48話 結婚相手
カーテシーの挨拶の後、顔を上げるとシモンズ伯爵がつかつかとセレスティアに歩み寄って来る。
そしてセレスティアの手を握ると、その甲に口づけた。
セレスティアはギョッとしたが、振り払うのは失礼だと思い、微笑の仮面をつけたままじっと我慢する。
シモンズ伯爵はセレスティアの手を握ったまま、らんらんと興奮したような目をして言った。
「あなたをお待ちしていますからね」
言葉の意味がわからない。
次はこちらから訪問すると言うことなのだろうか?
返事に困っていると、シモンズ伯爵は最後に手をなでて「ではまた」と言って馬車に乗り込んだ。
いったいあれは何だったのだろう?
そう思っていたのだが、その答えをセレスティアは二時間後に知ることとなる。
領都から帰って来たメリンダが、いきなりセレスティアの部屋に入って来たのだ。
「ちょっと、お姉様、聞いたわよ!」
嬉しそうに叫ぶメリンダを見て、きっとこれは良くないことなのだとセレスティアは思った。
メリンダが屋敷に戻った際に、使用人たちの雰囲気がいつもと違っていることに気がついた。
使用人のおしゃべりをこっそり隠れて聞いていると、面白そうな話が聞こえてくる。
「いくら何でもお可哀そうだわ」
「すぐに飽きて替えてしまうんですって」
我慢できなくなったメリンダは、使用人の前に進み出た。
「ちょっとあなたたち、その話をもっと詳しく聞かせてくれる?」
使用人から無理やり話を搾り取ったメリンダは、意気揚々とセレスティアの部屋にやって来たのだ。
「お姉様、結婚おめでとう!」
「メリンダ、何を言っているの?」
まったく意味がわからない。
何を根拠にそんなことを……
とセレスティアは思ったのだが、それを打ち消すように、メリンダの意地の悪い笑みを浮かべた話が続く。
「今日来たシモンズ伯爵のことじゃない。良かったわね。気に入られて。でもね、私、使用人が話してるのを聞いちゃったのよね。シモンズ伯爵は若い娘にしか興味がなくて、飽きたらポイって捨てるんですって。ふふふっ、お姉様もすぐに捨てられるわね。あはははは」
「わたくしは何も聞いていません」
「だったらお父様に聞きに行ったらいいわよ。本当のことだってわかるから。あはは」
メリンダの話の真偽はわからないが、直接父親から聞いた方が早いと思ったセレスティアは、エマーソン伯爵がいる書斎に向かった。
「ふふっ、面白そうだわ」
メリンダも後に続き、扉に隠れて中をこっそり覗き見る。
「お父様、お聞きしたいことがあって参りました」
あらお姉様、いつも落ち着き払っているくせに、今日は焦って震えているじゃない。
メリンダはワクワクしながら二人の会話に耳を傾けた。
「何が聞きたい?」
エマーソン伯爵の重々しい声が響く。
「わたくしとシモンズ伯爵が結婚すると聞いたのですが、それは本当ですか?」
「ほう、誰に聞いたのか知らんが、まあ良い。明日にでも話すつもりだった。お前とシモンズ伯爵は結婚する。いや、もう婚姻は成立したがな」
婚姻が成立した?
セレスティアは意味がわからず混乱し、足が震えて立っているだけでも精いっぱいだった。
「成立したとはどういうことでしょうか?」
「シモンズ伯爵はお前の接待に感激し、是非とも嫁に欲しいと言ってきたのだ。元々初めからそのつもりであったのだが、お前を見てますます気に入ったと言っていた。だから先ほど婚姻届を書いたのだよ。伯爵は明日神殿に提出すると言ってたぞ」
「そ、そんな……、わたくしに何の相談もなく?」
「相談? 何故そんなものが必要なのだ? お前の結婚相手は私が決めると言っていたではないか?」
「ですが、お父様は、わたくしの結婚相手はできるだけ良い人を選ぶとおっしゃっていたではありませんか?」
「ああ、そうだ。だから私は選んだのだよ。一番金払いの良い貴族をね」




