107話 ルベンの願い
普段真面目なルベンは騎士の仕事に誇りを持ち、仕事中に笑うことなどめったにない。
人前で頬を染めるなど皆無である。
そのルベンが、珍しく頬を紅潮させている。
そして切れ長の茶色い瞳が、真剣な眼差しでセレスティアを見つめている。
「王女殿下、先ほどの手術の技術、私は非常に感動いたしました。それで、一つお願いしたいことがあるのです」
「まあ、ルベンがお願いだなんて珍しいこともあるのですね。いったい何でしょう?」
「私は今でこそ王女殿下の専属護衛騎士をしておりますが、その前は魔獣討伐隊のメンバーでした。魔獣の被害が出たと連絡を受ければすぐに出動し、その地域の住民を守り、魔獣を討伐するのです。あっ、決して王女殿下の護衛に不満があるわけではございません。この仕事は陛下から信頼された証だと誇りを持っていますから。ですが、殿下の本日のお働きを見て、是非とも魔獣討伐隊の医療チームに名を連ねて欲しいと思ったのです。多少危険は伴いますが、私が必ず殿下をお守りいたします。どうか、ご一考くださいませんでしょうか?」
普段口数の少ないルベンが、長々と熱弁を振るった。
そんなルベンを驚いた目で見ていたが、セレスティアの返答は早かった。
「わたくしが行くことで国のためになるのなら、喜んで参加いたします」
「本当ですか?」
「ええ。もちろんですわ」
翌日、セレスティアがエドマンドに相談すると、初めは危険だと難色を示したが、彼女の説得で、結局エドマンドは許可を出した。
「国のためでもあり、そなたの評判を上げることにもなる。だが、くれぐれも危険のないように気をつけなさい」
かくしてセレスティアは週に一度の巡回診療と、要請があれば魔獣討伐隊に参加するという二つの仕事を掛け持つことになった。
十月になって秋の気配が深まる頃、魔獣の被害の連絡が入った。
王都から馬車で二日かかる伯爵領で、家畜が大きな被害を受け、家畜の世話をしていた住人たちも襲われて大けがをしていると言う。
討伐隊の騎士たちは急いで馬で駆けつけるが、医療チームは馬車で行くので少し遅れることになる。
しかし馬を頻繁に替え、宿で宿泊せずに馬車を走らせたので、医療チームは騎士に少し遅れただけで到着した。
医療チームは、セレスティアたちの他に、医者が一名とその医者についている看護師が二名。
到着後、手分けして住人のケガの手当を始めた。
ケガをしている人の家を巡り、傷の手当をして薬を渡していく。
ケガ人の多くが、逃げる最中に身体の一部を魔獣の爪でえぐられていた。
魔獣に食われなかったのは、魔獣が家畜を食うことに夢中になっていたかららしい。
セレスティアたちが初めに入った家には、背中を大きくえぐられた男がベッドで苦しんでいた。
魔石液で傷を消毒をして薬を塗り、患部を包帯で巻く。
家族に薬を渡してその使用方法を説明する。
一つの家が終わると、次の家へ。
セレスティアたちは、腕や足に傷を負った患者の治療を続けた。
住民の治療の後は、テントを張り簡易診療所を設置する。
そして魔獣と戦い傷を負った騎士たちに治療を施すのである。
ほどなくして腹を割かれた騎士が運ばれて来た。
顔面蒼白、息も苦しそうに喘いでいる。
護衛についていたルベンが、テントで待機しているセレスティアに声をかける。
「王女殿下のお力が必要になりました。今すぐ治療をお願いします」
騎士の制服が魔獣の爪で切り割かれ、腹から血がドクドクと流れている。
リリアンもオーブリーもミアも、ルベンたち護衛騎士も、腹の傷は貧民街で経験済みである。
セレスティアの指示のもと、速やかに治療をすることができた。
今回の傷も、内臓まで達していなかったことが幸いしていた。
騎士の制服が彼を守ってくれたのだろう。
今回の魔獣は、大人の倍はある大型のオオカミのような魔獣であった。
二日かけて探し出し、倒した数は五匹。
騎士の負傷者は十名である。
これ以上探しても魔獣は見当たらないと隊長が判断し、やっとこの討伐は終わった。
セレスティアたちにとって初めての魔獣討伐隊の参加であったが、彼女たちの仕事ぶりは住民にも騎士たちにも喜ばれ、多くの人に感謝されることになった。
それからも魔獣が現れたと連絡を受ければ、セレスティアたちは必ず同行し、医療の仕事、王女としての公務と、忙しいままに月日を重ねた。
そして翌年の三月、セレスティアは18歳の誕生日を迎えた。




