14話 君のために
「えっ!?」
後ろから聞こえてきた声はジョセフ様、どうしてここに?
セレスティアは、恐る恐る後ろを振り返る。
「君の容態が気になったから、部屋まで様子を見に行ったんだけど、メイドに裏庭にいるって聞いたから……。気分はどう?」
「心配していただいて申し訳ございません。外の風に当たる方が、気分が良くなると思いましたので。お蔭さまでずいぶん良くなりましたわ」
「そう、それは良かった」
セレスティアは周りを見渡したが、ジョセフにくっついているはずのメリンダの姿が見えない。
また嫌な予感が湧き上がって来る。
「あの、メリンダはどうしましたか?」
「メリンダは伯爵夫人に呼ばれたから、その隙にね」
誰もいなかったら、大きなため息をついたと思うのだが、セレスティアはぐっと我慢した。
ジョセフはセレスティアの前に移動して、エルヴィンに視線を移した。
「ところで使用人の君は、ここで何をしているのかな?」
エルヴィンはジョセフよりも身体が大きくて、年上なのは一目瞭然であるが、服装から使用人だと判断したジョセフは、使用人に対する口調で言った。
「俺は、お嬢様のお手伝いをしていたのです」
「お手伝い?」
「あの、エルヴィンは文字が読めるのです。ですからわたくしの暗唱が間違っていないか確認してもらっていたのですわ」
「へえ、君は文字が読めるのか。ところでセレスティア、君は何を暗唱していたの?」
「近隣諸国の名前と王族の名前、歴史、文化などですわ」
「外国の知識を身につけることは良いことだね。僕の母上はウイキヌス王国出身なんだ。時々母上の実家に遊びに行くけど、他国の文化をこの目で見るのはとても面白いと思うよ。」
「まあ、そうなのですね。わたくしはこの地から出たことがありません。ですから、すべて書物からの知識でしかありませんわ」
「セレスティア、それなら僕がいつか連れていってあげるよ」
セレスティアはその言葉を聞いてギョッとした。
背筋が一瞬で冷たくなる。
「あ、あの、ジョセフ様、決してそのようなことを、人前でおっしゃらないでくださいませ」
「どうして? 僕は何も悪いことは言ってないよ」
「そ、そうではなく……、もうそろそろお屋敷に戻られた方がよろしいのではありませんか?」
セレスティアは微笑みの仮面を貼り付けて話していたのだが、心は激しく動揺していた。
もしもメリンダの耳に入ったら、癇癪を起こしてとんでもないことになりそうだ。
ジョセフが戻ろうとしないので、どうしたものかと思案していたら、メリンダの声が聞こえてきた。
「ジョセフ様~、ジョセフ様はどちらにいらっしゃるの~?」
「メリンダがジョセフ様を探しているようですわ」
「ああ、そのようだね。では、戻るとしよう。君のためにね」
ジョセフはメリンダに向かって歩き、合流するとそのまま屋敷に戻っていった。
-君のためにね-
今の言葉の意味って?
セレスティアは、しばらくジョセフの後ろ姿を見ながら呆然としていた。
「ジョセフ様は、メリンダお嬢様のこと、わかっているみたいですね」
二人のやり取りを黙って聞いていたエルヴィンが、ボソッと呟いた。
「そ、そのようね」
「あの、お嬢様、話しは変わりますが、宿題が無事に終わったら、この紙をもらえませんか?」
「まあ、どうして?」
「俺も、近隣諸国のことを覚えたくて。本なんて高くて買えないし」
「ふふっ、いいですわよ」
「あ、ありがとうございます!」
エルヴィンは飛び上がって喜びたいのを我慢した。




