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ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


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EP 8

【農業チート】化成肥料と種がもたらす、ポポロ村の超進化

 朝の日差しを浴びながら、俺はポポロ村の痩せ細った畑を眺めていた。

「お、おら達の畑が……死んでしまうだァ!」

 振り返ると、俺が畑に撒いた『白い粉』を見た村の長老が、毒を盛られたと勘違いして泡を吹いて倒れかけていた。

「じ、長老! しっかりして! 春太は村に毒を撒くような人じゃないわ!」

 キャルルが慌てて長老を抱き起こし、村人たちが不安そうに俺を取り囲む。

「安心してください。これは『毒』じゃなくて、土を元気にする『薬』みたいなもんですから」

 俺が手にしているのは、ホムセンの園芸コーナーから台車で大量に運んできた『苦土石灰』と『化成肥料』の袋である。

 今朝、俺は店長時代の知識を活かし、園芸コーナーにあった『土壌酸度計』をポポロ村の畑に突き刺して計測してみた。

 結果は最悪。長年の無計画な作付けと、異世界特有の魔力を含んだ酸性雨のせいで、土壌が極度の『酸性』に偏っていたのだ。これでは作物が根から栄養を吸収できず、枯れていくのも当然である。

「この土は、酸っぱくなりすぎてるんです。だからこの『苦土石灰』というアルカリ性の粉を混ぜて、中和してやります。さらに、この『化成肥料』――植物が育つために必要な三大栄養素である窒素・リン酸・カリウムを完璧なバランスで配合した特製肥料を混ぜ込みます」

「ちっそ……? りんさん……?」

 キャルルも村人たちも、聞いたことのない単語に首を傾げている。

 無理もない。この世界には、錬金術や魔法はあっても、土壌の化学分析や合成肥料を作る『科学技術』が存在しないのだ。

「細かい理屈はいい。アラト、頼むぞ」

「任せな店長。……【家庭科】スキル、農作業モード発動」

 麦わら帽子にエプロン姿という、完璧な農家の出で立ちになったアラトが、ホムセンのピカピカのくわを構えた。

「そぉいっ!」

 アラトが鍬を振り下ろすと、恐ろしいスピードで畑が耕され、俺が撒いた石灰と肥料が土に均等に混ぜ込まれていく。【家庭科】は料理や掃除だけでなく、食料生産の根源たる『農作業』においても完璧なフォームとスタミナを発揮するらしい。

 あっという間に、見事なうねが何列も完成した。

「よし、土台はできた。次は『種』だ」

 俺はポケットから、地球の野菜の種――トマト、キュウリ、ナスの種を取り出した。さらに、村の蔵に僅かに残っていた『太陽芋(アナステシア世界の庶民の芋)』の種芋も切り分けて用意する。

 地球の種と異世界の種を、アラトが等間隔で綺麗に植え付けていった。

「仕上げはこれだ。鳥や虫から作物を守る絶対の防壁、『ビニールハウス』だ」

 俺はホムセンの農業資材コーナーから持ってきた塩ビパイプと農業用透明ビニールシートを使い、手際よく畑の上を覆うドーム型のハウスを組み立てた。

「す、すごい……! 透明な布で畑が包まれていくわ! これなら、空を飛ぶバード族の矢も、害虫も防げるわね!」

 キャルルが目を輝かせている。

「あとは、水をやって待つだけだ」

 ホムセンの長いホースを蛇口から引き、シャワーノズルでたっぷりと水を撒く。

『ホムセンの化成肥料(最適化された化学栄養)』×『土壌改良(酸度中和)』×『異世界の魔力土壌』=規格外の超成長。

 その効果は、俺の想像すら遥かに超えていた。

 ――ボシュッ! メキメキメキッ!

「えっ?」

 水を撒いた直後から、ありえない音が畑から鳴り始めたのだ。

 植えたばかりの土がポコポコと盛り上がり、緑色の双葉が顔を出したかと思うと、肉眼でハッキリと分かる速度で茎が伸び、葉が広がり始めた。

「な、何よこれ!? 魔力で強制成長させるエルフの秘術だって、こんなに早くないわよ!?」

 キャルルがウサギ耳をピンと立てて後退る。

 数時間後。昼を回る頃には、ビニールハウスの中は信じられない光景になっていた。

 大人の背丈ほどに成長したトマトの苗には、ソフトボールほどもある真っ赤な実が鈴なりになり、キュウリは棍棒のように太く、ナスは黒光りして張り詰めている。

 そして何より、異世界の作物である『太陽芋』の畝は、地面がひび割れるほどパンパンに肥大化していた。

「よし、収穫だ」

 アラトがスコップで土を掘り返すと、大人の頭ほどもある巨大な太陽芋がゴロゴロと出土した。

「お、おおお……っ! こんな立派な芋、長年農業をやってきたが、一度も見たことがねえだ!」

 村の長老が、巨大な太陽芋を抱き抱えて男泣きしている。

「村のみんな! 今日はホムセン野菜の食べ放題だ! アラト、頼む!」

「おうよ!」

 アラトの【家庭科】スキルが火を噴いた。

 採れたてのトマトはキンキンに冷やして丸齧りに。ナスとキュウリは日本の味噌と塩で揉んで即席漬けに。巨大な太陽芋は、ホムセンの大型バーベキューコンロでホクホクの焼き芋にされた。

 村人たちが、恐る恐るそれを口に運ぶ。

「……あ、あまぁぁぁいっ!! なんだこれ、果物みたいに甘いぞ!?」

「芋が……芋が口の中でとろけるだァ! 俺ぁ、生きててよかったァ!」

 村中に歓喜の叫びが響き渡った。

 今まで粗末な食事しかできなかった村人たちが、涙を流しながら野菜を貪り食っている。これで、ポポロ村の食糧事情は完全に解決した。経済の根幹である『食』を握ったということは、この村が強大な拠点として自立したことを意味する。

「春太……」

 ふと、隣にいたキャルルが、熱っぽい瞳で俺を見つめていた。

 彼女の手には、半分かじった真っ赤なトマトが握られている。

「こんなに美味しいもの、私、初めて食べたわ。……ねえ、春太。私、もう春太が作った野菜と、春太のマンションがないと、生きていけない体になっちゃったかも……」

「お、おう。いつでも食わせてやるよ」

「本当ね? 一生、私に美味しいものを食べさせてくれるって、そう約束したわよね……? 心音も乱れてない。ふふっ、逃がさないわよ、私の春太……♡」

 キャルルが俺の腕にギュッと抱き着き、その顔を俺の肩にスリスリと擦り付けてくる。ウサギ耳が、嬉しさでピクピクと跳ねていた。

(あれ、なんか村長の愛がちょっと重くなってないか……?)

 村の広場が歓喜と笑顔に包まれる中。

 ふと、俺は上空から奇妙な音が聞こえるのに気付いた。

 ――ブブブブブブブブブッ。

「……ん? なんだ、この羽音?」

 見上げると、平和な青空の彼方から、巨大なハエのような気味の悪い黒い影が、こちらに向かって飛んでくるのが見えた。

お読みいただきありがとうございます!


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