16話 攻撃
セレスティアとジョセフの合奏が始まった。
セレスティアのピアノの音に、ヴァイオリンの奏でる旋律が美しく調和し、応接室に心地よい音楽が響き渡る。
スコット伯爵夫人は、目を潤ませて二人の調べに耳を傾けていた。
セレスティアは、この日のために何度も何度も練習し、目を閉じても弾けるほどになっていた。
父親の前で失敗するわけにはいかない。
練習の邪魔をされたくなくて、メリンダには合奏をすることを黙っていた。
合奏をすると告げたのは昨日で、メリンダは激しく癇癪を起こしたが、ピアノをセレスティアの代わりに弾くことなどできないことはわかっていたから、泣きわめき睨むことしかできなかった。
皆が合奏する二人を温かい目で見守っている中、メリンダだけが憎しみのこもった目でセレスティアを睨んでいた。
合奏が終わった。
使用人も含めた皆からの拍手の中、二人はピアノの前に並んで礼をする。
セレスティアがほっと胸をなでおろしていると、突然ジョセフが握手を求めて手を差し出してきた。
「セレスティア、素晴らしい演奏だったよ。すごく合わせやすかった。こんなに感動したのは初めてだ」
皆の手前、差し出された手を拒むこともできず、セレスティアは握手に応じる。
「ジョセフ様の演奏も素晴らしかったです。ありがとうございました」
席に戻ったら、今度はジョセフの母親に賞賛の言葉をかけられた。
「セレスティアさん、本当に素晴らしかったわ。ジョセフと息もぴったりで、二人はとてもお似合いだったわ」
この言葉に一瞬メリンダは唇を噛んだが、すぐに表情を緩めてジョセフに話しかけるためにそばに寄る。
「ジョセフ様の演奏は、本当に素晴らしかったです」
この後はいつも通りに大人と子どもは別れて過ごしたのだが、メリンダはいつにも増してジョセフにまとわりついた。
幸いなことにジョセフはメリンダを邪険にすることはなく、上手に相手をしてくれたお陰で、メリンダの機嫌も直ったように見えた。
だが、それはジョセフがいるときだけのことであった。
スコット伯爵家族を見送った後、メリンダの攻撃が始まった。
二階の自室で、セレスティアが一人くつろいでいると、いきなりメリンダが怒りの形相で入って来た。
「お姉様、合奏が上手くできたからって、いい気になるんじゃないわよ。何よ、ちょっと褒められたからって。ジョセフ様の手を握るなんて許せないわ!」
「あれは握手であって、わたくしから手を握ったわけではないわ」
「握手だって同じことよ!」
セレスティアは、これ以上何を言っても無駄だと思った。
癇癪を起こしているメリンダに、何を言っても通じないことはわかっている。
部屋から出た方がいいかもしれないと思ったのだが、メリンダに身体をガシッとわしづかみにされた。
「何が息もぴったりよ? 二人はお似合いだって? あんなこと言われて嬉しかったんでしょ?」
「そんなことありません」
「嘘ばっかり。お姉様、私の大切なものを盗らないでよ。ジョセフ様は私のものよ。」
「わたくしは、ジョセフ様を盗ってなんかいません」
「お母様に気に入られて盗ったじゃない。それなら私だって、お姉様の大切なものを盗ってやるわ」
メリンダは勢いよくセレスティアの机に向かって走り、引き出しを開けた。
「ちょっと、メリンダ、やめなさい。やめて!」
慌てて止めようとしたが、一瞬の遅れで、小さな箱に入っていた指輪を盗られてしまった。
「返しなさい」
「嫌よ!」
セレスティアが必死に指輪を奪い返そうとしてもみ合いになったけれど、指輪はメリンダの手で、窓の外へと放り投げられてしまった。
「あーっ!」
セレスティアは窓にしがみつき、その指輪の行方を目で追おうとしたが、空中でキラリと一瞬光ったのは見えたけれど、どこまで飛んだのかわからなくなってしまった。




