23話 雑貨店
街を歩くなんて一度も経験がなかったセレスティアは、ジョセフの言葉にドキドキしたのだが、それよりも、もっと前から心の奥でざわざわした感情が疼いていた。
ジョセフの話を聞いている最中も、話自体は興味深く聞いていたのだが、その感情が消えることはなかった。
「案内していただけるなんて、本当にありがとうございます。あの、その際はエルヴィンも一緒でしょうか? エルヴィンはずっと一人で食事をして寂しくないのかと、少し気になっていたのです」
ジョセフは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに元に戻して柔らかな笑みを浮かべる。
「セレスティアは優しいのだね。使用人のことをそんなに気にかけるなんて」
「いえ、そんなことは……」
「だけど、この世に常識というものがあるのだから、彼も使用人として、それを学ばなければいけないよ」
「セレスティア嬢、小伯爵様がおっしゃることは至極当たり前のことです。わたくしも、エルヴィンが従者としてのふるまいを学ぶ良い機会だと思いますよ」
「そう…ですか。わかりました」
食事が終わった後、ジョセフは近くの雑貨店に案内しようと言った。
フローレンスが滞在時間は一時間程度と言ったので、それならば近くてセレスティアが喜びそうなお店をと選んだ雑貨店である。
歩いている最中も、ドレスショップ、宝石店、色とりどりの花を売っている花屋など、セレスティアにはすべてが新鮮で見ているだけで楽しくなる。
エルヴィンは後ろをついて歩き、嬉しそうなセレスティアを見ていたのだが、隣を歩くジョセフも見ることになり、複雑な思いをしていた。
着いた雑貨店は、中に入ると思いの外広く、子ども用のドレスや帽子から、10歳の少女が喜びそうなぬいぐるみやアクセサリーなどの小物に至るまで、可愛らしい品々が手に取りやすく陳列されている。
店内の飾りも明るく華やかで、セレスティアはまるでおとぎの国に来たような錯覚を覚えた。
「わあ、とっても可愛い。なんて素敵なお店なんでしょう」
両手を口元に寄せて喜ぶセレスティアを満足げに見守るジョセフと、その光景を少し離れた位置で見ているエルヴィン、フローレンスは二人の少年を見比べて、誰にもわからないような小さなため息をついた。
ジョセフはエルヴィンに、次の仕事を命じる。
「エルヴィン、御者にこの店を案内してくれ。三十分後に店の前に来て欲しい」
「あっ、あの…、俺、いえ、私は護衛も兼ねているのですが」
「ああ、それなら大丈夫。僕の護衛がちゃんと見張っているから。セレスティアに威圧感を与えたくなくて、わからないように護衛をしてもらっているんだ」
入り口で新聞を読んでいる男、店内を物色しているカップル、よく見たら、レストランでも同じ人物を見た気がする。
「そ、そうなんですね。わかりました。それでは行ってまいります」
エルヴィンは一礼してその場を去ったが、皆に背中を向けた瞬間、悔しさで唇を噛みしめた。
貴族と平民の使用人、この格差はどうすることもできないのだ。
「セレスティア、領都に初めて来た記念に、何かプレゼントしたいのだけど、何か気に入ったものはありましたか?」
ジョセフがキラッキラの笑顔でセレスティアを見つめた。
サラサラの金髪に輝く青い瞳、超美形のジョセフが言うのだから、女子ならほぼ全員が嬉しくて躍り上がって喜ぶだろう。
だが、セレスティアのアメジスト色の瞳は、難色を示した。




