101話 僕の想い
セレスティアは、ジョセフの熱を帯びた青い瞳に射抜かれたように、身体が固まってしまった。
二度目のプロポーズ、一般の女性ならば、こんなに美しい男性から結婚を申し込まれたら、舞い上がって喜ぶのかもしれない。
しかしセレスティアは、前回同様、困惑してしまった。
「あ、あの…、わたくしは王女の身分になってまだ日も浅く、慣れることで精一杯なのです。とても結婚のことなど考えることはできません。それに、王族の結婚は、わたくし個人で決められるものではないと思います」
「ああ、そうだな。君を見て気が早ってしまったようだ。困らせて悪かった。でもどうか覚えていて欲しい。僕の想いは変わらない。今は無理でも、前向きに考えて欲しいんだ」
ジョセフの真剣な瞳は、じっとセレスティアを捕らえて離さない。
「ジョセフ様、申し訳ございません。わたくしには何と言って良いのかわからなくて……」
「ふふっ、君のその慎重なところも、僕は好きだよ」
「ジョ、ジョセフ様、からかいが過ぎますわ」
セレスティアは話題を変えたいと思い、前から気になっていたことをジョセフに尋ねることにした。
「あの、話は変わりますが、ゴルデス領の戦争は、ベルランテ軍が勝利を収めたと聞きました。エルヴィンが無事に帰ってきたのかご存知ですか?」
「エルヴィン? ああ、エマーソン家の使用人の名前だね。使用人のことをいちいち心配するなんて、君は優しすぎるよ」
「いえ、そんなことは。ジョセフ様、何かご存知なら教えてください」
ジョセフはエルヴィンの話題から話を逸らしたつもりであったが、セレスティアは、執拗に食い下がってきた。
王都に住んでいて、エルヴィン・ベラトールの名前を知らない者はいないだろう。
勝利に貢献した英雄として、凱旋パレードでは将軍レックスの隣で騎乗していた。
論功行賞では、国王陛下から直々に男爵位と領地を賜ったのだ。
平民から貴族へと昇進した希望の星だと、人々の間で大いにもてはやされていた。
「悪いけど、使用人のことまでわからないよ。無事に帰って来てくれるといいね」
「そうですか。もし、何かわかったら教えてくださいませんか?」
「ああ、何かわかったらね」
おそらく僕から教えることはないだろうと、ジョセフは、思うのだった。
「ジョセフ様、王妃陛下がお呼びです」
ジョセフの侍従が、バルコニーにいるジョセフに声をかけた。
「ああ、わかった。今行く」
ジョセフは侍従から再度セレスティアに視線を移す。
「セレスティア、良い返事を待っているよ」
二人は会場に戻り、ジョセフは、貴族に囲まれ談笑をしている王妃のもとへ、セレスティアは王族専用の椅子に座り、話しかけてくる貴族たちの相手をして時間が過ぎていった。
セレスティアのお披露目は順調に進み、予定通り終わった。
皆がセレスティアを美しい王女だと褒めそやし、ぜひとも我が息子の嫁にと、どこまで本気かわからぬことを言う高位貴族まで現れている。
王妃レジーナは、複雑な思いでそれを見ていた。
セレスティアに王族のような品格があるのは認める。
だが、あまりにも堂々としている姿を見るにつけ、図に乗っているようにも感じられた。
フィリウスの手前、優しい王妃をアピールしたが、本気で優しくしたかったわけではない。
かといって、虐めるなどと、姑息なことはしたくない。
レジーナは、ぱっと出の王女と、長らくこの地位にいる自分との格の違いを見せつけて、鼻をへし折ってやりたいと考えた。
その一つの手段として、レジーナは公務である芸術の振興を選んだ。
レジーナがこの公務の中で特に力を入れていることは、若手の才能ある芸術家を発掘し支援をすることで、未来に大きな花を咲かせることである。
それは、この国の芸術文化を高めることになり、諸外国と渡り合う大きな武器にもなっている。
現に、過去の王妃の活躍で、世界的に有名な芸術家をウイキヌスから何人も輩出している。
二か月後にレジーナが開く芸術サロン、そこにセレスティアを連れて行こうと考えた。




