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ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


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EP 6

仮免試験とヤンデレ月兎の超音速マッハカチコミ救護

「――ルームミラーヨシ、サイドミラーヨシ、目視ヨシ。発進します」

ルナミス魔導自動車教習所、第一コース。

俺はウインカーを出し、教習車(相棒のアラトによって完全にデバッグ・整備し直された旧型魔導車)を静かに発進させた。

本日は、教習所内のコースを規定通りに走り切る「仮免試験」である。

「ひ、ひぃぃ……た、頼むから、昨日のような壁を使ったピンボールドライブだけはやめてくれよ……。俺には妻と三人の子供がいるんだ……」

助手席で採点ボードを震える手で握りしめているのは、昨日の実車教習で完全にトラウマを植え付けられたギド教官だった。

鬼軍曹の威厳はどこへやら、彼は俺がアクセルを踏み込むたびに「ビクッ!」と肩をすくませている。

「安心してくださいよ、教官。今日はルールに則って、時速30キロの安全運転でコースを回りますから」

「ほ、本当だな!? 途中でキノコが生えたり、雷を纏ったりしないな!?」

「ええ、今日はルナ(エルフ)も外に出していませんし、発電機も大人しくしてます」

俺は淡々と答えながら、交差点の手前でブレーキを踏んだ。

だが、その時――。

「……ツッ、いてて」

俺は思わず、首の裏に手を当てて顔をしかめた。

昨日の暴走エコカードライブで、クランクの壁に単管パイプを激突させ、直角にバウンドした際の強烈なG(重力加速度)。そのせいで、俺の首はひどい「むち打ち状態」になっていたのだ。

ブラック企業時代、居眠り運転で電柱に軽くぶつかった時と同じ痛みが首を走る。

「ど、どうしたカミシロ!? まさか、発作か!? 魔力ゼロの副作用か!?」

「ただのむち打ちです。……よし、左右確認。進みます」

俺は痛みを堪えながら、冷静にハンドルを切った。

運転に支障はない。このまま規定コースをノーミスで回りきれば、仮免合格は確実だ。

一方、その頃。

教習所のガラス張りの待合室では、同居人のヒロインたちが窓際にへばりつき、俺の仮免試験を見守っていた。

「あーん、パクッ。春太さん、今日はとても大人しく走っていますわね。昨日みたいな派手な爆発がないと、少し退屈ですわ」

リーザは無料の特製キャンディー(本日30個目)を頬張りながら、マイボトルのジュースをすすっている。

「みんなー! 無免許店長の仮免試験だよー! でも今日はただの安全運転みたい。絵面が地味だから、スパチャの勢いが落ちてきたかもー!」

キュララはエンジェルスマホを構え、配信の同接数が伸び悩んでいることに頬を膨らませていた。

「春太さんの車、今日は植物さんが生えてきませんのね。少し寂しいですわ」

ルナは昨日の惨劇を全く反省していない様子で、おっとりと微笑んでいる。

そして――。

その待合室の最前列で、窓ガラスにへばりつくようにしてコースを見つめている女が一人。

月兎族の村長、キャルル・ムーンハートである。

彼女の特異な「聴覚」と「視覚」は、コースの遥か遠くを走る教習車の中の異変を、確実にとらえていた。

「……ッ!!」

キャルルは持っていた人参柄のハンカチを、ギリィッ! と引き裂かんばかりの力で握りしめた。

「春太様が……春太様が、首を押さえて苦しそうになさっています……! 昨日の教習のせいで、お体に深刻なダメージが残っていたのですね……っ!」

キャルルの中で、ヤンデレ気質と「困っている人を絶対に放置できない」という底なしの善性が、最悪の化学反応を起こした。

さらに、今日はたまたまルナミス帝国のカレンダーで『満月』の日。

月兎族である彼女の体内には、月の満ち欠けによる膨大なエネルギー(ハイテンション状態)が完全に充填されていた。

「アラト様! 私は行きます!」

「……行く? どこへだ」

後ろのソファで教習所の配線図(ハッキング用)を読んでいたアラトが、顔を上げる。

「決まっています。春太様の救護です! あの痛みを抱えたまま運転を続けさせるなど、私の心臓が張り裂けてしまいます! 今すぐ、私のこの手で極上の『月光薬』を注ぎ込み、春太様を癒やし尽くして差し上げます!!」

「待て、キャルル。現在ハルタは試験の最中だ。外部からの干渉は『試験無効』のリスクがある。それにあの速度で移動中の車両に接触すれば、物理的に大惨事に――」

アラトの論理的な制止の声は、ハイテンション状態のキャルルには届かなかった。

「タローマン」で購入した特注の安全靴。

その踵に仕込まれた『雷竜石』が、キャルルの闘気と月のエネルギーに呼応し、バチバチと紫電の雷光を放ち始めた。

「超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)――起動ッ!!」

ドォォォォォォォォォォォンッ!!!

