44話 招かざる客
足取り重く応接室に到着し、ジョセフはドアをノックする。
「どうぞお入りください」
この声を聞いて、ジョセフは大きくため息をついた。
うんざりする。
こんなところまで追いかけてくるとは……。
中に入ると、ソファに座ったメリンダが、満面の笑みを浮かべてジョセフを食い入るように見つめてくる。
しかたなしにテーブルを挟んだ正面の椅子に座る。
「ジョセフ様、お会いしたかったです。制服がよくお似合いですわ。とってもカッコいいです。」
「お久しぶりですね。ところで王都には何か用事でも?」
「ジョセフ様にお会いしたかったのですわ。最近私に会いに来てくれないのですもの。それと、一度アカデミーを見学しておいた方が良いと思って。私も来年アカデミーに入学したくて、お母様に連れてきてもらったんです」
ジョセフはその言葉を聞いて怪訝な顔をする。
「エマーソン伯爵は、女性にはアカデミーは必要ないというお考えのようですが?」
「あっ、そ、それは、お姉様だからですわ。お父様は私には甘いから……、きっと大丈夫ですわ」
甘い? 野放しにしているの間違いじゃないのか?
ジョセフはそう思ったが口にするのは止めておいた。
「そうですか。それでは用も済んだことですし、僕はもう失礼しても?」
「あ、あの、ジョセフ様、私にアカデミーを案内してくれませんか?」
はあ? 何故僕が?
と思ったが、やっぱりそれも口に出さなかった。
メリンダは一度言い出したら止まらない。
思い通りにならなかったら癇癪を起こす。
ここはさっさと案内して帰ってもらう方が上策だろう。
「昼休みはもうすぐ終わるので、それまでなら案内しましょう」
「本当ですか? ありがとうございます」
ジョセフは歩きながら校舎の説明を始める。
メリンダは嬉しそうに、ジョセフにぴったり寄り添って歩いているのだが……
「キャッ!」
小さな悲鳴を上げてジョセフに抱きついた。
「ごめんなさい。石に躓いてしまって」
ジョセフは、小さなため息をついた。
今歩いている場所は綺麗に舗装されていて、躓くような石など落ちていない。
「大丈夫ですか?」
「はい。ジョセフ様が助けてくれたから」
ジョセフはメリンダと距離をとろうとしたのだが、メリンダはそのまま自然な流れでジョセフの腕に抱きついて歩き出す。
すれ違う皆が、ジョセフとメリンダを不思議そうな顔で見ている。
中には嫉妬の目を向ける令嬢も。
ジョセフの顔は、アカデミーの中でも群を抜いて美形である。
メリンダは、門をくぐったところからそれを感じていた。
サラサラの輝く金髪に、宝石のような知的で美しい青い瞳。
そして整った鼻筋。
ジョセフは数年前からぐんと背が伸び、今ではスラッと背が高い美青年になっている。
誰もが振り向きたくなるジョセフを、独り占めにしている優越感。
ジョセフの腕を抱いているメリンダの顔を見ると、そんな気持ちが手に取るように誰にでもわかる。
いつも冷静なジョセフだが、今回ばかりは怒りを感じた。
「メリンダ、手を離してくれないかな? ここはこんなふうに歩く場所じゃないんだ」「あ、ご、ごめんなさい」
メリンダはしぶしぶ手を離し、ジョセフはやっとほっとする。
エマーソン伯爵邸から王都まで三日かかる。
母親に頼んでわざわざ会いに来るなんて、その執着性には恐怖すら感じるが、ある意味すごいとも思う。
とりあえず、メリンダの要望は聞いたから、癇癪を起こさないとは思うのだが……
ジョセフは、遠く離れた場所にいるセレスティアの身を案じた。




