17話 指輪
「ふん、いい気味だわ」
これでやっと満足したのか、メリンダは部屋から出て行ったのだが、セレスティアは真っ青になって外へと走り出た。
指輪が落ちたあたりを、草をかき分け探し出す。
どうしよう、あの指輪はお母様の形見の品なのに……。
メリンダが外に放り投げた指輪は、小粒のアメジストが一石あしらわれた銀色の指輪である。
母は普段、無石の金の結婚指輪をはめていたから、この指輪を指にはめることはなかったが、時々手に取り眺めていた。
あまりに愛おしそうに見ているから、普段はめている金の指輪よりも、こちらの方が大切なのかもと思い聞いてみた。
「お母様、その指輪、お好きなの?」
「ええ、とっても。ほら、アメジストはティアの瞳の色と同じでしょう? だからとっても大切なの」
そう言ってセレスティアの頭をなでてくれた。
セレスティアは、母親に愛されていると実感できて、すごく嬉しい気持ちになった。
ドレスもアクセサリーも、必要なもの以外はほとんどメリンダに奪われてしまったけれど、メリンダはアメジストの指輪には手を出さなかった。
母であるナタリーが「メリンダの瞳の色はエメラルドと同じ色、アメジストのような安い宝石とは違うわ」と言ったからだそうで、メリンダはこの指輪のことをバカにしていた。
だから盗られることはないと思っていたのに……。
探し始めて二時間、セレスティアが必死になって地面にはいつくばって探しているのに、見つけることができないでいた。
この日のために新しく買ってもらった薄黄緑色のドレスは土に汚れ、手が泥だらけになっても、セレスティアは探すことを止めなかった。
「お嬢様、何を探しているのですか?」
背後からエルヴィンの声がした。
「エルヴィン、お母様の形見の指輪をメリンダに捨てられてしまったの。二階から放り投げられて、ここら辺に落ちたと思うのですけど、見つからないの」
「どんな指輪ですか?」
「リングは銀色で、真ん中に小粒のアメジストがついています」
「俺も探します」
そこからは、エルヴィンも加わって二人で探した。
しかし、どんなに探しても見つからず、とうとう日が暮れてしまった。
「エルヴィン、一緒に探してくれてありがとう。もうこれ以上は無理だと思います。明日になったらまた探します」
「お嬢様、俺も一緒に探しますからね」
「エルヴィン、本当にありがとう」
屋敷に戻ったセレスティアは、泥だらけになったドレスを見られてナタリーに激しく叱責されたが、黙って耐えていた。
メリンダのせいだと言ったところで、取り合ってもらえないのはわかっていたし、自分の娘をバカにするのかと、ますます叱責が激しくなることもわかっていた。
父親に話したところで、どうせそんなことぐらいで手を煩わすなと言われるだけ。
だから、ひたすら泣きたくなるのを我慢して、嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。
そんなセレスティアを、メリンダは嬉しそうな目で見ているのだった。
一方エルヴィンは、セレスティアの手前、いったんその場を離れたが、すぐに戻って探し始めた。
カンテラの灯りを地面に近づければ、もしかしたらキラリと光ってくれるかもしれないと思ったからなのだが、一晩中探しても見つけることができなかった。
「お嬢様のためなら、一日二日くらい…、いや、一週間でも寝なくても大丈夫」
そう自分に言い聞かせて探しているうちに、辺りが白んできた。
もうすぐ夜明けだ。
眠れぬ夜を過ごしたセレスティアは、夜明け前に庭に出た。
いつもの汚れても良いグレーの質素なドレスを着て、一日かけても探し出すと心に決めていた。
「エルヴィン、ずっと探してくれていたの?」
カンテラを持ち地面にはいつくばっているエルヴィンを見て、セレスティアは目を見張る。
「お嬢様の悲しみに比べたら、こんなこと、なんでもないです」
泥だらけになっているエルヴィンを見て、涙が出そうになる。
泣きそうになるのを我慢して、まだ薄暗い地面にはいつくばっていると、陽が昇り、庭に朝日が差し込んで来た。
「夜が完全に明けましたね」
エルヴィンがセレスティアに話しかけたそのとき、朝日に反射してキラリと光るものを見つけた。




