18話 エスコート役
キラリとした光が、エルヴィンの目に飛び込んで来た。
「えっ!?」
エルヴィンは光に向かって走りだし、キラリとしたものを手に取った。
それは、セレスティアと一緒に探し続けたアメジストの指輪だった。
「お、お嬢様、ありました。見つけましたよ。ほら、これでしょう?」
セレスティアはエルヴィンに駆け寄り、その指輪を手に受ける。
「ああ、これです。これなんです。エルヴィン、本当に本当にありがとう」
セレスティアは指輪を握りしめ、ボロボロと涙を零して泣いた。
涙は止めどなく流れ、ぽたぽたと地面に落ちていく。
「お嬢様、見つかって良かったですね」
泣きやまないセレスティアに、何と声を掛けて良いのかわからず、エルヴィンはただそう言うことしかできなかった。
エルヴィンにしてみたら、どんなに辛い目に遭っても泣かなかったセレスティアであったから、彼女の涙を見たのは、これで二回目である。
セレスティアが泣いている間、ずっと優しく見守るエルヴィンの心の中は、絶対にメリンダを許せないという思いが溢れていた。
しばらくして、やっとのことで泣き止んだセレスティアは、指輪が見つかったことは内緒にしておくことにした。
次は何をされるかわからない。
見つからないように細いチェーンに指輪を通し、首にかけて隠すことにした。
さらに一年が過ぎ、セレスティアは10歳、エルヴィンは12歳になった。
庭に植えられたバラの花が咲き、辺りに甘い芳香が漂い始めた日、セレスティアは、初めて屋敷の敷地外に出ることになった。
数少ないドレスの中から、彼女が選んだのは、水色のサテンのドレス。
胸元に白いレースが上品にあしらわれて、貴族令嬢として恥ずかしくない装いである。
何故、敷地外に出ることになったかと言うと、一週間前、家庭教師のフローレンスが、「教養を深めるためには、美術鑑賞もした方が良い」と、エマーソン伯爵に進言してくれたからである。
メリンダは、時々母親と一緒に買い物に出かけているが、セレスティアを誘うことは一度もなく、セレスティアも自分から一緒に行きたいと言うことはなかったから、外に出る機会などまったくなかった。
しかし、エマーソン伯爵はフローレンスと一緒ならという条件で、美術館見学を許可してくれたのである。
その際フローレンスは、それとは別に、伯爵からもう一つの許しを得ていた。
「セレスティア嬢、淑女たるもの、馬車の乗り降りも美しい所作が必要です。どなたか男性の方に、エスコート役をしてもらえるようにお願いしておいてください」
屋敷内の男性の使用人の中から、一人誰かを連れて行っても良いとエマーソン伯爵から許しを得たので、フローレンスはそう言い残して帰ったのである。
使用人の男性はそれぞれの仕事があり忙しい。
時間に余裕のある男性と言えばエルヴィンしか思い浮かばなかったセレスティアは、エルヴィンにエスコート役を頼み込み、一週間後の今日、フローレンスに紹介した。
黒いスーツでビシッと身を固めたエルヴィンは、フローレンスを目の前にして、いたく緊張している。
「こちらがエルヴィンです。森の番人のお孫さんで、木こりの仕事をしています」
「そうですか。12歳と聞きましたが、身長が高いのですね。15歳には見えますわ。服装もきちんとしていますし、エスコート役にはちょうど良いでしょう。エルヴィン、あなたは今までに女性のエスコートをしたことがありますか?」
事前にセレスティアから話を聞いていたエルヴィンは、このチャンスを逃したくなかった。
「俺、いえ、私は女性のエスコートをしたことはありませんが、商人の息子でしたので、見たことなら何度でもあります。だからできます。大丈夫です」
「そうですか。自信があるのですね。では、あなたにお願いしましょう」
ヤッターと小躍りしたくなるのを、エルヴィンはぐっと我慢するのだった。
屋敷の敷地外に出たことがなかったセレスティアは、馬車に乗ったことも一度もなかった。
だから乗り降りから練習しなければならない。
「舞踏会などに参加する場合、どんな女性だろうと興味を持たれて注目されることがあります。そのような場合、馬車から降りるところから戦いは始まっているのです。無様な降り方をしてしまえば、皆様はあなたのことを呆れた目で見ることになるでしょう。ですが、美しい所作で降りれば、それは賞賛に変わります。視線、姿勢、速度、歩き方、それらを完璧にこなさなければなりません」




