鳴らしながら嬉しそうに問う。
「ああ、諸悪の根源からな」
「諸悪の根源って、あのお嬢様を虐めてたヤツのことだよな」
フラギスには、聞かれるままにメリンダの悪行を話したことがある。
「ああ、メリンダから魔獣を討伐して欲しいと依頼があった」
「だが、エマーソン伯爵家には、魔獣討伐を依頼できるほどの金はないと思うぞ。昔のよしみで、ただであんたに仕事をさせようってか? 厚かましい」
ドルスが鼻で笑う。
「どうする? 金にならないみたいだが?」
マグヌの問いに、エルヴィンは真面目な顔で答えた。
「お嬢様のとっておきの情報を教えるから、ただで魔獣を討伐してくれって書いているんだ」
「お前、そんな条件で本当に行く気か?」
「ああ、行かなければいけない気がする。アイツの言うことなんて、ろくでもないことはわかっているんだが、お嬢様の話を聞けるのは実際にアイツしかいないからな」
「わかったよ。お前について行くって決めたんだ。一緒に行ってやるよ」
「俺も行かなきゃゲートがわかんないだろ? ただ働きでも行ってやるよ」
「ははっ、俺はパス。身バレすると困るんでね」
エルヴィンは十人でチームを組み、ベラトール魔獣専門傭兵団はエマーソン伯爵邸へと向かった。




