32話 狂暴
「お姉様、そのドレス、よくお似合いね」
メリンダの口調はとげとげしく、とても純粋に褒めているとは思えない。
はあ、また何かに癇癪を起こしたのね。
セレスティアは小さなため息をついたが、背筋を伸ばし毅然とした態度でメリンダと目を合わせた。
「メリンダ、褒めてくれてありがとう。あなたのドレスもとてもよく似合っているわ」
今日のメリンダのドレスはピンク色で、裾に施された花の刺繍がとても可愛らしい。
「何よ、本当はそんなこと、思ってもいないくせに!」
「わたくしは本当にそう思っているわ。メリンダこそ、思い込みで言いがかりをつけるのはやめなさい」
メリンダの目は吊り上がり、怒りに満ちた顔は真っ赤になって、さらに狂暴さが加わる。
「うるさいわね!」
「キャアー」
頭に血が上ったメリンダは、怒りに任せてセレスティアをドンと思いっきり突き飛ばした。
突き飛ばされたセレスティアの身体は地面に激しく打ちつけられ、身体全身に痛みが貫く。
「うっ……」
起き上がろうとしても、すぐには起き上がれなかった。
「あははっ、地面にはいつくばって、なんて無様なこと。泥に汚れたお姉様にはエルヴィンがお似合いだわ!」
「何故こんなことをするの?」
「わからないの? お姉さまがジョセフ様に色目を使うからよ。ジョセフ様は私のものなのよ」
セレスティアは地面に座り込んだまま、痛めた腰をさする。
そして憐れむような目でメリンダを見上げた。
「メリンダ、ジョセフ様に相応しい女性になりたかったら、もっと淑女らしい行いをしなさい。こんなことをしていたら、ジョセフ様に嫌われてしまうわ」
「何よ!私に説教をするつもり? お姉様、しばらく屋敷の中に入らないで。顔も見たくないわ」
メリンダは最後の捨て台詞の後、バタンと大きな音を立ててドアを閉めた。
中から「お姉様を、絶対に中に入れないでよ」と使用人に命令している声が聞こえる。
「ふう……、また追い出されたわね」
いつものことで慣れっこだが、今回は腰を激しく打ちつけて痛みが伴う所業である。
セレスティアは、腰をさすりながらゆっくりと起き上がった。
冷たい風がビューッと吹き、冬の寒さが痛みをさらに増加させる。
「このまま、こんなところにいたら、風邪をひいてしまうわ」
一人になったセレスティアが頼れる場所は、エルヴィンがいるベンジャミンの家だった。
足を引きずりながら裏庭に向かって歩いていると、エルヴィンが驚いた顔で走って来た。
「お嬢様、いったいどうしたのです? おケガでもされたのですか?」
「ええ、突き飛ばされてしまったの」
誰とは名前を聞かなくても、エルヴィンにはすぐにわかった。
「ああ、また諸悪の根源がやったのですね」
「ふふっ、否定はしませんわ」
セレスティアは無理に笑顔を作ろうとしたが、痛みでそれは歪んでしまう。
「お嬢様、無理に笑顔を作る必要はありません。ここは寒いです。早く家の中に入りましょう」
エルヴィンは軽々とセレスティアを抱き上げ、お妃様抱っこで家の中まで運んだ。
テーブルを挟んで、二人は向かい合って座る。
「お嬢様、メリンダ様はなんで癇癪をおこしたのですか?」
「たぶん、三日前のジョセフ様のことだと思うわ」
「三日前って? なんと執念深い!」
「今日はお父様がお仕事で泊まりだからいらっしゃらないの。だから今日を選んだのでしょう」
「たしか、ご主人様がいらっしゃるときは、ご家族で夕食をとるんでしたよね」
「ええ、そうなの。そんな日は、追い出されるのは夕食前までなのですけれど、今日はきっと夜遅くまで入れてもらえないと思います」
「まったくなんてひどい。ところで、ジョセフ様とは何があったのですか?」
「ジョセフ様が、わたくしの誕生日を知っていらしたの。おそらくそれが原因だと思います」
「お嬢様のお誕生日が三月だってことですか?」
「ええ、わたくしからお話したことはないのですけれど……。そう言えば、エルヴィンは五月で15歳になるのですね」
「……あ、あの、お嬢様、そのことでお話があります」
エルヴィンは急に暗い顔になり、決意を込めた目でセレスティアを見つめた。




