31話 メリンダのいら立ち
めったに裏庭になんて出ないメリンダであったが、成長したエルヴィンを見たくて、寒いのを我慢して作業場に近づいた。
エルヴィンは、ちょうどマキ割りをしている最中で、ちょっと見ただけで使用人が話していたことに納得する。
真剣な表情の赤い瞳と黒髪の若者は、力強く斧を振るう姿は勇ましく、長身で逞しい身体は見た目がすごく恰好良い。
これは、連れて歩くと自慢できそう……
メリンダはエルヴィンの前に進み出た。
「エルヴィン、あなたを今度、お買い物に行くときの従者にしてあげるわ」
エルヴィンはマキ割りの手を止めて、メリンダに視線を移す。
さっきから見られているのはわかっていたが、いきなり出て来て従者にしてあげる?
はあ? 何それ?
俺はお前なんか嫌いだ! そばに寄るな! 近づくな!
と言ってやりたかったが、ぐっと我慢した。
セレスティアに言われている。
メリンダのご機嫌を損ねると、クビになるって。
「お嬢様、俺は仕事が忙しくて従者をする時間がありませんので、他の人を当たってください」
「なによ、私が言ってあげてるのよ。それを断るつもり? 私、知っているのよ。あなたお姉様の従者になったことあるじゃない」
「それは、先生のご提案で、ご主人様がお許しになったからです。何度も言いますが、俺は忙しいのです。マキを作らないと来年の冬を越せなくなりますよ。それからそんなところにいたら危ないですから、どうぞお戻りください」
これ以上は話したくないとばかりに、エルヴィンはマキ割りを再開する。
斧で割ったマキは、吹っ飛んで危険なことがあるが、エルヴィンは、斧の角度を微妙に変えることで、自由に飛ばすことができるようになっていた。
力強く斧を振り、メリンダに向かって飛ぶように仕向けた。
もちろん当たらないように配慮はしているが。
「キャア、危ないわよ!」
「だから危ないって言ってるじゃないですか」
「うるさいわね、本当に失礼なんだから」
結局、メリンダはエルヴィンに憤慨して屋敷に戻ったのだった。
この一件が二日前の出来事で、今回はジョセフの態度にいら立ちを覚えた。
二人とも、私よりもお姉さまの方が良いってわけ?
そんなの許せないわ!
「ジョセフ様、このドレス、ジョセフ様の髪の色に合わせました」
「ジョセフ様、このネックレスは、ジョセフ様の瞳の色に合わせたサファイヤですのよ」
メリンダは必死にジョセフにまとわりつき、セレスティアを無視して自分だけを見るように仕向けた。
セレスティアはできるだけ二人に関わらないようにして、一人でソファに座り、お茶を啜って時間が過ぎるのを待つだけであった。
やっとスコット家族が帰ったときは、心底ほっとした。
ジョセフの言葉で一瞬ヒヤッとしたこともあったけれど、それからはジョセフに話しかけられることはなく、メリンダの独り占め状態が続いたから問題ないだろう。
そう思っていたのだが、それは実に甘い考えであったことを、三日後に知ることになる。
その日はフローレンスの家庭教師の日で、午前中も午後も授業で忙しく、メリンダと顔を合わせることがなかった。
セレスティアは、フローレンスが来る日も美しいドレスを着る。
今日も、三日前と同じ水色のドレスを着ていた。
授業が終わり、セレスティアはフローレンスを見送るために玄関先まで外に出る。
「セレスティア嬢、春になったら美術館で宗教画の展示が始まりますから、次はそれを鑑賞に行きましょう」
「先生、ありがとうございます。年に二回の美術鑑賞を、わたくしはとても楽しみにしているのです」
「それではごきげんよう」
フローレンスが馬車に乗り、去っていくのをセレスティアは手を振りながら見送った。
馬車が見えなくなり、屋敷の中に入ろうと思ったら、メリンダが怒りの形相で現れた。




