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ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


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EP 2

教習所はファミレスじゃない! 無料サービスに群がる同居人たち

「ルナミス魔導自動車教習所」。

ルナミス帝国の郊外に位置するその施設は、俺の想像以上に立派で広大だった。

魔導建材で滑らかに舗装された広大なコース、S字やクランクらしき怪しげな障害物エリア、そして中央にそびえ立つガラス張りの巨大な本館ビル。地球の自動車教習所と比べても遜色ない、いや、むしろ魔導技術のせいで無駄に豪華な作りをしている。

「へえ、意外とちゃんとした施設じゃないか。これならスムーズに免許が取れそうだな」

「愚問だ。見た目が立派なシステムほど、内部のコードはスパゲッティ状態になっているものだ。油断するな、ハルタ」

俺の隣で、エプロン姿のアラトがイチゴ味の飴玉をガリッ!と噛み砕きながら鋭い視線を建物に向ける。元SEとしての経験則らしい。

確かに、ここは異世界。地球の常識が通用するとは限らない。俺は気を引き締めて本館ビルの自動ドア(魔力感知式)をくぐり抜けた。

「わぁああああっ! 春太さん、本当ですわ! 本当に『無料』って書いてありますわーっ!!」

自動ドアが開いた瞬間、俺の後ろからすさまじい勢いで飛び出していった影があった。

芋ジャージに健康サンダルという、アイドルらしからぬ出で立ちの人魚姫、リーザである。

彼女の視線の先、広々とした教習所のロビーの片隅には、『教習生・同伴者専用 休憩スペース』が設けられていた。そこには、魔導保温器に入ったスープ、数種類のジュースが出るドリンクサーバー、そして山盛りの特製キャンディーが置かれている。さらに奥には、最新型の魔導マッサージチェアまで完備されていた。

「す、すごいですわ……! コンソメ味のスープも、甘い果実水も飲み放題! しかもこの飴玉、一つ一つが個包装されています! これならポケットに入れて持ち帰っても衛生的に問題ありませんわ!」

リーザは感動の涙をポロポロと流しながら、持参した巨大なマイボトルに無料のコンソメスープをなみなみと注ぎ込み始めた。その手際の良さと躊躇のなさは、日々の炊き出しやスーパーの試食コーナーで鍛え上げられた歴戦のプロの動きだ。

「おいリーザ、お前それ完全に乞食……いや、ポイ活の域を超えてるぞ。せめて備え付けの紙コップを使え」

「何をおっしゃいますの春太さん! アイドルたるもの、与えられたチャンス(無料)はすべて自分の魅力カロリーに変える義務がありますの! ああ、温かいスープ……五臓六腑に染み渡りますわ……っ!」

よほど普段のパンの耳と雑草サラダの生活が堪えているのか、スープをすするリーザの顔には、この世のすべての幸せを手に入れたような後光が差していた。

「はいはーい! 全国、いや全世界のリスナーのみんな、おはきゅらー! 今日はなんと、ルナミス帝国の魔導自動車教習所から生配信だよー!」

リーザがスープに感動している横で、今度は天使族のキュララが、空中にエンジェルスマホを浮かべて大声で喋り始めた。

完璧にセットされた髪とキラキラの衣装(ルナミスデパートで購入)。彼女の周りにはすでに配信のコメントが滝のように流れているのが見える。

「今日はね、うちのシェアハウスの無免許店長(春太のことだ)が、魔導車に乗るために教習所に殴り込みに来たの! みんな、無事に免許が取れるか予想してみてね! あ、スーパーチャットありがとう! 『エンストして泣く方に金貨3枚』ね、把握!」

「勝手に俺を賭けの対象にするな! そして教習所のロビーで配信すんな、許可取ったのか!?」

「大丈夫大丈夫、後でルナミス警察の知り合いに口利きしてもらうから! ほらリーザちゃん、カメラに向かって一言!」

キュララがスマホを向けると、リーザは口の周りにスープをつけたまま、アイドルのスイッチをバチン!と入れた。

「皆さま、ごきげんよう! 絶対無敵のスパチャアイドル、リーザですわ! 今日は春太さんの応援に来ておりますの! もしよろしければ、この『五円玉』の穴から、私との輝くディスタンスを覗いてみませんこと!? スパチャよろしくお願いいたしますわー!!」

(チャリーン♪ チャリーン♪)

「おぉっ、スパチャの音が鳴り止まない! リーザちゃん、そのスープ飲んでる姿が『哀愁があって推せる』ってコメントが殺到してるよ!」

ダメだこいつら、完全にここを自分のスタジオか何かと勘違いしている。

俺が頭を抱えていると、今度はロビーの観葉植物の前に立っていたエルフのルナが、ふわりと微笑んだ。

「あらあら……この教習所の植物さんたち、魔導排気ガスのせいか、少し元気がありませんわね。かわいそうに……私が少しだけ、元気にして差し上げますわ」

「おいルナ、やめ――」

俺が止める間もなく、ルナが指先から強大な自然魔法の光を放った。

次の瞬間、ロビーの隅にあったただの鉢植えが、メキメキと音を立てて急成長を開始した。ツルが天井のシャンデリアに絡みつき、巨大な葉が受付カウンターを覆い隠し、色鮮やかな大輪の花がポンポンと咲き乱れる。

