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木こりの俺がお姫様と結婚する方法  作者: 矢間カオル


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33話 エルヴィンの決意

「エルヴィン? お話って?」

エルヴィンの身体全体から重苦しい雰囲気が漂っているようで、セレスティアの胸はドキリと不安に駆られる。


「早く話さないといけないと思いながらも、なかなか言えずにいました。でも、やっと話す決心がつきました。心が揺らぐ前に言います。お嬢様、聞いていただけますか?」


セレスティアは、エルヴィンの一言一言に、嫌な予感を感じながら聞いていた。


「ええ、聞きますわ。けれどエルヴィン、そんなに暗い顔していったい何を言いたいの?」


「お嬢様、俺、15歳になったら……、ここを出ます」

「えっ? エルヴィン、今、なんて言ったの?」


寝耳に水とはこのことで、初めて聞く恐ろしい言葉に、セレスティアは一瞬頭が追いつかなかった。


「ここを出ると言ったのです。俺はここを出て軍隊に入ります」


少し間を置き、やっとエルヴィンが何を言いたいのか理解できるようになった。


「ここを出るって? そ、そんな……。わたくしのそばにずっといてくれるのではなかったの?」


「俺だって、ずっとお嬢様のおそばにいたいです。でも、ここにいたって、お嬢様の隣には立てません。いつかは、おそばにいることさえもできなくなるでしょう」


「でも、だからって、軍隊に入れば命の危険が伴うのですよ。平民は前線に立たされると聞いています。生きて帰れないこともあるのですよ」


「たとえ命の危険があろうとも、俺は軍隊に入って武功を挙げて、立身出世をして帰って来ます。それがお嬢様の隣に立つことができる唯一の方法なんです」


「エ、エルヴィン! 考え直すことはできないの?」


「いえ、これは、ここにきたときからずっと考えていたことでした。だから俺は毎日武術の訓練をしていたのです」


「エルヴィンの決心は固いのですね。今さら引き止めることはできないのですね」

「……はい」


二人の間に無言の時間が流れた。

一言でも発したら、泣いてしまうかもしれないとセレスティアは思っていたが、それはエルヴィンも同じ思いのようだった。




コンコンコン

沈黙の中、静けさを打ち破るように、ドアをノックする音が聞こえた。


「お嬢様はいらっしゃいますか?」


セレスティアがドアを開けると、使用人の女が立っていた。

セレスティアの作る薬草を、何度ももらっているケイトである。


「お嬢様、旦那様がお呼びです」

「お父様が? お父様は、今日は泊りではなかったのかしら?」


「突然変更になったらしくて、先ほど戻っていらっしゃいました」

「わかりましたわ。すぐ行きます」


ケイトに答えた後、セレスティアはエルヴィンに振り返って言った。


「エルヴィン、この話は、また後日聞きます」

セレスティアは、泣きたくなるのを堪えて家から出て行った。




セレスティアは、ケイトに先導してもらってダイニングルームに入った。


エマーソン伯爵は家長の椅子に座り、食事をしている最中である。


「お父様、遅れて申し訳ございません」


頭を下げるセレスティアを、エマーソン伯爵は手を止めてチラリと見た。

水色のドレスが土に汚れている。


「何故ドレスが汚れているのだ?」

冷たく重い問いかけに、この場の雰囲気がまるで氷の中にいるみたいに凍てつく。


セレスティアは一呼吸してから淡々と答えた。


「メリンダに、突き飛ばされたからですわ」

「なっ!」

メリンダが叫びそうになった言葉を飲み込み、悔しそうに唇を噛んだ。

父親の前では、セレスティアに罵声を浴びせることはできない。


「だいたいのことはわかった。メリンダ、セレスティアがケガをしたらどうする?」


「そ、それは……」

メリンダが、焦った顔で伯爵に視線を移した後、すぐに目を伏せた。


「教えてやろう。価値が下がるのだ」

「えっ?」

メリンダは目を見開き呆然と伯爵を見る。


セレスティアも声には出さなかったが、おそらく同じ顔で伯爵を見つめていたことだろう。


「これからは二度とこのようなことをするな。二人とも、こんなことで、私を煩わせるのではない」


「申し訳ございませんでした」

メリンダは謝罪したが、それはエマーソン伯爵に対してだけで、セレスティアをチラリと睨んだその目は、決して反省しているようには見えなかった。


「申し訳ございませんでした」

セレスティアも父親に謝罪の言葉を述べたが、心の中は穏やかではなかった。

しかし、反省をしている仮面は被れたと思う。


二人の謝罪を最後に誰からも言葉を発することはなく、重苦しい食事の時間は終わった。




自室に戻って一人になったセレスティアは、伯爵の言葉を思い出していた。


メリンダに二度とするなと言ってくれたから、もう突き飛ばすようなことはしないだろう。


だが、伯爵の言葉に、思いやりとか娘に対する心配だとかは、まったく感じられなかった。


価値が下がる? 


まるで商品の品定めをしているような冷たい言葉が、セレスティアの心をぐさりと抉る。


そして伯爵が最後に言った言葉が、心に強く引っかかった。


― 二人とも、こんなことで、私を煩わせるのではない ―


お父様は「二人とも」と言った。

わたくしは真実を告げただけなのに、わたくしの方が被害者なのに、メリンダと等しくお父様を煩わせてしまったと言うのだろうか?


セレスティアの心の中は、エルヴィンの別れの言葉と、父親から浴びせられた言葉でぐちゃぐちゃになっていた。 



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