69話 パレード
馬車の中には、セレスティアと従弟のフレディーが乗っている。
しかし今回の旅では、フレディーが兄、セレスティアは妹のローリアと言う設定である。
「フレディー、ごめんなさいね。わたくしのわがままに付き合わせてしまって」
「姉様、そんなことは気にしないでいいよ。姉様は、領民のために頑張ってくれてるじゃないか。ご褒美だと思って受け取ればいいんだよ。あっ、人前では姉様って呼ばないから安心してね」
「フレディ―、ありがとう」
昨夜の誕生祝いといい、旅立ちの準備も皆親身になって協力してくれた。
フォーサイス家の人々の心の温かさを、セレスティアは今さらながらに噛みしめていた。
王都に着いて宿をとり、翌朝通りに出てみたら、多くの人でごった返していた。
皆、一目パレードを見ようと、良い場所をとりたくて必死である。
そんな人々にずらりと並んだ警備兵が目を光らせ、ロープより中に入るなと怒鳴っている。
セレスティアは、水色の髪が目立たぬようにフード付きのローブを身にまとい、フレディーと護衛騎士は平民の服装で一緒に行動している。
「姉様、どこで見ようか?」
国王夫妻を直接見ることができるのは、パレードが通り過ぎる一瞬だけ。
だからできるだけ近くで見てみたいと思うのは無理からぬこと。
「できるだけロープに近いところから見てみたいわ」
「よし、今から場所取りだ。皆行くぞ!」
フレディーを先頭に、護衛騎士とセレスティアの四人が行き交う人をすり抜けて、前へ前へと進んだ。
できるだけ前へと進んだが、さすがに最前列は入り込む隙間がなく、二列目の場所をなんとか確保した。
待つこと二時間、沿道の人々がにわかに活気づいてきた。
「来たわ。騎士様よ」
「わ~、素敵!」
「さすが男前だわ。カッコいい!」
美しく飾り付けられた白馬に乗った正装の騎士たちが先導し、パレードが始まった。
騎乗騎士列の外側には歩兵隊がずらりと並んで歩みを進めている。
騎士たちにとっても晴れ舞台であるようで、皆胸を張り真面目な顔で恰好良く馬を操っている。
騎士たちの長い列が延々と続いた後に、国王夫妻が乗った馬車が見えてきた。
儀式用に美しく装飾されたオープン馬車に乗り、笑顔を絶やさず沿道の民衆に小刻みに手を振り続けている。
王妃は結い上げた黒髪に輝くティアラを装着し、真っ赤なドレスと黒い瞳が肌の白さを浮き上がらせ、振り続ける手と共に眩い美しさを振りまいている。
隣に座る国王は、光に輝く金髪にアメジスト色の瞳と彫りの深い端正な顔立ちが、まるで絵画から抜け出してきたような美しさである。
国王夫妻が乗る馬車が近づくにつれ、人々の熱狂は激しくなり手を振り歓声を上げ始める。
セレスティアはもうすぐ実の父親が目の前を通ると思うと、ドキドキしながらその時を待っていた。
「ちょっと、あなた、もうすぐ前を通るのよ。国王陛下の前でフードを被ってるなんて不敬ですよ」
おせっかいな婦人が、セレスティアのフードを引きはがした。
「あ、気がつかずに申し訳ありません。ありがとうございます」
目立たぬようにフードを被っているつもりだったのだが、確かにこの姿のまま国王を見るのは不敬だと思ったセレスティアは急いで礼を言った。
だが、婦人はセレスティアの言葉など聞こえなかったようで、夢中になって手を振り「国王陛下、王妃陛下、バンザーイ」と叫んでいる。
セレスティアも夢中になって国王を見つめた。
手を振りながら沿道の人々に目をやる国王、国王を見つめるセレスティア。
セレスティアと国王の間には、最前列の人々、警備兵、歩兵部隊、騎乗騎士が並び、目の前と言っても、その距離は遥か遠くに感じられる。
だが、目の前を通った瞬間、国王と目が合ったような気がした。
まるで自分を見つけてくれたかのように……。
わたくしを見つけてくれたように思うなんて……
そんなバカなことが頭に浮かんだのは、陛下のことを実の父親だと思っているからだわ。
きっと自分に都合よく見えただけなのだわ。
セレスティアは、そんな自分をふふっと笑った。
国王夫妻が通り過ぎても後方部隊のパレードは続き、民衆はそれにも歓声を上げながら見ていたので、セレスティアたちはしばらくその場から離れられずにいた。
パレードの前方からロープの内側を歩いてきた警備兵がいた。
キョロキョロと何かを探しているようだと思っていたら、セレスティアと目が合った。
「ああ、ここにいましたか。突然で申し訳ないのですが、お願いがあって参りました」
警備兵は物腰柔らかく丁寧な口調でセレスティアに話しかけた。
「お願いとは?」
「ここでは何ですから、場所を変えてもよろしいでしょうか?」
「彼女は私の連れで、護衛も二人います。私たちも一緒でもよろしいですか?」
すかさずフレディーが問う。
「もちろんでございます。では、こちらへ」
警備兵に案内されて到着したのは、なんと王城だった。
王城の門を抜けて水宝宮と呼ばれる宮殿の中に入り、四人は豪奢な部屋に案内された。
この部屋が何なのかはわからないが、壁に掛けている絵画や、煌びやかであるけれども品のある調度品などを見ると、賓客をもてなす部屋なのではないかと思われた。
「お茶をお出ししますので、どうぞお座りになってお待ちください。私はこれで失礼いたします」
「あの、お願いとは、いったい何だったのでしょうか?」
「ここに来て欲しいというお願いでございます。お聞き届けくださいましてありがとうございます」
セレスティアの問いに、警備兵は笑顔で答えて部屋から出て行った。
四人が椅子に座って待っていると、メイドがお茶と茶菓子を出してくれた。
「何か御用がありましたら、遠慮なくお申し付けくださいませ」
メイドが壁際に待機する中、フレディーも護衛騎士も緊張でお茶の味もわからなかったのだが、セレスティアは、国王と目が合った瞬間を思い出していた。
輝く金髪に端正な面立ちの国王陛下。
遠過ぎて瞳の色まではっきりと見えなかったけれど、わたくしと同じアメジスト色の瞳。
通り過ぎた瞬間、その瞳がわたくしを見つめたように見えた。
気のせいだと思っていたけれど、あんなにも多い民衆の中から、本当にわたくしを見つけたとでも言うのかしら?
しばらく待っていると、ノックの音と共に、ドアがガチャリと開いた。