わずか数秒で、近代的なロビーの一角がアマゾンの熱帯雨林と化してしまった。

「ふふっ、これで植物さんたちも深呼吸ができますわ」

「お前が深呼吸させてどうする! 完全に施設の一部を破壊してるじゃないか! 受付のお姉さんがジャングルに埋もれて悲鳴上げてるぞ!」

俺は慌てて受付カウンターに駆け寄った。

だが、そこにいたのはジャングルに飲み込まれた受付嬢だけではなかった。

月兎族のキャルルが、受付カウンターにバンッ!と両手をつき、ニコニコと極上の笑顔を浮かべながら、受付嬢に詰め寄っていたのだ。

「あの、受付の方? 春太様とアラト様が入校される件ですが……おわかりですね? もし教習中に、教官の理不尽な指導や、整備不良による事故で春太様が指一本でも傷つくようなことがあれば……」

キャルルの瞳の奥が、スッと冷たく濁る。ヤンデレ特有の、底知れぬ圧力がロビーの空気を凍らせた。

「私がこの教習所の関係者全員を、一度半殺しにしてから、極上の月光薬で全回復させて差し上げます。地獄と天国の反復横跳び……お望みなら、今すぐここでデモンストレーションをご覧に入れますが?」

「ひぃぃぃぃっ!? わ、わかりました! 神城様ですね、VIP待遇でご案内いたしますぅぅぅ!」

受付嬢はジャングルの葉っぱを頭に乗せたまま、涙目で入校書類にバンバンとハンコを押していく。

「お前らいい加減にしろ!! ここはファミレスでも配信スタジオでもないんだぞ!」

俺はついに耐えきれず、大声でツッコミを入れた。

72時間連続残業を乗り越えた俺の胃壁が、今まさにストレスで穴が開きそうになっている。

すると、アラトがエプロンのポケットから家計簿と電卓を取り出し、冷静な声で言った。

「ハルタ、落ち着け。私が計算したところ、このロビーで提供されている飴玉とスープの原価は、教習料金の約0.05%にすぎない。リーザがこのペースでスープを飲み続けた場合、教習料金の元を取るには約3ヶ月間、毎日12時間滞在する必要がある。つまり、教習所の経営に対するダメージは軽微だ。安心して入校手続きを進めろ」

「そういう問題じゃない! そもそも俺が払う教習料金は金貨10枚もするんだぞ! なんでお前らが元を取ろうとしてるんだ!」

俺の悲痛な叫びも虚しく、リーザはすでに魔導マッサージチェアに深々と腰を下ろし、「あぁぁ……極楽ですわぁ……」とだらしない声を上げている。キュララはその姿を面白おかしく実況し、ルナはジャングル化した観葉植物にジョウロで水をやり始め、キャルルは俺に向かって「春太様、いつでも救急箱の準備はできております!」と人参柄のハンカチを振っていた。

「……はぁ。もういい、手続きだけさっさと済ませる」

俺はため息をつきながら、涙目の受付嬢から教習原簿を受け取った。

「あの、神城様……一つ確認ですが」

受付嬢が、俺のステータス用紙を見ながら、申し訳なさそうに、しかしどこか見下したような視線を向けてきた。

「神城様は、その……魔力値が『ゼロ』、闘気量も『ゼロ』と記載されていますが、間違いありませんか?」

「間違いありません。完全な一般人です」

「……失礼ですが、当教習所の『魔導車』は、魔力か闘気をペダルに流し込むことでエンジンを起動し、制御する仕組みになっております。魔力も闘気もない方が運転席に座っても、ただの鉄の箱から一歩も動かすことはできませんが……本当に、教習を受けられるおつもりですか?」

受付嬢の言葉に、周囲にいた他の教習生(獣人族の若者や、ルナミス軍の兵士たち)が、クスクスと嘲笑の声を漏らした。

『おい見ろよ、魔力ゼロの人間が魔導車に乗る気らしいぜ』

『馬鹿か? エンジンすらかけられずに泣いて帰るのがオチだろ』

理不尽な見下し。

だが、俺の心は1ミリも折れない。

ブラック企業で「お前みたいな無能にこのプロジェクトが回せるか!」と社長に灰皿を投げつけられた夜に比べれば、こんな冷ややかな視線など、そよ風のようなものだ。

俺は受付嬢の目を見つめ返し、淡々と答えた。

「問題ありません。車が動かないなら、動くように『工夫』するだけです。俺の目的は、この教習所で免許証を受け取ること。それ以外に興味はありません」

俺が一切屈しない態度を見せると、受付嬢は気圧されたように言葉を詰まらせた。

隣に立つアラトも、フッと口角を上げる。

「聞いたか? 我々のリーダーは『不可能』という言葉を辞書から削除した男だ。技術的な制約など、私の腕でどうとでもなる。……さあハルタ、まずは『学科教習』からだ。異世界の狂った交通ルールを、論理で叩き潰してやろう」

「ああ、行くぞ。……お前ら、絶対に俺たちの邪魔をするなよ! 大人しくスープ飲んでマッサージチェアで寝てろ!」

ヒロインたちに釘を刺し、俺とアラトは第一教室へと向かった。

振り返ると、ロビーはすでに彼女たちの「完全な私室(シェアハウスの延長)」と化しており、他の教習生たちが恐れをなして近寄れない魔境になっていた。

前途多難すぎる。

だが、あの白い軽トラをポポロ村のインフラとして走らせるためだ。

俺は腹を括り、異世界の狂った教習カリキュラムへと足を踏み入れた。

読んでいただきありがとうございます。

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