12話 ジョセフ
エルヴィンがベンジャミンに引き取られて半年が過ぎた。
まだまだ子どもの筋力では力が足りないが、マキ割りのコツはつかめてきたようで、時間はかかるが上手く割れるようになってきた。
セレスティアは、相変わらず屋敷を追い出されるとマキ割りを見に来て、上手になったと褒めてくれる。
エルヴィンはそれが嬉しくて仕方がないのだが、セレスティアへの恋慕は一方的な片思いであることはわかっているから、それを悟られないように、できるだけ態度に出さないように気をつけていた。
今日は朝から屋敷の方が騒がしい。
こういう日は、お客様が来る日だ。
セレスティアは綺麗なドレスを着てお客様を出迎えるのだろうと、エルヴィンはぼんやりと考えていた。
「お姉様、ジョセフ様とお話なんてしないでよ」
メリンダが鼻息荒く、セレスティアに突っかかっている。
これで何度目?
セレスティアはいい加減うんざりしていた。
今日はスコット伯爵が、夫人と息子ジョセフを連れて遊びに来ることになっている。
ジョセフはエマーソン伯爵と親交のあるスコット伯爵の長男で、セレスティアと同い年の8歳である。
年の離れた姉が二人いるが、二人とも嫁ぎ先は決まっており、ジョセフは後継者として周りからも認められている。
とは言え、彼自身はサラサラの金髪に青い瞳と鼻筋が通った見目麗しい顔が、まるで女の子のように可愛らしい。
スコット伯爵は隣接する領地の領主で、代々続いている家門は古く、誰もが一目置くほどの最も由緒正しい家柄である。
そのせいか、ジョセフの醸し出すオーラは、幼くても高貴な品格を備えていた。
メリンダは、自分よりも一つ年上のジョセフのことを、絵本に出てくる王子様のようだと言い、仲良くするのは自分だけだと言わんばかりに、セレスティアを牽制していた。
セレスティアにしてみれば、少し目が合っただけでもメリンダの機嫌が悪くなるので、ジョセフが来た際は、できるだけ自分からは関わらないようにしている。
しかし、体裁を気にするエマーソン伯爵は、出迎えと別れの際は必ず子どもたちをその場にいさせるので、セレスティアはその時間は逃げることができず、挨拶をしなければならなかった。
ジョセフが来る日は、初めの挨拶の後、大人は応接室に移動し子どもたちは別の部屋で一緒に遊ぶ。
だが、三人一緒に仲良くということにはならず、いつもメリンダがジョセフを独り占めにしようと躍起になっていた。
秋の深まりを感じさせる紅々とした木々を背景に、スコット伯爵家の馬車が到着した。
エマーソン伯爵、ナタリー、メリンダとセレスティアも、出迎えるために屋敷の外に出た。
メリンダは明るい黄色のドレスを着て、赤茶色の髪をツインテールで結び、7歳の子どもらしく可愛らしく仕上げている。
その隣に並ぶセレスティアは、ピンクのふわりとしたドレスにハーフアップにした淡い水色の髪が映えて、妖精のように可憐で美しい。
そんなセレスティアを見るメリンダの目が、いつにも増して厳しい。
「遠方はるばるようこそ。お待ちしておりました」
「今日もお世話になります」
家族どうしの当たり障りのない挨拶の後、いつも通りに子どもたち三人は別室に移動する。
今日は第二応接室でお茶をした後、ボードゲームで遊ぶ予定になっている。
使用人がお茶とお菓子を持ってきたので、三人はお茶を飲みながら話をするのだが、セレスティアは自分から話しかけることはしなかった。
これ以上メリンダに睨まれたらたまらない。
機嫌を損ねたら、自分だけでなく使用人にまで当たり散らすから、極力メリンダの逆鱗に触れないように配慮していた。
しかし、いくらセレスティアが気をつけていても、いつもと違って何故かジョセフがどんどん踏み込んで来る。
「ねえ、セレスティア、この前来た時、ピアノは春風の歌を弾けるようになったって言ってたけど、今は、何を弾けるようになったの?」
前回来たのは、半年以上も前のこと。
聞かれたことに答えただけだったのに、そんなことをまだ覚えているなんて……。
嫌な予感がする。
チラリとメリンダを見たら、眉間にしわを寄せ、少し険しい顔になっていた。




