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ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


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EP 8

『ホムセン店長のブラック論破!「彼女は有給休暇中だ」』

「不浄なる下界の店ごと、ルチアナ様をたぶらかした罪をその身で贖うがいい! 天界の裁きを受けよッ!!」

 ポポロ村の広場。

 天界監査局『ヴァルキュリア部隊』の隊長・エルザが、白鳥の翼を大きく羽ばたかせ、手にした十字の槍を高々と掲げた。

 その穂先には、タローマンという店舗はおろか、ポポロ村全体を消し飛ばしかねないほどの巨大な『浄化の光』が収束しつつあった。

「ちょ、ちょっと春太! マジで撃ってくるわよ! 早く逃げないと!」

 キャルルがパニックになり、俺の腕を引く。

 だが、俺は逃げなかった。

 ネクタイ代わりに首に巻いている手ぬぐいをクイッと締め直し、光り輝くヴァルキュリア部隊の真正面へと、堂々たる足取りで進み出た。

「ちょっと待て、そこの監査局のネーチャン」

 俺は、上空に浮かぶエルザに向かって、極めて事務的で冷徹な声を放った。

「なんだ、下等生物。命乞いなら聞かんぞ。ルチアナ様を奴隷のように扱い、あまつさえ油まみれのイモで餌付けした罪は万死に値する!」

 エルザが青い瞳で俺を睨み下ろす。

「奴隷だの餌付けだの、人聞きの悪いことを言うな。俺と彼女の間には、双方合意の元で締結された『雇用契約』が存在する」

 俺は懐から、ルチアナに無理やりサインさせた(借金返済のための)アルバイト契約書を取り出し、ビシッと提示した。

「それより俺が聞きたいのは、お前ら『神界』の労働環境についてだ。……なあ、お前らのトップであるルチアナは、この世界を創造してから今日まで、一体何年間働いてきたんだ?」

「は? 何を言い出すかと思えば……」

 エルザは怪訝な顔をしたが、すぐに誇らしげに胸を張った。

「ルチアナ様は、このアナステシア世界を創生されてから一万年! ただの一秒たりとも休むことなく、天界の玉座より下界の営みを見守り、神としての尊き責務を全うされてこられたのだ!」

「……一万年。ただの一秒も休むことなく?」

「いかにも! 神は疲労など知らぬ! 神聖なる義務と愛によって、永遠の労働みまもりを続けることこそが、我ら天界の誉れなのだ!」

 エルザのドヤ顔の宣言を聞き。

 俺は、ゆっくりと顔を覆い、天を仰いだ。

「……狂ってやがる」

「なっ!?」

 俺は顔から手をどけ、前世のブラック企業で数々の労基(労働基準監督署)と渡り合ってきた、底なしの『社畜の怒り』を込めた瞳でエルザを睨みつけた。

「一万年もの間、休みなしの連続勤務だと!? ふざけるな! そんなもの、ルナミス帝国の労働基準法はおろか、前世の極東の島国の法律でも一発で業務停止命令が下る超絶ブラック環境じゃねえか!!」

「ぶ、ぶらっく……!? 何を言っている、我ら天界は常に白く清らかだ!」

 エルザが動揺して反論する。

「お前らみたいな、やりがい搾取の洗脳集団が一番タチが悪いんだよ!」

 俺は、エルザに向かって指を突きつけた。

「『疲労など知らぬ』だと? 『愛と義務で永遠に働く』だと!? 俺の前世のクソ役員どもと全く同じ理屈じゃねえか! 『情熱があれば寝なくても働ける』とか『お客様への愛でサービス残業しろ』とか、そんな精神論で現場をすり減らすから、トップが限界を迎えてバックレる(家出する)羽目になるんだ!!」

「な、なんだと……ッ!?」

 俺の凄まじい剣幕と、全く理解不能だが圧倒的な説得力を持つ『社畜の正論』の前に、エルザと天使たちがたじろいだ。

「あのなぁ、神様だろうが何だろうが、労働者には『休息の権利』があるんだよ! 三六協定も結ばず、週休二日すら与えずに一万年連続勤務!? お前ら天界監査局は、トップの労働環境の是正もできない無能の集まりか!!」

「い、いや、我々はただ、神聖なる秩序を……ッ!」

 エルザがしどろもどろになる。

「いいか、よく聞け!」

 俺は、足元でポテトのボウルを抱えて震えているルチアナの肩を、ガシッと力強く抱き寄せた。

「彼女は今、逃亡しているわけでも、仕事をサボっているわけでもない! 一万年分の過酷な労働の末に勝ち取った、『正当な有給休暇』を消化している最中なんだよ!!」

「ゆ、有給休暇……!?」

「そうだ! 労働基準法に基づき、彼女には天界の業務から離れてリフレッシュする権利がある! そして、有休中に何をしようが本人の自由だ。……南の島でバカンスを楽しもうが、下界のホムセンで時給850円のアルバイト(副業)をして借金を返済しようが、雇用主であるお前らが文句を言う筋合いは一切ねえんだよ!!」

 俺の完璧な論破(極論)が、広場に響き渡る。

「……は、春太ぁぁぁっ!!」

 その瞬間、ルチアナが俺の腰に抱きつき、大粒の涙を流して号泣した。

「そうなの! 私、一万年もずーっと同じ椅子に座りっぱなしで、お尻が痛かったの! たまには油まみれのポテトを食べて、皿洗いして汗を流すっていう『リフレッシュ』が必要だったのよぉぉっ! 私の代弁をしてくれてありがとう、店長さぁぁんっ!!」

「……アンタたち、ホントにメチャクチャね」

 後ろで見ていたキャルルが、完全に呆れ果てて額を押さえている。

「ひはははっ! 店長にかかりゃ、神聖なる天界もただの『ブラック企業』扱いだな!」

 アラトが腹を抱えて笑い転げていた。

「お、おのれ……! おのれぇぇぇっ!!」

 エルザの顔が、怒りと屈辱で真っ赤に染まった。

 神聖なる天界の理屈を、下等生物のよく分からない『労働法』とやらで完全にねじ伏せられたのだ。彼女のプライドが許すはずもなかった。

「詭弁だ! そのような汚らわしい理屈、天界では通用せん!!」

 エルザが十字の槍を振り回し、狂乱したように叫んだ。

「ルチアナ様は、我々が力ずくでも連れ戻す! そして、貴様らのような堕落した下等生物は、その不浄な店ごと消し炭にしてくれるわッ!!」

「……おいおい、力ずくかよ。監査局(労基)が実力行使に出るとは、マジで救いようのないブラック組織だな」

 俺は、ルチアナをキャルルの方へ突き飛ばし、作業着のポケットからタローマン特製の『防犯用催涙スプレー(対大型魔物用)』を取り出した。

「お前らみたいな、他人の有休と副業を邪魔するブラック役員は、俺が物理的に退場させてやる!」

「来るぞ春太! 神の魔法の直撃だけは避けないと、村が吹き飛ぶわよ!」

 キャルルがダブルトンファーを構え、俺の隣に並ぶ。

「ひははっ、俺のフライパンで天使の羽を叩き落としてやるぜ!」

 アラトも戦闘態勢に入った。

「者共、構えよ! 天界の鉄槌を下すのだ!」

 エルザの号令と共に、ヴァルキュリア部隊の天使たちが一斉に空から急降下してくる。

 ホムセン店長と、神界の監査局による、史上最低で最大の『労使間トラブル(物理)』。

 俺の愛するタローマンの防衛線と、有給消化中の駄女神を死守するための戦いが、今まさに火蓋を切って落とされたのであった。

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