74話 家族会議
フォーサイス領に戻ったセレスティアは、すぐにシンディーに相談を持ち掛け、家族会議が始まった。
「セレスティアの気持ちをまず聞かせてちょうだい。何よりもあなたの気持ちが最優先されるべきだから」
シンディーの司会で会議が進行する。
「わたくしはウイキヌス王国へ行こうと思っています。あの群衆の中から、お父様がわたくしを見つけてくれたのです。これはきっと、母が導いてくれたのではないかと思うのです」
「だが、王室と言うのは厄介なことが多いと聞く。ここにいる方がのんびりと幸せに暮らせるのではないかい?」
祖父のアウビスの心配はもっともなことであり、祖母ラビアがうんうんと頷く。
「そうは言っても、ここにいても死んだことになっているから、本当の意味での自由ではないと思うんだ。まあ俺としては医療チームで働き続けて欲しいとは思っているんだがね」
シンディーの夫ピートが言う。
「わたくしも、ディクスさんから学んだ医療技術をこれからも活かしていきたいと思っていたのですが、一つどうしても拭えない懸念があるのです」
「それは何なのかしら?」
「わたくしがシモンズ伯爵に嫁ぐにあたり、伯爵はエマーソン伯爵に高額の金銭を払っています。シモンズ伯爵は、すでに若い女性と再婚していますが、もしも私が生きていることを知ってしまったら、虚偽の報告をしたフォーサイス家の罪を問い、高額な慰謝料を請求して来ると思うのです。皆様にご迷惑をおかけするかもしれないと思うと、それが不安でなりません」
「そう。それがあなたの心を悩ませているのね。私たちのことは心配しなくてもいいのよと言っても、きっとあなたのことだから、ずっと不安を抱えながら生きていくことになるのでしょうね。」
「はい……。ですから、わたくしはこの国を出ます。ウイキヌス王国で新しい人生を歩もうと思います」
「セレスティアの決心は硬いようね。わかったわ。私たちはセレスティアの幸せを祈って送り出しましょう。」
セレスティアが父親エドマンドと約束をした日のちょうど一ケ月後に、迎えの馬車が到着した。
セレスティアは皆に別れを告げた後、馬車に乗り一人ウイキヌス王国へと旅立った。
17歳の誕生日を迎えて一ケ月後のことであった。
セレスティアがベルランテ王国を離れてウイキヌス王国へと向かう馬車に揺られている頃、戦場にいるエルヴィンは、この戦争がもうすぐ終わるという確信を抱いて、戦いに明け暮れていた平野を眺めていた。
ここまで来るのは並大抵のことではなかったが、どんなに苦しい時でも、いつもセレスティアから届く手紙に励まされていた。
上半分は祖父のベンジャミン、下半分はセレスティアの美しい文字が綴られている手紙。
森で見つけた鳥のひなが巣立ったこと。
雨上がりの庭のバラの花に、キラキラと輝く水滴を見つけた喜び。
四季折々の出来事の最後には、いつも国のためにしっかり働いて欲しい、武功を挙げて帰ってきて欲しいという言葉で結ばれている。
そもそもこの戦争にエルヴィンが大きく貢献できたのは、セレスティアから届く手紙のお陰だった。
そして戦況を大きく変えることができたのも、セレスティアあってのことだった。
エルヴィンに言わせてみれば、セレスティアこそ影の功労者なのである。
エルヴィンは、自分の運命を変えたあの日のことを思い出していた。




