100話 会えて良かった
セレスティアとジョセフは一礼をした後、手を取り合って踊り出す。
踊り出してすぐ、セレスティアはジョセフのリードの上手さに驚いていた。
相手が変わるだけで、こんなに踊りやすくなるなんて……。
昔からジョセフは何をしても如才なくこなし、抜かりがないとは思っていたが、成長してもそれは変わらないのだと改めて思うのだった。
「セレスティア、驚かせてめんね。フィリウスから聞いて、いてもたってもいられなくて急いできたんだ」
急いで来たと言うが、アカデミーからここまで、普通なら馬車で二週間近くかかる。
隣町まで買い物に行くような、そんなに簡単な距離ではない。
「まさかこのようなところで、ジョセフ様にお会いできるとは思ってもいませんでしたから、本当に驚きました」
「セレスティア、本当に会えて良かった。君に会えて嬉しい。久しぶりに会った君は、ますますきれいになってる」
まっすぐにセレスティアを見つめて賛辞を送るジョセフに、セレスティアはどう返事を返して良いのかわからず、思わず目を伏せてしまう。
このままでは目のやり場に困ると思ったセレスティアは、話題を変えることにした。
「ジョセフ様、フィリウス様とまるでご兄弟のように親し気でしたが、どういうご関係なのですか?」
「前に話したと思うけど、僕の母はウイキヌスの侯爵家の出身でね。その母親、つまり僕の祖母は前国王陛下の姉で、侯爵家に降嫁したんだ」
「まあ、と言うことは、ジョセフ様は王族の孫にあたると言うことですね」
「そう。だからセレスティアとは曽祖父母が同じだから、はとこになるんだ。これには驚いたよ」
「わたくしも今初めて聞いて、ジョセフ様と血がつながっていたなんて本当に驚きました」
「まあそんなわけで、僕がウイキヌスに遊びに行くと、祖母はその度に僕を城に連れて行くから、フィリウスとは兄弟のように過ごしてね。何故かフィリウスにはずいぶん慕われるようになった」
「フィリウス様がジョセフ様をお慕いする気持ちは、わかる気がします」
「ははっ、それはありがとう。ところでセレスティア、ダンスが終ったらちょっといいかな?」
セレスティアは、ジョセフの言葉の意味を考えた。
おそらく踊りながら話すことではないのだろう。
気配りが行き届いている彼のことだから、誰にも聞かれない場所で話したいと言うことに違いない。
それに、自分からも話しておきたいことがある。
「はい。少しだけなら」
「良かった。じゃあ、ここからはダンスに専念しよう」
数多くの男女が手を握りダンスをしているのだが、セレスティアとジョセフのペアは一際優雅に輝いていた。
誰もがうっとりするような美男美女であり、流れるようなステップと途切れなく滑らかに変化する動きは、指先から足先に至るまで二人の息も音楽も見事に調和している。
クルクル回るその姿は、まるで大輪のバラが咲き誇っているようだ。
ダンスが終わって互いに挨拶をしているとき、会場は割れんばかりの拍手が湧きおこった。
少し息が上がり頬を染めた二人は、風に当たりにバルコニーへと移動した。
「セレスティア、楽しかったよ。君と踊れて本当に良かった」
「ジョセフ様、わたくしもとっても楽しかったですわ」
そこへ給仕係の男が飲み物を盆に載せてやって来た。
「ああ、ありがとう。セレスティアはアップルジュースでいいかな?」
ジョセフがグラスをとり、セレスティアに渡す。
アップルジュースは、ジョセフがエマーソン家に遊びに来た際に、セレスティアが好んで飲んでいたジュースである。
「あの、覚えていてくれたのですね」
「もちろんだとも。さあ、二人の再会を祝って乾杯しよう」
「ええ」
二人はお互いに手にしたグラスをチンと合わせて、乾いた喉を潤した。
給仕係が去り二人きりになると、ジョセフは急に真面目な顔になった。
「セレスティア、君が嫁いだ日、僕は君に会いに行ったんだ。連絡を受けて急いで馬を走らせたけど、間に合わなかった。そして、その日のうちに君が死んだと聞かされた。間に合えば、君を攫って逃げるつもりだったから、もう少し早ければと、僕はものすごく後悔したんだ」
「そ、そんなことが……。わたくしのために、申し訳ございませんでした。あの、ジョセフ様、私はベルランテ王国では死んだことになっています。ですからわたくしが生きていることは内緒にして欲しいのです」
「ああ、わかっているよ。フィリウスから僕が話したセレスティアと同じ娘が王女になって現れたと連絡を受けたとき、絶対に君だと思った。だけど生きていることをシモンズ伯爵に知られたらまずいだろう? だからまだ誰にも話していない。僕の両親にも話していないんだ」
「そこまで考えてくださっていたのですね。ありがとうございます」
「セレスティア、二年前の夏の日に君に告白した気持ちは今も変わらない。今年の秋で僕は三年生になる。卒業したら僕と結婚して欲しい」
ジョセフのセレスティアを見つめる青い瞳は、燃えるような熱を帯びていた。




