22話 寂しい昼食
今、エルヴィンは、たった一人で寂しく昼食をとっている。
出された料理は美味しいのだが、美味しさを味わうよりも、置かれた状況に悔しさを噛みしめていた。
「どうしてこんなことに……。そりゃ、従者が一緒のテーブルに着けないのはわかってる。だけど、予約もなしで満席だったら、一緒に食べようってなるだろ? きっとお嬢様だったら絶対にそう言う。だけどアイツが……。もしも、もしも俺が貴族だったら、アイツに邪険にされることはなかっただろうに」
エルヴィンの独り言はブツブツと続いた。
話は一時間前に遡る。
特別室の絵画を見終わった後、ジョセフが昼食について尋ねてきた。
「ペレス子爵夫人、昼食の予約はされていますか?」
「いえ、見終わったら、近くのレストランにでも入ろうと思っていました。」
「今は混んでいる時間なので、待たされることになりますよ。よろしければ、僕が予約しているレストランはいかがですか? この美術館の隣にあるレストランですが」
「まあ、よろしいのですか? それではお言葉に甘えることにいたしましょう」
フローレンスはジョセフの提案を受け入れ、四人は隣接しているレストランに移動した。
ジョセフの言う通り、店内は美術館を出てきた客で満席で、店内に入れずに並んで待たされている客も多い。
ジョセフが店のスタッフに名前を告げると、四人は奥の席へと案内された。
スタッフが椅子を引いてフローレンスの着席をサポートし、ジョセフはセレスティアの椅子を引いて座らせた。
仕事をとられたエルヴィンが、何をして良いのかわからずその場に立っていると、ジョセフが声を掛けた。
「エルヴィン、君は従者なのだから、同じ席に着くことはできないよ。君のためにテーブルを用意してもらったから、そこで食べるといい」
「えっ? あっ、は、はい」
実はジョセフに言われるまで、エルヴィンは違うテーブルで食べることになるとは思っていなかった。
現実を突きつけられたエルヴィンは、スタッフの「どうぞこちらへ」の声とともに、セレスティアたちの視界に入らないテーブルまで離されてしまったのである。
エルヴィンは美術館に入ってからも、片時も外さずセレスティアを見ていた。
セレスティアと並んで歩いているのはフローレンスだったから、二人から一歩下がった位置で従者として歩きながらであったが。
セレスティアは、そんなエルヴィンにも絵画の感想を話したり、逆に聞いたりもしてくれた。
その度に、エルヴィンはセレスティアの可愛らしい顔を正面から見ることができた。
絵画も美しいけれど、それよりも絵画を見て表情を変えるセレスティアを見ている方が、よっぽど美術鑑賞になると思った。
ああ、こんなに美しくて可愛らしいお嬢様を見ることができるなんて、幸せだなぁ……
のほほんとそう思いながら歩いていたのに、いきなり魔王のごとくジョセフが降臨してきた。
それからは、セレスティアの隣を歩くジョセフも一緒に視界に入り、嫌でもジョセフを見ることになった。
そしてジョセフの如才ない言動に舌を巻いた。
ジョセフは自分より二歳も年下なのに、なんだこれは?
到底自分なんて及びもしない。すべてにおいて負けている。
勝っていることと言ったら身長だけ。
それだって、いつかは追い抜かされてしまうかもしれないのだ。
そして結局、魔王によってセレスティアから引き離されて、一人寂しく食事をすることになったのである。
エルヴィンは、一人になったテーブルで強く思った。
このままではいけない。
平民のままでは、いつまでたってもお嬢様の隣には立てない。
隣に立ちたかったら身分が必要で、やっぱりそれを得るには、武功を挙げて立身出世するしか方法がないんだ!
エルヴィンが一人で悶々としている間、ジョセフはセレスティア、フローレンスと談笑しながら楽しく食事をしていた。
画家の話やそれにまつわる話など、ジョセフが語る話はどれもセレスティアには興味深いことばかりで、目を輝かせて話を聞いているセレスティアをジョセフは目を細めて見ていた。
ジョセフは、セレスティアの一つ一つのしぐさにも魅了されていた。
ただ単にナイフとフォークを使って肉を切り、口に入れるだけの行為でも、セレスティアには品がある。
姿勢、手の角度、食べるときの表情、どれをとっても他のどの令嬢よりも美しい。
この店内でセレスティアと同格なのは、それを教えたフローレンスだけであろう。
伯爵邸でも美しい所作だと思っていたけれど、会うたびに磨きがかかっている。
これはきっと彼女の努力の賜物なのだろうと思った。
最後のデザートとお茶が運ばれてから、ジョセフはセレスティアに問うた。
「この後の予定はあるのかな?」
「あの、先生に聞いてみないとわかりませんわ」
セレスティアが、チラリとフローレンスを見る。
「今のところ予定はありません。小伯爵様のお陰で時間に余裕ができましたし、少し町を散策するのも良いかもしれませんね」
「それなら僕が案内しましょう」
ジョセフが明るくそう言った。




