57話 シンディーとクレア
セレスティアがお母様と呼んだ女性は、セレスティアの母クレアと同じ水色の髪と水色の瞳で、顔もそっくりである。
背格好もまったく同じ。
十一年前に亡くなった母の面影よりも年をとっているが、記憶の母が年月を重ねればこうなるのだろうと思われる姿だった。
女性は大きく息を吸って心を落ち着かせると、セレスティアに歩み寄る。
「私はフォーサイス領の領主、シンディー・フォーサイスです。あなたのお名前は?」
「失礼いたしました。わたくしの名前はセレスティア・エマーソンと申します。盗賊に襲われていたところをご子息様に助けていただきました」
セレスティアも冷静を装い、淡々と挨拶をする。
だが、心の中は聞きたいことでいっぱいだった。
それはシンディーも同じようで「さあ、こんなところで立ち話もなんだから、早く中に入りましょう」と早速セレスティアを城の中に招き入れた。
応接室に入ると、すでにフレディーと、彼に連絡を受けたシンディーの両親が待っていた。
年老いた両親は、セレスティアを見て目に涙をうかべている。
セレスティアは、自分とフォーサイス家の人たちとの関係を、言われなくても察知した。
ここは母の実家なのだと……。
五人はテーブルを囲むようにして椅子に座り顔を見合わせたのだが、皆どこかよく似ている。
祖父の髪の色は水色で、シンディーとセレスティアと同じ色。
口元から顎にかけてのラインは祖母譲りなのだろう。
シンディーとフレディー、そしてセレスティアもよく似ている。
それぞれの雰囲気も似ているところから、五人は誰がどう見ても家族そのものであった。
祖父母はさっきからずっと泣いていて、ハンカチで涙を押さえている。
「あなたはクレアの娘なのね」
口火を切ったのはシンディーだった。
「私はクレアの双子の姉なの。ここにいるのはあなたの祖父母、そしてフレディーはあなたの従兄になるわ。ここにはいないけど、もう一人女の子の従妹がいます」
「初めまして、わたくしはクレア・エマーソンの娘のセレスティアと申します。わたくしに母方の親戚がいるとは聞いていなかったので、本当に驚いています」
「そうなのね。エマーソン伯爵は、あなたに何も教えなかったのね。私たちにも何も知らせてくれなかったから、彼はよほどフォーサイス家を恨んでいるのでしょう」
「失礼ですが、父が恨むほどの何かがあったのですか?」
「ええ。恨んでいるのは私もだけど……」
「あの、よろしければ、何があったのか教えていただけませんか? わたくしはつい最近、父の子ではないと聞かされました。そしていきなりシモンズ伯爵に嫁ぐことになったのです」
「先に戻って来た騎士団長から聞きましたが、よりにもよってシモンズ伯爵とは……」
シンディーは、それ以上は言えないとばかりに口を濁した。
「わたくしも伯爵の悪い噂は聞いております。ですが、父が決めたことですから従わなければなりませんでした」
「そうですか。エマーソン伯爵はそうとうねじ曲がっているようね。セレスティア、これから話すことは私が直接見たことと、クレアから聞いた話です。長い話になりますが最後まで聞いてください」
シンディーは古い記憶の箱を開き、とつとつと語り出した。
シンディーとクレアは五月に15歳の誕生日を迎えて、その秋に王都にあるアカデミーに入学した。
クリーム色のブレザーに紺のスカート、制服は学生なら皆同じなのに、輝く水色の髪と水色の瞳はアカデミーでも珍しく、その上双子の美人であるから人々の注目を浴びた。
特に男子学生が放って置かず、入学当初から声をかけられることが多かった。
しかし後継者であるシンディーには三年生に婚約者がいたので、それを理由にバッサリと断り続け、婚約者も寄って来る男たちに睨みをきかせていた。
クレアには婚約者はいなかったのだが、シンディーの容赦ない断り方を見て、きっとクレアにも婚約者がいるのだろうと皆が勝手に思い込み、いつしか二人を誘う男性はいなくなった。
クレアは姉のシンディーとは正反対の性格で、おとなしく自分の意見を主張するタイプではない。
そのせいか、自分に声をかける男性がいなくなっても、シンディーを恨むこともなく、かえって気が楽だわと笑って済ませていた。
二年生になって間もなく、王家主催の秋の舞踏会に二人は出席することになった。
シンディーは婚約者と一緒であったが、おとなしいクレアは自分からエスコート役を誰かに頼むことはせず、パートナーなしの参加となった。
その舞踏会でエマーソン伯爵と出会ったのである。




