53話 信じない
メリンダは、セレスティアが実は母クレアの不義の子で私生児なのだと必死になって訴えたが、ジョセフの表情はまったく変わらなかった。
「まったく君って人は……。どこまで家門の恥を他家にさらすのだろうね。彼女を伴侶と考えたのだから、きちんと調べたよ。セレスティアの両親が婚姻届を提出した日と、彼女の誕生日には何も問題はなかった。そして生まれた日に、彼女は嫡出子として登録されている。もしも君が言うように血のつながりがなかったとしても、彼女は戸籍上、伯爵が認めた実子なのだ。」
「そ、そんな……」
「僕は私生児だとか、そんな言葉を使いたくなかったけれど、君が言うからあえて言わせてもらうが、僕からしたら、君の方が私生児じゃないか?」
メリンダはジョセフの言葉に、全身の血が逆流するような怒りを覚えた。
幼い頃に虐げられた屈辱感がよみがえって来る。
「わ、私は私生児じゃないわ! 私はお父様の子どもなのに、あの人たちがいたから迎えに来れなかったのよ」
「どうして君が伯爵の子どもだと断言できる?」
「だって、瞳の色が同じだわ」
「その緑色は母親譲りの色だろう? 君は伯爵とはまったく似てないじゃなないか」
「違うわ、絶対に私はお父様の子よ。お母様とお父様は愛し合っていたのに、あの女が邪魔をしたのよ」
「まあ、そう考えるのは君の勝手だが、本当に愛し合っていたのなら、君は認知されてるんじゃないのか? 君は戸籍には養子としてしか登録されていない。君は伯爵に実子として認められていないんだ」
「そんな…、嘘よ。嘘だわ」
「もう一つ言っておこう。僕の父は伯爵が独身の頃から親交があってね。前奥方と結婚してからは、伯爵は激しく彼女に執着していたそうだ。屋敷から一歩も出さないほどにね。前奥方の生前、君の母親の話なんて聞いたことがないと言っていた」
「そんな話、信じない」
「信じようが信じまいがどうぞご勝手に。ああ、ずいぶん長く立ち話をしてしまったな。今まで僕がここに来ていたのは、セレスティアに会いたかったからだ。セレスティアがいない伯爵邸にはもう用はない。僕は二度とここには来ない。それから、君も二度と僕の目の前に現れないでくれ」
ジョセフは馬に乗ると、振り返ることもせず走り去った。
メリンダは立っていることができず、がっくりと膝をつき、小さくなっていくジョセフを呆けた目で見ていた。
「ジョセフ様はきっと私に意地悪したかったんだわ。だから嘘ばっかりついて……。お母様に本当のことを聞かなくっちゃ。私がお父様の子だって」
メリンダはよろよろと立ち上がり、重い足取りでナタリーの部屋に向かった。
ナタリーは、椅子に座って刺繍をしている最中だった。
「お母様、本当のことを教えて。私はお父様の子どもよね。お父さまと血がつながっているのよね」
泣きそうな顔をしているメリンダを見て、ナタリーはいったい何があったのかと訝しんだ。
そして、手にしていた刺繍を置いてまっすぐにメリンダを見つめる。
「メリンダ、どうしたの? 何故いきなりそんなことを?」
「ジョセフ様が言ってたの。私はお父様に認知されていないって。だからお父様の本当の子どもじゃないって……」
ナタリーは一瞬驚いた顔をしたが、まるで何かを観念したような表情に変わった。
「メリンダ、あなたも大きくなったのだから、本当のことを知っておいた方が良いかもしれないわね。私は一度もあなたが旦那様の実の子だと言ったことはないのよ。ただあなたがそう勘違いしていただけ。」
「勘違い?」
「5歳のあなたには、同じ色の目をした旦那様が本当のお父様に見えたのでしょう? でも、本当のお父様は違う人なの」




