73話 親と子
エドマンドは自分と同じ紫色の瞳に見つめられ、遠い過去の思い出と、その時の後悔で胸が締め付けられる思いがした。
目の前にいる娘は、クレアに似ているだけでなく、自分と同じアメジスト色の瞳を持ち、目元の辺りがよく似ている。
この娘は、自分の血を分けた我が子なのだ。
本来ならば、この城で親子として暮らしているはずだったのに……
「わかった。これから話すことは、過去の話であるが、私にとっては今もずっと忘れられず、手放すことができない記憶なのだ」
エドマンドは過去に想いを馳せ、言葉を選びながら、とつとつと話し始めた。
セレスティアもフレディーも、一言も聞き漏らすことのないようにと真剣な態度で聞いていた。
エドマンドの長い話は終わった。
話している最中に何度も感情が高ぶり、その度に目頭を押さえていた。
そして潤んだ紫色の瞳でセレスティアを見つめた。
「セレスティア、そなたは私の娘だ。血を分けた本当の娘なのだよ」
「陛下……、わたくしを娘だと認めてくださるのですか?」
「ああ、もちろんだ。私と側妃クレアの子だ」
「その言葉を聞き、亡き母も喜んでいると思います。ありがとうございます」
「ところでセレスティア、先ほど、そなたはローリアと名乗っていたが、何か事情があるようだな。良かったら教えてくれぬか。私でできることなら力になろう」
「へ、陛下……」
本当の血を分けた父親とは言っても、つい先ほど初めて会った人なのだ。
それなのに自分を娘と認め、こんなにも気遣い優しい言葉をかけてくれる。
それは、生まれてから十六年間一緒に暮らしていた父親には、一度も掛けてもらったことのない優しさだった。
セレスティアのアメジスト色の瞳から、ほろりと涙が零れた。
「陛下、お気遣いありがとうございます。私の話を聞いていただけますか?」
「ああ、もちろんだとも。時間はたっぷりある。どうか包み隠さず話しておくれ」
セレスティアは、自分と同じアメジスト色の瞳を見つめながら話し出した。
5歳のときに母クレアが亡くなり、エマーソン伯爵、後妻とその娘にずっと冷たく扱われていたこと。
実の娘ではないと告げられ、売られるように年の離れたシモンズ伯爵と婚姻を結ばれてしまったこと。
嫁ぐ道の途中で盗賊に襲われたが、騎士団に助けられたこと。
だけれど、攫われたことにして離縁をしてもらうつもりが、シモンズ伯爵に死亡届を出されてしまったこと。
「ですからわたくしは、今も死んだことになっているのです。パレードがあると聞き、一目本当の父親の姿が見たいと思っても、身分証を作ることができません。ですから従妹から借りたのです。不正入国をいたしましたこと、誠に申し訳ございません」
セレスティアは深々と頭を下げた。
「そなたはずいぶん苦労して生きてきたのだな。不正入国については謝らなくても良い。それよりもよく会いに来てくれた。私はそれがとても嬉しい。本来なら、そなたはこの水宝宮でクレアと共に暮らしているはずだった。不正入国などとんでもない。本来あるべき場所に戻って来ただけなのだ」
「そのように言っていただけて感謝いたします」
「私が言わんとしていることを、わかってくれているか? そなたが私の娘だと判明した今は、この国の王女として暮らしてほしい。ベルランテ王国では死んだことになっているのだったら、なおさらだ。この国で新たな生を受け生きて欲しいのだ」
「私はこの国で生きても良いと仰せなのですか?」
「そうだとも。手続きは私の方で済ませよう」
「ありがとうございます。寛大な御心に感謝いたします。ですが、フォーサイス領に住む家族に相談してからでもよろしいでしょうか?」
「ああ、シンディーたちに世話になったようだし、是非ともそうしなさい。一ケ月後に迎えの馬車を送るから、それに乗って来るがよい。嫌ならその時に断ってくれても良い。だが、私はそなたが来てくれるのを、首を長くして待っているよ。」




