3話 淑女たるもの
セレスティアは外に出されたが、こういうことは日常茶飯事で慣れっこになっていた。
それに、今回、ナタリーの逆鱗に触れなくても、自分から外に出るつもりだった。
メリンダの心無い言葉で、エルヴィンが傷ついていいないか心配していたからである。
セレスティアは、裏庭にある森の番人ベンジャミンの家に向かった。
「こんにちは。ベンジャミンさん、エルヴィンはいますか?」
家の前でマキ割りをしているベンジャミンに声を掛けた。
伯爵家で長い間働いているベンジャミンは、白髪が年を感じさせてはいるが、きりりとしたに赤い瞳と筋骨たくましい身体は、まだまだ若い者には負けていないと主張している。
ベンジャミンの家は屋敷の裏庭に建てられており、担当している仕事は隣接する森の番人であり、木こりでもある。
森に生えている木を伐り出して、伯爵邸で使うマキを作るのだ。
ベンジャミンが作ったマキはマキ小屋で保管し乾燥させ、伯爵邸の使用人は、そのマキを使って火を起こすのである。
「お嬢様、エルヴィンは先ほど戻りましたよ。メリンダ様には、ずいぶんな言われようだったそうですな」
「ええ、そうなの。辛い思いをしたのではないかと思うと心配で……」
「心配していただいてありがとうございます。ですが、わしに愚痴を言えるぐらいですから、大丈夫だと思いますよ」
「それでも、一言謝りたいのです。中に入ってもよろしいかしら?」
「どうぞ、お入りください」
「ありがとう」
ベンジャミンの家の中は、玄関から入るとすぐにダイニングキッチンになっていて、扉を隔てた隣の部屋が寝室があるという極めてシンプルな造りである。
セレスティアが家の中に入ると、エルヴィンは椅子に座り、食卓に顔をうつ伏せにしていた。
対面して座ってみたが、腕が邪魔して顔が見えない。
気のせいか、震えているように見えた。
もしかして泣いているの?
「エルヴィン、先ほどは、メリンダの心無い言葉で傷つけてしまいましたね。妹の代わりに、謝りに来ました。ごめんなさい」
「お、お嬢様!」
エルヴィンがガバッと起き上がり、目の前のセレスティアを見て目を丸くする。
「どどど、どうしてこんなところに?」
「妹の代わりに謝りに来たのです」
「いやいやいや、そんなことしなくてもっ…て、すみません、寝てました。」
「まあ、寝ていたのですね。良かったですわ」
「いえ、よくありませんって。お嬢様が来たのに寝てるなんて、何たる不覚! あ、それから、妹様のことなんて気にしていませんから、お嬢様が謝ることなんて絶対にないですよ」
「そうですか? わかりましたわ。ありがとう。ところで、ここでお話して時間をつぶしてもよろしいかしら?」
「も、もちろんです。でも、なんでこんなところで?」
「ふふふっ、実は屋敷を追い出されてしまったの。しばらくは戻れませんわ。」
「はあ? なんでそんなことに?」
「実はね……」
セレスティアは屋敷を追い出された経緯を話した。
しかもこういうことはよくあることだと言う。
セレスティアは始終にこやかな笑みを浮かべながら話していたが、エルヴィンの方が、だんだん腹が立ってきた。
「お嬢様、いつもそんなふうに理不尽に追い出されて、どうして怒らないのですか? 聞いてる俺の方が怒り心頭ですよ」
「あら、わたくしも怒っていますのよ。ただ、顔に出さないだけですわ」
「どうして?」
「淑女たるもの、心を他人に悟られてはなりません。微笑みの裏に本心を隠して、相手の本心を探るのです。って、家庭教師の先生に教えてもらったのですわ。」
「あ、あの、お嬢様は俺より小さいですよね。それなのに、そんなことを口にするなんて……、淑女って、怖い…です」
「ふふふっ、そうかもしれませんね。でも、今日のわたくしは、淑女失格ですわ」
「どうして?」
「だって、あなたに本心をさらけ出してしまったもの」
「お嬢様、俺で良かったらいつでも本心さらけ出してください。俺、口固いので、大丈夫です」
「まあ、ありがとう」
そう言うセレスティアは、ずっと微笑みを崩していなかった。
「淑女教育っていうのはわかりました。でも、だったらどうして妹様は、あんなに本心がわかりやすいのですか?」
エルヴィンは、初めて会ったメリンダの怒りを隠さぬ表情、人の心を抉るような言動を思い出していた。




