66話 心の内
「おば様、どうぞお入りになってください」
セレスティアはドアを開けてシンディーを部屋の中に招き入れ、二人はテーブルを挟んで向かいあって座った。
「あのね、セレスティア、用があってきたわけじゃないんだけど、一度ゆっくり話がしたかったの」
セレスティアがここに来てから、慣れることに忙しくて、シンディーとゆっくりと話す時間はなかった。
彼女はそんな自分を心配してくれているのだろうと思うと、有難いと思うと同時に申し訳ない気持ちになる。
「どう? もうここの生活に慣れたかしら?」
「はい。皆様がとても優しくて、本当に嬉しく思っています」
「そう、そう思ってくれているのなら良かったわ。ただ……、あなたが死んだことになってしまったことが想定外だったので、本当にそれで良かったのか心配しているの。あなたは戸籍上、この国にはいないことになってしまったのだもの」
「以前にもお話した通り、わたくしはそれでも良いと思っています。ここで無傷で生きていることが知られてしまったら、シモンズ伯爵の妻にならなければなりません。わたくしにはその方がよっぽど辛いことになるだろうと思います。ただ……」
セレスティアの歯切れ良い話し方が、急に弱々しく言葉に詰まった。
「ただ?」
「あの……」
「セレスティア、もしよかったら、あなたの心の内を聞かせてもらえないかしら? 私にできることなら、あなたを助けたいと思っているのよ」
「あの、おば様、わたくしには待っている人がいるのです。その人を待ち続けると約束したのです。行方不明のままだったら、きっとどこかで待っていると思ってくれるでしょう。ですが、死んだと聞かされたら、その人はどれだけの絶望を感じるのかと思うと……、それが辛いのです」
「そう、あなたには、そのような人がいたのね。今その人はどこに?」
「遠く離れた南の戦場にいます」
「その人は、あなたの恋人?」
「…恋人……?」
セレスティアは首を傾げてその言葉を噛みしめるように呟くと、顔を上げてシンディーを見つめた。
「そういう言葉では括りきれない人だと思います。もしわたくしが泥にまみれて沈んでいても、その人は自分が汚れるのを厭わずに、自分の命を投げうってでも中に入って抱き上げて、泥沼から救い出してくれるでしょう。そんな人なのです」
「そう。その人を深く信頼しているのね」
「はい。この世でわたくしが一番信頼している人なのです」
「セレスティア、よく話してくれましたね。いつか戦争が終わってその人が戦場から戻って来たとき、どうすれば良いのか一緒に考えましょう。私はあなたの幸せを一番に考えたいと思っているわ」
「おば様、ありがとうございます」
シンディーが部屋から出て行った後、一人残されたセレスティアは、シンディーの気持ちを有難いと思っているけれど、それは叶わぬことだとも思っていた。
エルヴィンに、わたくしが生きていることを話すわけにはいかない。
もしわたくしが生きていることが世間に知られたら、虚偽の報告をしたフォーサイス家が罪に問われることになる。
わたくしが、盗賊に攫われたことにして欲しいと我がままを言ったばかりに、フォーサイス家の人々を巻き込んでしまった。
すべてはわたくし一人の罪なのに、こんなに優しくしてくれるフォーサイス家の人々を、わたくしの罪に巻き込んではいけない……。
エルヴィン、ごめんなさい。
セレスティアは夜空に浮かぶ星を見上げ、遠くにいるエルヴィンを思った。




