56話 フォーサイス領主城
セレスティアに手を差し出した若い騎士は、セレスティアと同じくらいの年頃に見えた。
栗色の巻き毛と水色の瞳が美しい、鼻筋の通った美青年である。
その彼が、セレスティアの顔を見て言葉を失っている。
「あの、わたくしがどうかしましたか?」
「あ、すみません。失礼しました。僕の知っている人と良く似ているので驚いただけです。自己紹介が遅れましたが、僕はフォーサイス伯爵家の嫡男フレディーと申します。最近、我が領で盗賊が出たと連絡を受けたのでパトロールをしていました」
フォーサイス伯爵家は代々領主をしている古くからある家柄で、フォーサイス領はエマーソン伯爵邸があるリンドン領に隣接している。
セレスティアが行くはずであったシモンズ伯爵領に行く途中、地理的に少し横切る場所にある。
「そうですか。わたくしはセレスティア・エマーソンと申します。エマーソン伯爵の長女ですが、シモンズ伯爵との婚姻のためにシモンズ家の馬車で移動している最中でした」
「フレディー、話し中すまないが、ちょっとこっちへ」
年配の騎士がフレディーを呼んだ。
「少し失礼します」
フレディーが場を離れ、騎士のもとへと進む。
「可哀そうに、全員殺されている。ひどいことをするもんだ。彼女は?」
「シモンズ伯爵と結婚するために移動中だったそうです。殺されたのはシモンズ伯爵に雇われている御者と護衛ですね」
「このままにはしておけないな。葬儀屋に頼んでシモンズ伯爵家まで運んでもらおう。盗賊を運ぶ檻も必要だな。俺は先に城へ戻るよ」
年配の騎士は馬を走らせ、フレディーはセレスティアのところまで戻って来た。
「セレスティア嬢、私はいったん城へ戻ります。一緒に城へ行きませんか? その後でシモンズ伯爵領までお送りします。」
「ありがとうございます。ところで、わたくしと一緒にいた人たちは?」
「残念ながら、三人とも息を引き取った後でした」
「そうですか……。わたくしを迎えに来たばかりに、気の毒なことをしました」
「こればかりはあなたのせいではありません。どうか気に病まないで。ご遺体はこちらの方で運ぶ手配をいたします。」
「本当に何から何までありがとうございます」
セレスティアを乗せた馬車は行き先を変え、フォーサイス領主城へと向かった。
フォーサイス領は、農産物を主軸とした領地経営をしていることをセレスティアは知っていたのだが、のどかな田園風景が延々と続き、その規模に驚いていた。
領地が変われば産業も人の働きも変わる。
その当たり前のことを、感動しながら見ていた。
馬車は領主城についた。
城と言ってもさほど大きなものではなく、こじんまりとした可愛らしい城である。
セレスティアは、フレディーにエスコートされて馬車を降りる。
フレディーを迎えるために使用人や家族らしき人たちが待っていたのだが、突然の客に皆がセレスティアに注目する。
セレスティアは姿勢正しく前を見て降りていたのだが、視線が一人の女性に釘付けになった。
地面に降り立った後も彼女から目を外せず、それ以上、足を踏み出せない。
その女性も目を見張り、驚いて両手で口を押えている。
じっと見つめ合うセレスティアと女性。
二人が同時に声を出した。
「お、お母様?」
「ク、クレアなの?」




