49話 メリンダの過去
良い人を選ぶと言う意味は、一番金払いの良い貴族を選ぶということだった?
ああ、目の前がくらくらする……
「お父様、それではまるで、わたくしを売ったように聞こえます」
「当り前だろう。私はお前を売ったのだ」
「そ、そんな……」
「私はこの日をずっと待っていた。いつかお前を売る日をな。」
「お父様、どうしてそんなことを?」
「私はお前の母クレアを、大金をはたいて買ったのだ。それなのに、クレアは私を裏切った。わたしはそれが許せなかった。お前を売って金を返してもらうことの何が悪い?」
「お母様を買った? お母様が裏切った? わたくしには何のことだかわかりません」
「本当はお前だって気がついていたんじゃないのか? お前は私の子ではない。血など繋がっておらんのだ」
脳天を思いっきり殴られたような気がした。
わたくしはお父様の子ではない?
全然似ていないから、もしかしたらと思ったことはあったけれど、それでもお母様が不義をはたらくはずがないと思っていた。
だから、そんなはずがないと……。
だけど、違っていたの?
もしそうだとしたら、今までのすべてのことが腑に落ちる。
メリンダから守ってもらえなかったことも、お父様の冷たかった態度も……。
「お父様は、わたくしが憎かったのですか?」
「ああ、憎い、憎くてたまらない。もうお前を見ないですむと思ったらせいせいする」
セレスティアは、感情をあらわにした父親の顔をじっと見つめた。
普段冷徹で、こんなに顔を歪ませて感情を爆発させる父親を見たことがない。
「そうなのですね。わかりました。そこまで憎まれていたとは……。お父様、わたくしのために煩わせてしまって申し訳ございませんでした」
セレスティアは、最後に深く頭を下げて書斎を出た。
自室に戻ってからもしばらくは何をする気にもなれず、ベッドに身体を投げ出し、ただただ生きる屍のようにぼーっとしていることしかできなかった。
メリンダは、ドアの隙間から一部始終を見ていた。
嬉しくて嬉しくて、顔が熱く上気してくる。
お姉様はお父様の子どもではなかった。
やっぱりそうだったのよ。
私が思った通りだったわ。
ああ、嬉しい。お父様の子どもは私だけなのよ。
だってお父様は私を迎えに来てくれたんだもの。
メリンダが物心ついたときには、すでに父親はいなかった。
祖父は男爵家の分家で、その家に祖父母と母ナタリーとメリンダの四人で暮らしていた。
時々本家の子どもと顔を合わせると「お前は父親がいない私生児だ」と言って蔑まれた。
その度に、悔しくて泣きながらナタリーに問うた。
「お母様、私のお父様はどこにいるの?」
するとナタリーは決まってこう答えた。
「お父様は遠いところにいるの。今は事情があって会えないけれど、いつか迎えに来てくださるわ」
幼いメリンダは、父親がいつか迎えに来てくれると、玄関の外に立って待ち続けた。
でも、いつまでたっても父親は現れなかった。
だが、5歳の誕生日を過ぎた日に、母親に紹介されたのだ。
「メリンダ、お父様よ。ご挨拶しなさい」
目の前の父親は、自分と同じ緑色の目をしている。
髪の色は少し違うけれど、茶色だから似たようなものだ。
ああ、やっとお父様が迎えに来てくれたんだと思った。
もう本家の子どもにバカにされることはないんだと。
前の奥様が亡くなったからだと聞かされたけれど、メリンダにとってはそんなことはどうでもよく、父親と一緒に暮らせるようになったことが、ただただ嬉しかった。
ウキウキした気持ちで馬車に乗り、屋敷に着いたら目の前の屋敷はすごく大きかった。
今まで住んでいた祖父の家とは桁違いに大きい。
お父様はお金持ちだったんだと思うと、ますます嬉しさが込み上げてくる。
だけど、屋敷の中に入ると女の子がいた。
メリンダと同じくらいの女の子。
水色の髪と紫の瞳がとっても可愛らしい妖精みたいな女の子が。
その子は、メリンダが買ってもらったことがない高級そうな可愛らしいピンクのドレスを着ていた。
だけど、その子はお父様とは髪の色も瞳の色も全然違う。
顔だってちっとも似ていない。
きっとこの子はお父様の子どもじゃない。
私が本当の子どもなのに、この子とこの子の母親がいたから、お父様は私を迎えに来られなかったんだわ。
今まで私がいじめられている間、この子はこんなに大きいお屋敷で大切に育てられていたなんて……。
メリンダは悔しくて悔しくて仕方がなかった。
幼心にセレスティアへの憎悪を抱いた瞬間だった。
本当なら私がもらえていたものを、取り返したっていいでしょう?
憎くて大嫌いだったお姉様、やっとこの家から出て行くのね。
それも、年寄りに売られて出て行くなんてね。
いい気味だわ!
ふふっ、お姉様の無様な顔でも見に行くとしましょうか。