教習所の待合室の窓ガラスが、爆風で粉々に吹き飛んだ。

「きゃあああっ!?」「スープがこぼれましたわ!?」というキュララとリーザの悲鳴を置き去りにして、キャルルは文字通り『雷の矢』となってコースへと飛び出した。

「……マッハ1.2。運動エネルギーは約3万4000ジュール。愚問だが、あれは歩兵用の対物魔砲と同等の威力だぞ。ハルタ、死ぬなよ」

アラトが割れた窓枠からストップウォッチを片手に呆れ返る中、キャルルは一直線に教習車へと向かっていた。

「はい、踏切の手前で一時停止。窓を開けて、音の確認ヨシ」

俺は教本通り、教習所内の踏切オブジェクトの前で車を停め、完璧な安全確認を行っていた。

隣のギド教官も「うむ、完璧だ。昨日とは大違いだな」と、ようやく安堵の表情を見せ、採点ボードに丸をつけている。

だが、俺が窓を開けたその瞬間。

遠くから、ジェット戦闘機が低空飛行してきたような『轟音』と『衝撃波』が迫ってきた。

「な、なんだ!? ワイバーンか!?」

教官が空を見上げる。

「春太様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

「は……?」

ドンッッッッ!!!

教習車のボンネットに、紫色の雷を纏った小柄な影が、ミサイルのように着弾した。

分厚い鉄板のボンネットがV字にへこみ、サスペンションが悲鳴を上げて車体が激しくバウンドする。

「な、ななななっ!? なんだお前は!!」

ギド教官が絶叫する。

ボンネットの上からフロントガラス越しに俺を見つめていたのは、ウサギの耳をピンと立て、息を荒くしたキャルルだった。彼女の特注安全靴からは、まだバチバチと雷が放電されている。

「キャルル!? お前、何やってんだ! ここは試験中のコースだぞ!」

「春太様! 首の痛みを我慢なさるなんて、水臭いではありませんか! このキャルルが、すぐに天国へ導いて差し上げますっ!」

キャルルはボンネットから運転席のドアへと飛び移ると、ロックされているドアを『素手』でベリィッ! と引き剥がした。ドアがヒンジごとひしゃげ、コースの芝生へと吹っ飛んでいく。

「おいふざけんな! ドアがねえと試験失格になるだろうが!」

「さあ、お口を開けてください! 私の特製『月光薬』です!!」

俺の社畜的な抗議を完全無視し、キャルルはエプロンのポケットから、黄金色に輝く怪しげな液体の入った小瓶を取り出した。

陽薬草に月兎族の力を注ぎ込んだ、どんな病も治す秘伝の薬だ。ただし、満月状態のキャルルが無理やり飲ませるため、治癒の過程で凄まじい肉体的ショックを伴う。

「待て! 俺は今、ブレーキを踏んで――」

「えいっ♡」

ゴボボボボボボッ!!

俺の口に、強引に小瓶が突っ込まれ、極上の治癒ポーションが流し込まれた。

「んぐぉぉぉぉぉっ!?」

瞬間、俺の体中を数万ボルトの電流が駆け抜けたような衝撃が襲った。

細胞という細胞が一瞬で破壊され、次の瞬間に超スピードで再生していく。痛い! でも超気持ちいい! いややっぱり痛い!

