51話 別れの挨拶
「お嬢様、私の物でよろしければ、白いショールを持っているのでそれをお使いくださいませ」
ケイトが気を利かせて大きな白いショールを持ってきてくれたので、セレスティアはそれで露出した部分を隠してようやくほっとすることができた。
「それでは、お父様にご挨拶をしてきますわ」
エマーソン伯爵は、いつも通りに書斎で仕事をしている。
娘が嫁ぐ日だと言うのに、まるで何事もないかのようにいつも通りに過ごしていた。
「お父様、お別れの挨拶に参りました」
「ああ、入ってもいいぞ」
セレスティアはエマーソン伯爵の前に立ち、にこりと会釈をする。
「お父様、わたくしは今からシモンズ伯爵様のもとへ嫁ぎます。今までありがとうございました。どうぞこれからもお身体ご自愛くださいませ。」
セレスティアは最高に美しいカーテシーで頭を下げた。
しかし、エマーソン伯爵からの言葉はなかった。
さして別れの言葉を期待していたわけではなかったけれど、ここまで冷たい態度で送り出されれば、かえって清々しい程この家と縁が切れるというもの。
セレスティアは、くるりと向きを変え、玄関先で待っている馬車に向かって歩き出す。
馬車の前までやって来て最後の別れを惜しんでくれたのは、ケイト、ダイアナ、執事、そしてベンジャミンの四人だけだった。
ベンジャミンの優し気な赤い瞳は、お嬢様お任せくださいと語っている。
セレスティアは口には出さなくても、ベンジャミンなら大丈夫と安堵する。
昨日、セレスティアはベンジャミンの家を訪ねた。
「ベンジャミンさん、今まで本当にありがとうございました。わたくしはエルヴィンに嘘をついてしまいました。こうなることはわかっていたのですが、こんなに早くこの日が来るとは思っていませんでした。最後にお願いがあるのですが」
「お嬢様、突然のご結婚、本当に驚きました。どうかエルヴィンのことは気にせずにお幸せになってください。私にできることなら願い事でも何でもおっしゃってください」
「ありがとうございます。ではこれを」
そう言ってベンジャミンに小箱を渡した。
「それでは皆様、ごきげんよう」
セレスティアを乗せた馬車はバラの咲き乱れる庭をゆっくりと走り、エマーソン伯爵邸の門を抜けて出て行った。
メリンダは、二階の窓からセレスティアを見ていた。
下に降りて笑ってやろうかとも思ったが、今日は相手が悪い。
馬車の御者も護衛の二人も、シモンズ伯爵の使用人である。
彼らの前であざ笑うのは止めた方が良いし、かと言ってしおらしく別れを惜しむ気にもなれなかった。
だからこうして二階の窓から見ていたのだが……
それにしても嫌な女。最後まで微笑みを崩さずに堂々として。
どうして泣き叫ばないのよ。
どうしてもっと辛い顔をしないのよ。
メリンダは小さくなっていく馬車を見て、ぐっと唇を噛んだ。
セレスティアが乗った馬車が出て行って一時間ほどした頃、一頭の馬がエマーソン伯爵邸を目指して猛スピードで走って来た。
二階の窓からそれを見たメリンダは、初めの内は誰だかわからず訝し気に見ていたが、それが誰なのかわかったとたん、大声を出した。
「ジョ、ジョセフ様! どうしてここに?」




