79話 帰郷
戦場から引き上げたエルヴィンは、すぐにエマーソン伯爵邸のベンジャミンのもとに戻りたかったのだが、王都での凱旋パレード、王宮での授賞式、その後のパーティーなどで忙しく、すぐには戻れなかった。
今回の授賞式の一番の功労者はエルヴィンであるから、全てに参加し、絶えず胸を張っているようにとレックスから念を押されていた。
だから、凱旋パレードでは民衆の熱い視線と歓声を浴びながら馬に乗って堂々とした姿を見せた。
受賞式では、胸が破裂するのではないかと思うほどドキドキしながら、初めて国王の前に跪いた。
夜のパーティーでは着て行く服がなくて困ったが、レックスに紹介してもらった服屋で既製品のスーツを購入して事なきを得た。
今回の戦争の英雄エルヴィンに、一目会って話がしたいと言う輩に囲まれたときは、人のあしらい方がわからず難儀した。
まあそこは、困っているエルヴィンを見かねたレックスが間に入ってくれたので、無事にやり過ごすことができたのだが。
すべての式典からら解放され、エマーソン伯爵邸に戻れるようになったとき、エルヴィンの心は春の暖かな日差しに照らされているようだった。
ああ、やっとお嬢様に会える。
俺は約束通り生きて戻ってきた。
立身出世をした俺を、お嬢様に褒めてもらいたい。
エルヴィンがエマーソン伯爵邸の門をくぐったのは、六月、19歳になって一月たってからのことだった。
門をくぐった瞬間、いつもと違う何かを感じた。
しかし、それよりもまず祖父ベンジャミンに会いに行くことが先決だった。
四年ぶりに見るベンジャミンは、いつもと変わらずに太い腕で斧を振り上げマキ割りをしている。
「じいちゃん、ただいま。今帰ったよ」
「ああ、お帰り。お前が無事な姿を見てほっとしたよ」
「じいちゃん、手紙にも書いたけど、俺、男爵になったんだ。陛下から苗字をもらってエルヴィン・ベラトールって言う名前になったんだ。それから小さいけど領地ももらったよ」
「そうかそうか。エルヴィン、おめでとう。夢が叶って良かったな」
「う―ん、なんかじいちゃん、へんだ。暗くない? それと、門をくぐったときに違和感があったんだけど、裏庭を見てその正体がわかった。庭がきれいじゃない。庭師が仕事さぼってる?」
エルヴィンが覚えている庭は、木々が美しく剪定され雑草なんて一本も生えていなかった。
だけど久しぶりに見る庭は、剪定の仕方が雑で、ところどころに雑草の穂が風に揺れている。
「一年ほど前にな。スコット伯爵の紹介で来た使用人が全員辞めてあちらに戻ったんだ。そんときに、腕の良い使用人が一緒に辞めて、みーんなあっちへ行ってしまった。今ここに残っているのは、さぼり癖があるやつか仕事ができないやつばかりだ」
「じいちゃんも行きたいとは思わなかったのか?」
「わしにも声は掛かったんだが、お前が戻って来ると思って断ったんだ」
「そうか、俺がいない間にいろいろあったんだな。ところで、お嬢様は今でも追い出されてるのか? 会いたいんだけど、待ってたら出てくるかなあ」
「エルヴィン、実はな……」
ベンジャミンが重い口を開いて話しかけたとき、甲高い声が聞こえた。
「あらエルヴィン、久しぶりね。あなた男爵になったんだってね。使用人たちが噂してたわ」
「メリンダ様、どうしてこんなところへ?」
エルヴィンはムッとした顔を隠す気もなかった。
俺が会いたいのはお嬢様なのに、なんであんたが顔を見せる?
「ふん、何よその顔。私が邪魔だって言うの? 窓から外を眺めてたらあなたが見えたから、良いこと教えてあげようと思っただけよ」
良いこと? あんたが言う良いことなんて、どうせろくなもんじゃないだろ?
エルヴィンの不満顔はそのまま変わらず、睨むような視線をメリンダに向けている。
「はあ、まったく、愛想笑いぐらいしたら良いのに。それにしても残念だったわね。せっかく貴族になったのに、お姉様が死んじゃったなんてね。うふふ」




