36話 入隊試験
訓練場に着くと、すでに二十人の男が待機していた。
屈強そうな男もいれば、こいつが戦場に?と疑いたくなるような細くてひ弱に見える男もいる。
きっとそれぞれ事情を抱えて入隊試験を受けに来たのだろう。
本日の予定の五十人の面接が終わり次第、実技試験が行われる。
それまでは自由にしていて良いと言われたので、エルヴィンは隣でぼーっと立っているひ弱そうな男に声をかけた。
年は自分より少し上だろうか。
「すいません、俺、エルヴィンって言うんですけど、入隊試験を受ける目的は何なのですか?」
「あっ、お前、今、俺のことひ弱そうなのにって思っただろ?」
「いえ、そんなつもりは……」
エルヴィンは、図星を刺されて焦った。
「まあ、みんな俺を見たらそう思うわな。俺の村はここ数ケ月、食糧難でな。まともに食えていないんだよ。俺がここに来たのは食うためだ。入隊できれば三食食べられて、給金だってもらえる。死んだら遺族手当だってもらえるんだ。だからだよ。ところでお前さんは?」
「俺は、武功を挙げて立身出世をするのが目的です」
それを聞いていた大柄の屈強そうな男が中に入って来た。
「おい、お前、軍隊はそんなに甘くないぞ。俺たちのような平民は前線に出されて、真っ先に殺されるんだ。武功を挙げる前にな。ところでお前、いい筋肉してるな」
「えっ? どうもありがとうございます」
エルヴィンよりも筋骨隆々の男に褒められて、エルヴィンは嬉しそうに礼を言う。
ひ弱そうな男はフラギス、大柄の男はマグヌと名乗った。
どちらも気さくに話せる男である。
しばらく待っていると、全員で四十人の男が訓練場にそろった。
この中で一番年齢が低いのはエルヴィンであったが、身長は他の誰よりも高く、二番目に高い男よりも拳一つ分ほど抜き出ている。
「では、順番に腕を見せてもらおうか。藁人形に得意な得物で攻撃してくれ」
訓練場の広場に、四十体の藁人形が設置された。
番号と名前を呼ばれたものから順番に、手にした武器で攻撃を開始する。
多くの者が長剣で藁人形を切りつけたのだが、平民の多くは、まともな訓練を受けていない。
剣を振る姿はへっぴり腰で、中には切りつけたとたんに尻もちをつく者もいた。
「次は俺の番だな」
見るからにひ弱なフラギスが剣を構えた。
上段に構えたその姿は、意外としっかりしている。
「ヤアー!」
掛け声とともに剣を振り下ろし、スパッと藁人形が左右に切り割かれた。
「お前、やるじゃないか」
大柄のマグヌが感心して褒めると、フラギスはふふんと鼻を鳴らす。
「畑仕事で鍬は毎日振り下ろしているからな。それに何と言っても、朝からたくさん飯を食ったからな」
マグヌの番になった。
マグヌは入隊するために剣の稽古をしてきたようで、剣さばきは見事なものだった。
スパンスパンと切り刻み、あっという間に人形の姿が藁屑に変わった。
次にエルヴィンの名前が呼ばれた。
「俺の得物は弓と剣と斧の三種類です」
「始めよ」
エルヴィンは初めに弓を構えて矢を放ち、矢は見事に藁人形の心臓を射抜いた。
次に剣で攻撃し、藁人形は縦と横にスパッと切り割かれた。
最後は斧を使って、藁人形を立てている木柱をぶった切ると、見ていた受験者から拍手が自然と湧き上がった。
「いい動きをしているな。活躍が期待できそうだ」
「ありがとうございます」
試験官から褒めてもらえて、エルヴィンは恥ずかしそうに頭をかいた。
「ここで三日間訓練をした後、現地に移動する。今から兵舎に案内するからみんなついて来い」
結局、合格したのは三十人で、翌日から三日間、厳しい訓練でみっちりとしごかれた後、皆は馬車で南の国境にある戦場へと向かった。