文字通り、地獄と天国を反復横跳びするような圧倒的な回復力。

だが、その強烈な治癒魔法の効果で、俺の首の「むち打ち」は一瞬にして完全に完治していた。

「ぷはぁっ……!! ハァ、ハァ……! バカ野郎、運転中に急に薬を飲ませる奴があるか!」

「よかった……! 春太様のお顔に血色が戻りました!」

キャルルは俺の怒鳴り声などどこ吹く風で、涙ぐみながら俺の首に抱きついてきた。

「ひ、ひぃぃぃ……っ! う、兎の魔獣が出たぁぁぁ! たす、助けてくれぇぇ!」

助手席で、ドアをむしり取られて狂乱状態になったギド教官が、泡を吹いて気絶寸前になっていた。

すると、キャルルのヤンデレセンサーが、今度は教官へと向いた。

「あら。そこの教官さんも、ひどくお顔の色が悪いですね。精神的なダメージが見受けられます。安心してください、私が見過ごすはずありません!」

「い、いや、来るな! 来るなぁぁぁ!」

「えいっ♡」

ゴボボボボボボッ!!

ギド教官の口にも、容赦なく月光薬がぶち込まれた。

「あががががががっ!」と教官がシートの上で痙攣し、白目を剥いて完全に気絶した。精神的なトラウマごと全回復させるという、暴力的なまでの善性である。

「よし! 人命救助完了です! あっ、ついでにこの鉄の箱(教習車)さんも、なんだか疲れているみたいですね!」

「おい、やめろキャルル! それは機械だ!」

俺の制止も間に合わず、キャルルは残った月光薬を、俺の足元に設置されていた「ポータブルガソリン発電機(昨日のまま)」の給油口にドバドバと流し込んだ。

ブゥゥゥゥンッ……キュイィィィィィン!!

ガソリンと月光薬が謎の化学反応を起こし、発電機が「神聖なオーラ」を放ち始めた。

排気ガスが完全に浄化され、マイナスイオンとラベンダーの香りがするそよ風となって吹き出してくる。車体が黄金の光に包まれ、なんだか教習車までが「全回復」してしまったようだった。

「ふふっ。これで皆さま、健康第一ですね!」

キャルルは両手を腰に当て、満足げに微笑んだ。

「……ふざけんなよ。これ、試験どうすんだよ」

俺は運転席(ドア無し)に座ったまま、気絶して口から一筋の煙を吐いている教官と、聖なる光を放つ発電機を見比べて、深くため息をついた。

どんなブラック企業でも、試験中に身内がマッハ1で窓をぶち破って乱入してくるなんてマニュアルには書いていない。

数十分後。

教習所の管制塔からサイレンを鳴らして駆けつけてきた責任者(所長)と、教習所のスタッフたちが、コース上で止まっている俺の車を包囲した。

俺は両手を上げ、冷静に事情を説明した。

「……というわけで、この身内キャルルが暴走しただけで、俺の運転自体は教本通り、一時停止の白線を1ミリも越えていません」

所長は、ドアがむしり取られた教習車と、安らかな顔(全回復状態)で気絶しているギド教官、そして俺を交互に見て、ゴクリと唾を飲んだ。

「お、恐ろしい……。マッハ1で突撃してくる獣人族の襲撃を受けながら、ハンドルから手を離さず、しかも教官を無傷(?)で守り抜いただと……?」

「ええ。危機回避能力には自信があります」

「み、見事な緊急時の対処だ……。ルナミス帝国の交通ルールである『弱者は強者から逃げる』という例外処理をも超える、圧倒的な防衛力……!!」

所長はなぜか感動の涙を流し、俺の手をガシィッと握りしめた。

「合格だ! カミシロ・ハルタ! 貴様のような強靭な精神力を持つ男こそ、ルナミスの公道を走るにふさわしい! 仮免試験、文句なしの合格とする!」

「……ありがとうございます。でも、ドアの弁償代は俺が払いますから、請求書はホームセンター宛に送ってください」

理不尽な襲撃と、ヤンデレヒロインの過剰な優しさ。

そのすべてを冷静に処理し、俺は無事に『仮免許』を手に入れた。

「春太様! おめでとうございます! さあ、合格祝いにルナミスキング(ファミレス)で、苺パフェを食べましょう!」

「お前のせいで不合格になるところだったんだぞ。……まぁ、奢ってやるから反省しろよ」

こうして、俺の教習所生活の折り返し地点は、暴風雨のようなカチコミと共にクリアされた。

残すは、ルナミス帝国の一般車両がひしめく公道での『路上教習(第2段階)』のみ。だが、あの待合室にいる同居人たちが、俺をただ安全に走らせてくれるはずがないことだけは、火を見るよりも明らかだった。

――第97話へ続く。

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