47話 接待
「シモンズ伯爵、遠路はるばる来てくれて感謝する。昼食はまだだろう? まずは一緒に食事でも」
エマーソン伯爵はシモンズ伯爵を食堂まで案内し、セレスティアもそれについて行く。
父親の個人的な客人と一緒に食事をするとは思っていなかったのだが、セレスティアはつい先ほど、エマーソン伯爵から一緒に昼食をとるようにと言われていた。
家主のエマーソン伯爵は食卓の中央につき、シモンズ伯爵はその右隣に座った。
セレスティアは二人から離れた位置に座ろうとしたのだが、エマーソン伯爵がそれを遮った。
「セレスティアは、我々の向かいに座りなさい」
使用人が椅子を引き、セレスティアのサポートをしたので言われるままに座ると、そこはシモンズ伯爵の正面の位置になっていた。
出された料理は贅を尽くしたもので、エマーソン伯爵がどれほどシモンズ伯爵を大切にしているのかがうかがい知れる。
食事をしながらの会話は、もっぱらシモンズ伯爵領の農産物や事業の話になったので、セレスティアは上手に相槌を打ちながら聞いていた。
時には質問もされたので、それについても失礼のないように心がけて答えた。
「セレスティア、シモンズ伯爵がお前のピアノ演奏を聴きたいそうだ。この後、披露しなさい」
これもおもてなしの一つだと思ったセレスティアは、心を込めてピアノを弾いた。
難しい曲ではなく、退屈させないように誰もが知っている曲目を選んだ。
「ああ、素晴らしい。見事な演奏だ。」
演奏が終わるとシモンズ伯爵は手を叩いて喜んでくれたから、おもてなしは成功したようだと思う。
「それではセレスティア、庭を案内して差し上げなさい」
庭はバラが満開で、美しいだけでなく良い香りも立ち込めている。
セレスティアは、バラの名前を話題にしながら案内すれば良いと考えていた。
「それではご案内いたします」
「よろしくお願いします。ではどうぞ」
シモンズ伯爵はセレスティアに腕を差し出した。
これはエスコートをすると言う意味だとフローレンスに聞いている。
『意に添わないけれども相手に恥をかかせたくない場合は、そっと手を添えるか服を摘まむだけにして、腕を組んだり掴んだりしないように』
師の教えを思い出し、ああ、まさしく今がこれなのねと思う。
「ありがとうございます」
セレスティアはそっと手を添えたのだが、シモンズ伯爵の手がにゅっと伸びて来てセレスティアの手を掴んだ。
「セレスティア嬢、しっかり掴んでくださいよ」
「あの、手を……」
「女性をエスコートするのは紳士の務めですから」
そう言いながら、シモンズ伯爵はセレスティアの手を撫でまわした。
肉厚の手のひらのじっとりと湿った感触が自分の手に伝わる。
その瞬間、セレスティアの背筋にぞわっと悪寒が走った。
怖くなって手を離そうとしたが、しっかり掴まれて腕から離せない。
結局、腕に添えた手を掴まれたまま、庭を歩くはめになってしまった。
だが、父親の大切な客人に失礼なことはできず、セレスティアはそのまま初めに計画していた通り、バラの名前を話題にしながら庭を案内する。
微笑みの仮面をつけて……。
庭の案内が終わって屋敷に戻ると、エマーソン伯爵がシモンズ伯爵と二人だけで話したいと言うので、やっとセレスティアはお役御免となった。
ほっとして自室で休憩していたのだが、なでられ掴まれた手の感触が思い出されてどうも気持ちが悪い。
客人に対して失礼だとは思うのだが、こればかりはどうしようもないことだった。
後は、最後のさようならの挨拶をするだけだからきっと大丈夫。
もうすぐ接待は終わるわ。
シモンズ伯爵が帰る際、いつものように客人を送り出すためにセレスティアは外に出る。
「本日は楽しい時間をありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
口先だけの社交辞令を、偽りの微笑みを貼りつけてセレスティアは口にする。
そして美しいカーテシーで敬意を表した。
これで終わりだと思っていたのに、予想外のことが起きた。




