35話 王都へ
エルヴィンの力強い腕に優しく包まれ、逞しい胸に顔を預けてセレスティアは言葉を続ける。
「エルヴィン、これからは、わたくしは一人で薬草を摘まなければなりません」
「申し訳ございません。どうか森の奥には行かないでくださいね」
「エルヴィン、宿題をあなたに手伝ってもらうことができなくなります」
「一人にさせて申し訳ございません」
「ダンスの練習も、相手がいなくなります」
「今までありがとうございました」
「馬車のエスコートを、他の誰かに頼まないといけません」
「その幸運な男に、俺は嫉妬してしまいそうです」
「エルヴィン、わたくしは待っています。あなたが帰って来ることをずっと待っています。だから絶対に死なないで」
「お嬢様、俺は絶対に死にません。必ず武功を挙げて帰って来ます」
「あなたが武功を挙げて帰って来ると、わたくしは信じています。けれど、もし命の危険が迫ったら、武功を挙げることなんて忘れて、どうか逃げてください。お願いです。わたくしは待っているから、どうか生きて帰って来てください」
「お嬢様、約束します。俺は出世して必ずお嬢様を迎えに来ます」
「エルヴィン、出世なんてどうでもいい。あなたが生きて帰って来ることがわたくしの望みなのです」
「お嬢様!」
エルヴィンはセレスティアをぎゅっと強く抱きしめた。
それまで抱かれているだけだったセレスティアも、震えながらもエルヴィンにそっと腕を回す。
「お、お嬢様……」
腕の中にすっぽりと納まるこの美しく可愛らしいお嬢様を離したくない、ずっと抱きしめていたいと心から思う。
だが、時間は残酷で、王都に向かう馬車の時間が迫っている。
「お嬢様、ありがとうございました。それでは行ってまいります」
エルヴィンは胸が張り裂けそうな思いで、セレスティアを自分の身体から離した。
「ええ、行ってらっしゃい」
エルヴィンは最後にぺこりと頭を下げると、後ろを振り返らずに歩いた。
涙がボロボロと頬を伝っているけれど、拭うこともせずにそのまま歩き続けた。
セレスティアはエルヴィンの後ろ姿を見送りながら、泣きたくなるのをぐっと我慢していた。
けれど、感情を最後まで抑えることができず、涙がひとしずくぽろりと流れ、その後は堰を切ったようにぽろぽろと涙が零れ落ちるのだった。
「お嬢様、本当にあれで良かったのですか?」
二人を陰から見守っていたベンジャミンが声を掛けてきた。
「良いのです。エルヴィンが帰って来た時には、わたくしはここにはいないでしょう。ですけれど、わたくしが待っていると言った言葉が彼の命をつなぎとめるのなら、わたくしは嘘つきだと恨まれてもかまいません。だって、何よりもエルヴィンの命が大切なのですもの」
「お嬢様のご配慮、誠に感謝いたします」
ベンジャミンの目にも、涙が溢れていた。
エルヴィンは、乗合馬車を乗り継ぐことを繰り返し、四日後に王都に到着した。
王都には、何度も父親に連れて行ってもらったので土地勘はある。
到着した日は宿に泊まり、翌朝に王城に向かった。
軍隊に入隊したいからと言って誰もが入隊できるわけではなく、入隊検査に合格しなければならない。
エルヴィンは事前に願書を提出しており、軍からは試験の日程表と受験票が送られている。
エルヴィンは受験票を見せて王城の門をくぐった。
「ほう、15歳になったばっかりか。それにしても大きいな。筋肉もがっちりしてるし、良い兵士になりそうだ。で、志願した理由は?」
面接官は、緊張しているエルヴィンに問うた。
「はい。私の志願理由は、武功を挙げて立身出世をしたいからです」
「よし、いい心がけだ。で、得意とする得物は斧か。ふむ、剣は使えないのか?」
「剣も使えますが、斧の方が得意です。それから弓も使えます」
「そうか、じゃあ、見せてもらおうか。面接は合格だ。次は訓練場に移動してくれ」
エルヴィンは訓練場へと移動した。




