25話 ダンス
翌日、エルヴィンは一人で森に入り、木を切り倒す仕事をしていたのだが、斧を振るう姿に鬼気迫る勢いがあった。
あっという間に切り倒し、その後の切断もマキ割りも、いつにも増して力が入り、早い時間で本日のノルマを終えた。
その後は、毎日欠かさずに続けている腕立て伏せに腹筋の筋トレ、弓の稽古に剣の素振りも黙々とこなしたが、何をしている最中も、エルヴィンの顔は鬼の形相とでも言えるような顔つきになっている。
ふと気を抜くと、目の前にセレスティアとジョセフの二人並んだ後ろ姿が浮かんで来る。
昨夜は、二人の姿が目の前にちらついて、眠れなかった。
せっかくセレスティアと幸せな時間を持てると思っていたのに、ジョセフが現れてから、その大切な時間は無慈悲にも奪われてしまった。
やっぱり平民ではダメなんだ。
貴族でなければセレスティアの隣に立てない。
せっかくのチャンスが巡って来たとしても、貴族が割り込めば、いとも簡単に奪われてしまう。
このままではダメだ!
俺はもっともっと強くならなければ!
必ず武功を挙げて、立身出世をしなければ!
それから一年後、エルヴィン13歳、セレスティアは11歳になった。
この一年間を振り返ると、相変わらずメリンダとナタリーの陰湿ないじめは続き、二人の気分しだいで、セレスティアは屋敷から追い出されている。
それは、雨の日でも、どんなに寒い日でも容赦なかったが、セレスティアは「また追い出されてしまったのよ」と笑ってエルヴィンに話した。
二人の距離はますます縮まり、エルヴィンに対する話し方は、かしこまった言葉遣いから親しみのこもった言葉に変わっていった。
エルヴィンは、自分の仕事以外にも、毎日自分に課したトレーニングと武術の稽古を欠かさず、鍛えられた筋肉が美しくも逞しい身体へと成長している。
だが、どんなに忙しいときでも、セレスティアと一緒に過ごす時間を一番に優先していた。
初夏の爽やかな風が吹き抜ける日、屋敷を追い出されたセレスティアが、マキ割りをしているエルヴィンに話しかけてきた。
11歳になったセレスティアは、幼さが抜け、少し大人びてきたようにも見える。
「エルヴィン、マキ割りの仕事が終わったら、少しお時間あるかしら?」
「もちろん、お嬢様のためなら、いくらでも時間を作りますよ」
本当はこの後に武術の稽古の予定なのだが、何よりもセレスティアを優先させるエルヴィンにとって、予定の変更など至極当然のことである。
セレスティアとの時間を早く持ちたくて、エルヴィンはマキ割りのスピードを超高速にする。
「終わりましたよ。何の御用ですか?」
マキ割りを終えたエルヴィンは、額の汗を拭きながら期待を込めた目でセレスティアを見つめた。
「あ、あの……、最近、先生からダンスを教えてもらっているの。一人で練習するよりも、相手がいた方が良いと思って」
いつになくセレスティアの話し方に恥じらいがあり、頬がほんのり赤くなっている。
か、可愛い! お嬢様、あなたはピンクのウサギですか!?
思わずセレスティアが可愛らしい小動物に見えてしまったエルヴィンであったが、すぐに事の重大さを認識する。
「お、お嬢様、それはもしかして、俺とダンスをするということでしょうか?」
「ええ、そうなの」
ズキュン!!
髪を耳にかき上げ、恥ずかしそうに答えるセレスティアに、エルヴィンの心臓は大きく弾む。
「お、俺で良ければいくらでも練習相手になりますが、俺はダンスなんて踊ったことがないですよ」
「先生の動きは覚えたから、男性パートを教えることはできるわ。お願い、相手になってくれる?」
両手を合わせて上目遣いで見つめられたら、たまったもんじゃない。
これで断るなんてありえない。
「お嬢様、俺にダンスを教えてください。絶対に踊れるようになりますから!」
「良かった。エルヴィン、ありがとう」
「あっ、でもちょっと待っててください。俺、すぐに着替えてきます。すぐ戻って来ますからね。そこで待っててくださいよ!」
エルヴィンは、大慌てで家の中に駆けこんだ。




