77話 任務
エルヴィンはレックスに聞いてみた。
「将軍、アウステル軍は飲み水をどうしているかご存じですか?」
「そりゃあ、どこも同じだろう? 井戸を掘るか、川から水を汲み上げてるんじゃないのか?」
「将軍、実はアウステル軍が陣を構えている土地には、川も地下水脈もなく井戸を掘っても水は出てきません」
「えっ? どうしてお前がそんなことを知っているのだ?」
「昔、アウステル王国の歴史や文化を勉強した人から教えてもらったんです」
「ふむ……、それが本当なら、アイツらは水を遠方から毎日運んできてるってことになるな」
「そこで提案なのですが、少数精鋭のメンバーでアウステル国に潜り込み、水だけを狙うというのはどうでしょうか?」
「そうだな。水がなくなれば兵士のやる気もそがれるだろうし。やってみる価値はあるか」
「では、その役目を私にやらせてください」
「スクリーバの指も治ったことだし、ここはお前に任せよう。しっかりと任務をこなしてくれ」
エルヴィンは、五十三班の六人で、夜中に大きく迂回し山を越え、アウステル国に侵入した。
マグヌ、フラギス、モルン、スブテル、そして最近入隊してきたドルス。
エルヴィンよりも三つ年上のドルスの入隊志望理由は、かなり変わっている。
灰色の髪を一つ括りにしたドルスは、瞳の色も灰色で、細面の狐のような目をした男である。
体型も細く剣術も苦手とする彼は、兵士に向いているようには思えない。
二ケ月前に小規模の戦闘があった際に、エルヴィンが危機に直面していたドルスを助けた。
それに恩を感じたドルスが、本当の志望理由を話してくれたのだ。
「俺は詐欺師集団の一員なんだが、いっつも俺ばっかりが仕事して、金は組織に取り上げられるんだ。それで頭に来てね。だまし取った金を全部持ち逃げしてやろうって思ったら、なんでかばれちゃってね。金は取り上げられるし、命まで狙われるようになったんだ。アイツらから逃げ切るならここしかないって思ったのが、軍隊に入る理由だったのさ」
「詐欺師だなんて、自分からばらしてもいいのか?」
「俺が狙うのは、あくどいことして儲けた金持ちや貴族だけ。ここにいる奴らはターゲットにならないから安心しろ」
「だけど、わざわざ言わなくてもいいことを、どうして俺に打ち明けたんだよ?」
「あんたには命を救ってもらったからな。それにこれからだって、あんたは俺を守ってくれるんだろう? いつか俺の力が必要になったときは、俺があんたを助けてやろうと思ってね」
「詐欺師の力ねぇ。必要になるときなんてないんじゃないの?」
「人生何があるのかわからないから面白いんだぜ」
エルヴィン達は、水を運んでいる馬車集団をすぐに見つけることができた。
大量の水を詰めた樽を馬車が長い列を成して運んでいるのだから、そう難しいことではなかった。
護衛兵士が少ないのは、今まで水が狙われたことがなかったからだろう。
見つけたのは日暮れ近く、おそらく彼らはこの先の宿に泊まるのだろう。
今回の任務は戦闘ではない。
水が届かないようにすることが任務である。
夜中にこっそり忍び込み、樽にドリルで穴を開けた。
翌朝、樽が空になったことを知った兵士は慌てて引き返した。
一度目は簡単に任務を遂行できたが、次からはそうはいかない。護衛が増えて樽に近づけなくなった。
ならばと、運んでいる最中に樽を矢で射ぬいて穴を開け、すぐに逃げた。
時には簡易投石器を作って待ち伏せし、岩をぶちかまして破壊した。
何度も何度もしつこく地道な作業を繰り返し続けた。
「おそらく届く水の量が減ってしまって、戦場の兵士たちは混乱しているだろうな」
「ああ、これでやる気が削がれたらいいんだが」
エルヴィンの呟きに、マグヌが応えた。
そばにいたドルスが二人の会話に入って来た。
「あっちの兵士たちは気の毒だな。宰相のために命を削っているようなもんだから」
「何それ? この不毛な戦争は国王の命令じゃないのか?」
「アウステル王国の国王なんて、ただのお飾りで宰相の言いなりさ。この戦争がいつまでたっても終わらないのは宰相のせいなんだ」
「そこ、もっと詳しく!」




