103話 称賛の嵐
「ただいまご紹介にあずかりましたジョセフ・スコットです」
ジョセフはピアノの前に歩み出て、チューニングの音を確認した後、一礼して、バイオリンを弾き始めた。
広間にいる人々が、うっとりとその音に聞き惚れている。
彼の奏でる音色は、天上から降り注ぐ天使の音、極上の蜂蜜のような深みのある音と呼ばれ、聴くものは皆、彼の天才的なバイオリン演奏の虜になるのである。
二曲披露した後で、ジョセフは、皆に天使のような笑顔を振りまいた。
「本日は皆様にもう一つのサプライズ演奏をご用意しました。ピアノとバイオリンの二重奏を披露いたします。王女殿下、どうぞこちらへ」
「おお、王女殿下が?」
「ほう。これは楽しみだ」
人々が驚きと期待を込めた目でセレスティアを見つめる。
一番驚いたのはレジーナであったが、彼女はその驚きを必死に隠していた。
ジョセフの言葉で前に出たセレスティアは、ピアノの前で皆に一礼する。
二人の演奏が始まった。
子どものときにも合奏した経験があるが、成長した二人の演奏はさらに上を行く。
この上なく美しい調べが会場内に満ち溢れ、聞く者の心を掴んで離さない。
実はセレスティアは、フィリウスから二重奏の計画を持ち掛けられていた。
母上は二か月後のサロンに姉様を招待するつもりだ。
サプライズで演奏したいから内緒で練習してほしいと、楽譜を渡されていたのである。
ウイキヌス王国の芸術サロンは特に有名で、そこで演奏するのだからと、気合を入れて練習してきた。
フィリウスの期待に応えるためにも頑張らなくてはと、一生懸命に練習したのである。
ところが、今朝になって、ジョセフが来ることになったから、ジョセフとサプライズ演奏してほしいと言ってきたのである。
驚いたが、フィリウスがそう言うのだから仕方がない。
セレスティアは、その申し出を受け入れ、ジョセフと演奏することになったのである。
いきなりの合奏であったが、やはりジョセフは上手かった。
セレスティアの演奏に、見事にピタリと合わせてくる。
セレスティアは、何の迷いもなく安心して最後まで弾くことができた。
演奏が終わったとたん、会場に割れんばかりの拍手が湧き上がった。
皆が、ジョセフとセレスティアの演奏に称賛の嵐を送っている。
「王妃陛下、このようなサプライズを計画していたとは! なんと素晴らしい!」
「いやはや本日の芸術サロンは、大成功ですな。」
「実に素晴らしい演奏でした。こんなに感動できたのも、王妃陛下のお陰です。ありがとうございます」
ジョセフとセレスティアへの称賛は、それを企画したと思われたレジーナへの称賛へと変わっていく。
二人の演奏のお陰で、レジーナの芸術サロンは、大成功に終わった。
サロンが終わってから、レジーナは、セレスティアに労いのお茶の時間を設けた。
「あなたとジョセフの演奏は本当に素晴らしかったわ。いったいいつから打ち合わせしていたの?」
「実は二か月前に、フィリウス様から楽譜を渡されていたのです。ジョセフ様と演奏すると聞いたのは今朝なのです」
「まあ、あの子が? きっとあなたのことを思って計画したのでしょう。ちょっとびっくりしたけれど、お陰でサロンは大成功に終わったわ。セレスティア、あなたには負けたわ。ああ、これはわたくしが敗北したと言う意味ではないのよ。ふふっ、本当は格の違いを見せつけようと思っていたの。でも、そんなことを思うわたくしが傲慢だったのね。あなたの芸術に対する知識も教養も本物だわ。それをわたくしが認めたってことなの」
「王妃陛下、ありがとうございます」
「ところでセレスティア、あなたもそろそろ自分に合う公務を選んでみてはどうかしら?何か得意分野はあるのかしら?」
レジーナに公務の話を聞き、セレスティアに迷いはなかった。
「わたくしは医療関係のお仕事に携わりたいと思っています。おそらくそれが、わたくしの知識、経験を生かせる最大の公務だと思っています」
「まあ、医療ですって? 医者の真似事でもするつもりなの?」
「いえ、真似事ではなく、フォーサイス領では実際に医者として働いておりました。看護師、薬剤師の仕事もしており、定期的に農村部を回り無料の医療活動も行なっていました」
「まあ、それでは振興、推進と言うよりも、現場仕事に関わりたいってことかしら?」
「はい。せっかく覚えた技術や知識を無駄にしたくはありません。きっと皆様のお役に立てると思います」
「王女が現場に立って医者の仕事をするのはどうかと思うけれど、わたくしから陛下に相談しておきましょう」
「ありがとうございます」
セレスティアは、この国で自分を生かせる道をやっと見つけることができたと思った。




