65話 セレスティアの仕事
フレディーは、歩きながら話すのもなんだからと、セレスティアを食堂へ案内した。
案内された食堂は古い木造の店であったが、店内は人が多く活気があり、美味しそうな匂いが立ち込めている。
「ここは一般庶民向けの食堂で、安い値段で美味しい料理が食べられるんだ」
フレディーはニコニコしながら自慢げに語る。
「ここに来たことがあるのですか?」
「ああ。何度も来ている。パトロール中に騎士の皆と来たこともあるし、こんなふうに身分を隠してきたことも」
フレディーはこの店の自慢の料理だからと、鶏肉の串焼き、パン付きスープ、クレープの野菜巻きを頼んだ。
「それで、お願いとは何ですか?」
セレスティアが問う。
「フォーサイス領では、巡回医療チームと言うのがあってね。定期的に各村を訪問しているんだ。農民の中には身体が不調でも医者に行かない人が多くてね。だから、無料で検診してるってわけ。セレスティアにも医療チームに入って欲しいんだ」
「まあ、そのようなお話でしたら、喜んでお受けいたしますわ。お世話になりっぱなしでは申し訳ないと思っていたのです」
「良かったあ。じゃあ、城に帰ったら詳しいことを説明するね」
二人が話しているうちに料理は出来あがり、目の前に提供された。
肉の焼ける芳ばしい匂いが食欲をそそる。
だが、セレスティアはテーブルを見て困惑する。
「ん? どうしたの?」
「あの……、ナイフとフォークはないのですか?」
「ああ、これはこうやって串を手で掴んで食べるんだ」
フレディーが串を手に持ち、ぱくりと肉をくわえた。
「えっ? そのような食べ方、初めて見ました」
「じゃあやってみるといい。この方が美味いよ」
「は、はい…」
セレスティアはフレディーの真似をして、小さく可愛らしい口を大きく開けて、ぱくりと肉に食らいつく。
「ほんとだ。とっても美味しい」
口に広がる肉の旨味に、セレスティアの顔が自然にほころぶ。
「なっ、そうだろ?」
他の料理も、セレスティアは初めて見るものだった。
パン付きスープは、パンを手でちぎってスープに放り込んで、ひたひたにしてから食べること、クレープは手で持って食べることを学んだ。
そしてどれもとても美味しかった。
「セレスティアは食べ方もきれいだね。それにとても美味しそうに食べるから、見ていて気持ちがいいよ」
「えっ? そ、そうですか? ありがとうございます」
ナイフとフォークを使わなくても褒められたことに、セレスティアはちょっと嬉しくなっていた。
翌日から、セレスティアは医療チームに入って巡回検診について行くことになった。
薬草の知識は豊富でも、セレスティアは医者ではない。
医者の仕事を見て学ぶことから始まった。
医療チームのリーダーはディクス・パルマ、40歳の茶髪に黒い瞳の男性である。
着古した白衣が身体になじみ、この仕事が長いことが伝わってくる。
看護師の役割を担うのはカトレッタ、笑顔が優しい19歳の女性である。
グレーの質素なワンピースに白いエプロンとナースキャップを着用している。
少し前まではもう一人看護師がいたのだが、結婚と同時に辞めてしまったので、今回から加わるセレスティアのことを、二人は大いに歓迎した。
セレスティアは看護師の服装で馬車に乗り、三人が乗る馬車は村を巡回する。
馬車の中では、自然と話題がセレスティアの話になった。
「セレスティア嬢は薬草の知識が豊富だと聞いているが、それは本当かね?」
ディクスが興味津々の目を向ける。
「はい。以前住んでいた屋敷のすぐそばに、薬草が豊富な森がありましたので、薬草摘みはわたくしの仕事でもありました」
「それなら領内にも森や林があるから探して見るのも良いかもしれないな。薬屋で買うのは結構金がかかるんでね」
「私も薬草について教えて欲しいです」
カトレッタもその話に飛びつく。
「はい。わたくしでよろしければ喜んで。是非、森に連れて行ってくださいませ」
医療チームの三人は、予定の村を巡回し、セレスティアはディクスとカトレッタの息の合った仕事ぶりを見て感動し、自分も頑張ろうと思うのだった。
その夜、自分の部屋から外を見上げれば、数多の星が煌めいていた。
セレスティアが知っている星座も美しく光を放っている。
エルヴィンがいた頃、宿題で星座の名前とそれにまつわる伝説を一緒に覚えたことがある。
エルヴィンも戦場でこの星を見ているのだろうか……
セレスティアは、遥か遠くにいるエルヴィンに想いを馳せた。
コンコンコン
「セレスティア、今いいかしら?」
声をかけて来たのはシンディーだった。




