37話 戦場
「俺は元々騎士になりたかったんだよな」
馬車の中でそう話し出したのは、実技試験の際に知り合った大柄のマグヌだ。
「なんで騎士になるのを止めて軍隊にしたんだ?」
エルヴィンの問いに、マグヌは頭をかいた。
「ははっ、何度も挑戦したけど、受からなかったんだ。だから諦めてこっちにしたって言うわけだ」
マグヌが言うには、騎士になるには武術の試験だけでなく、上位貴族並みの教養が必要らしい。
その試験が半端なく難しく、マグヌは毎回教養試験の点数が足らなくて不合格になったと言う。
エルヴィンが暮らすベルランテ王国は、兵士と騎士の身分を明確に分けている。
騎士になるには、年に一度の王都で開かれる騎士試験に合格しなければならず、その難しさ故に合格者も少ない。
晴れて騎士の資格を得た者は、自ら選んだ領主に士官を申し出ることになるのだが、もしその領主に採用されなくても、他の領主からも引く手数多なので仕事にあぶれることはない。
最も尊く人気の士官先は王宮騎士団なのだが、これはよほどの成績上位者でなければ入団できず、暗闇に針の穴を通すようだと言われている。
片や兵士は、主だった都市で年に何度も試験がある。
平和な時代ならば募集人数は少なく、国境警備が主な仕事であるのだが、戦争中は話が違って来る。
戦地で戦闘不能になった兵士の代わりを補充しなければならず、体力とやる気さえあれば15歳以上なら誰でもなれる。
現在は南の国境でアウステル王国と戦闘中であるため、大量の兵士が各地から南に運ばれている状況だ。
エルヴィンたちが向かっている戦場は、ベルランテ王国の南端にあるゴルデス領で、国境線を死守することが任務となっている。
五百年前の建国当初、ゴルデス領はアウステル王国の領土であった。
しかし、人が住みにくく土地がやせており、農産物による収入も見込めず、結果、国民にも王にも見捨てられた土地になっていた。
ところが、三百年ほど前にベルランテ王国の国王がその土地を買い取り、何代にもわたって土地を改良し、領民の暮らしやすい土地へと変えた。
今までは両国間に問題は生じず平和に暮らしていたのだが、五年前にゴルデス領に金鉱が発見されてから事態は一変する。
アウステル王国が、もともと我が国の土地にあった金鉱なのだから、地下に存在する金鉱は、わが国のものであると主張したのだ。
三百年前に正式にベルランテ王国の領土となったのだから金鉱は譲れないと国王は主張したのだが、ある日突然、アウステル王国が宣戦布告し武力行使に出た。
それに対抗するために、ベルランテ王国は二万人の兵士を国境に送り、攻防戦を繰り広げて国境を死守したのだが、戦闘はそれで終わらなかった。
その後もこの土地を巡って両国間の戦闘が繰り返され、それは今も続いているのである。
エルヴィンたち三十名が戦場に到着すると、人員が欠けた班に配属される。
六名で一班が構成されるのだが、先の戦闘で多くの死傷者がでたため、エルヴィンは親しくなったひ弱なフラギスと大柄のマグヌと同じ、第五十三班に配属された。
その戦闘で多くの死傷者が出たのはアウステル側も同じで、現在は軍隊の立て直しの時期となり、戦闘のない睨み合い状態が続いている。
エルヴィンが到着して一ケ月後の夜、突然の戦闘が始まった。
「奇襲だ! 敵発見、全員戦闘態勢につけ!」
号令が、夜の幕舎に響き渡った。




