EP 9
『アカデミー賞級の演技!完璧な被害者ムーブ』
翌朝。
ポポロ村の空に朝日が昇り、小鳥たちが爽やかなさえずりを聞かせる中。
ホムセン『タローマン』の店舗前には、重々しい金属の鎧の擦れる音と、怒号が響き渡っていた。
「動くな! ルナミス帝国・駐屯騎士団である! 大人しく縛につけ!!」
「みゃ……みゃあ!? な、なんだおミャーら! ワシを誰だと思っとるだぎゃあ!?」
タローマンの入り口前に引きずり出されてきたのは、無惨な姿に成り果てたゴルド商会会長、オロチであった。
紫のダブルスーツはどこへやら。昨日見せつけたド派手なヒョウ柄のブーメランパンツ一丁という姿のまま、両手を後ろ手にゴツい手錠(魔法拘束具)で縛り上げられている。
自慢のパンチパーマは草むらで寝転がっていたせいで泥と枯れ葉まみれになり、顔面は度数40のイモッカによる超ド級の二日酔いで、土気色を通り越して青ざめていた。
「は、離せだぎゃあ! ワシはゴルド商会の会長だぞ! おミャーらの給料、ワシの税金から出とるんだわ!」
「黙れ、変質者! 村の広場の草むらで半裸で奇声を上げながら寝ていた挙句、騎士団の顔を見て『魔王の手先め』などと暴れた罪は重いぞ!」
厳格な顔つきをした騎士団の隊長が、オロチの首根っこを掴んで地面に跪かせた。
その後ろでは、昨晩アラトのフライパンで昏倒させられた護衛のオーク二人が、こちらも手錠をかけられて「俺たちは何も知らないんですぅ」と泣きべそをかいている。
「いったい何があっただぎゃ……。頭が……頭が割れるように痛いだわ……。それに、なんでワシはこんなパンツ一丁で外に……」
オロチは完全に昨晩の『勇者覚醒』の記憶を失っており、ズキズキと痛むこめかみを押さえて混乱の極みに陥っていた。
「……あの、騎士団の皆様」
俺は、満を持してタローマンの破壊された自動ドアの中から、ゆっくりと姿を現した。
「おお、あなたがこの店の店長殿か」
騎士団の隊長が、俺の姿を見てハッと息を呑んだ。
俺の作業着は不自然に破れ、額や頬には(ステーキソースでメイクした)痛々しい打撲痕や血の滲みが広がっている。さらに、目には陽薬草のエキスを垂らしており、痛みに耐えるように充血してウルウルと潤んでいた。
その背後には、完全に破壊され尽くした店舗の惨状(俺とアラトが手を入れたヤラセ現場)が広がっている。高級刈払機は下敷きになり、高額な朝顔の種が床一面に散乱し、壁には大穴が開いていた。
「……なんという悲惨な。これが全て、この男の凶行だというのか」
隊長が絶句して店内の惨状を見渡す。
俺は、前世で鍛え上げた『アカデミー賞級の被害者ムーブ(オスカー女優の演技)』を、ここで全開にした。
「はい……はい……」
俺はガタガタと大げさに肩を震わせ、両手で自分の腕を抱きしめるようにして、怯えた声で証言を始めた。
「何かよく分からないっすけど……昨日の夜、接待でお出ししたお食事の途中で……オロチさんは『俺は神に選ばれし勇者だ!』と急に言い始めて……」
「ゆ、勇者だと?」
「はい……。そして突然、ご自分でズボンを下ろして、パンツ一丁の姿になって……そのまま外に飛び出して、うちの店を、あんな風に破壊し始めたんす……」
俺は顔を覆い、嗚咽を漏らした。
「俺、怖くって……。必死で止めようとしたんですけど、オロチさんの力が強すぎて、突き飛ばされて……。村のみんなのために、一生懸命集めた商品が……全部、めちゃくちゃに……っ!」
俺がポロポロと涙(目薬)をこぼしながら訴えると、騎士団の隊長の顔に、怒りと義憤の色が浮かんだ。
「おのれ、ゴルド商会の会長といえば名の知れた実業家だと思っていたが……。薬物中毒で発狂した挙句、何の罪もないホムセンの店主を暴行し、店を破壊するとは。言語道断のクズだな!」
「ち、違うだぎゃあ! そんなこと、ワシは一言も……!」
「嘘をつくな! 現場の惨状と、貴様のその破廉恥な姿が何よりの証拠だ!」
隊長が怒鳴りつけると、オロチは「ヒッ」と悲鳴を上げて縮み上がった。記憶がないため、自分のパンツ一丁の姿について一切の言い訳ができないのだ。
「隊長さん……それだけじゃないんです」
俺は、さらに追い打ちをかけるように、震える手でポケットから『透明な証拠袋』を取り出した。
その中には、リーザが磨き上げたピカピカの五円玉(銅粒)が入っている。
「オロチさんは、店を破壊した後……支払いはこの『金ピカの五円玉』で……『釣りは要らねーだぎゃ』って、意味不明な事を言い出して……俺にこれを押し付けてきたんです……っ(泣きマネ)」
「……なんだ、この変な硬貨は?」
隊長が証拠袋を受け取り、太陽の光に透かしてじっと見つめた。
「真ん中に穴が空いている……見たこともない硬貨だ。だが、素材は明らかに安物の銅。それを金貨のように見せかけて、強引に支払いを済ませようとしたというのか!」
「うぇぇぇぇぇんっ!! 私のお金がぁぁぁっ! 私のLove & Moneyの結晶がぁぁっ!!」
その時、俺の後ろで控えていたリーザが、証拠品として警察に渡ってしまった五円玉を見て、本気の号泣を始めた。
「おお、可哀想に……! 店の従業員までもが、この理不尽な暴虐に涙しているではないか!」
隊長はリーザの涙(強欲ゆえのガチ泣き)を見て、完全に勘違いをし、怒りのボルテージを最高潮まで引き上げた。
「貴様! 器物破損と暴行に加え、あろうことか『通貨の偽造および詐欺』まで働いたな! ルナミス帝国において、通貨偽造は国家反逆罪に等しい重罪であるぞ!!」
「みゃ、みゃあぁぁっ!? ち、違う! ワシじゃないだわ! そんな硬貨、見たことも――」
「ええい、言い訳は牢屋で聞く! 連行しろ!」
「はっ!」
騎士団の隊員たちが、抗議するオロチの脇を固め、無理やり立たせた。
「待つだぎゃ! これは何かの陰謀だわ! ワシはゴルド商会の……弁護士を呼ぶだぎゃあぁぁっ!!」
ヒョウ柄のパンツ一丁で泣き叫びながら、無様に馬車へと押し込まれていくオロチ。
ルナミス帝国の経済を裏で牛耳るとまで言われた大企業のトップが、社会的な尊厳を完全に失い、薬物中毒の変態詐欺師としてドナドナされていく瞬間であった。
「店長殿、大変な目に遭われたな」
オロチを馬車に押し込んだ後、隊長が俺の元へと戻り、同情に満ちた声で肩を叩いた。
「だが安心しろ。あの男には厳罰が下るだろう。そして、店の修繕費や商品の損害賠償は、帝国法に基づいてゴルド商会に全額請求される。我々がしっかりと手続きをサポートさせてもらうゆえ、ゆっくり傷を癒やしてくれ」
「あ、ありがとうございます……! 騎士団の皆様のおかげで、ポポロ村の平和は守られました……っ!」
俺は深く頭を下げ、感動の涙(目薬)を拭うふりをして、隊長の手を固く握りしめた。
「うむ。帝国の平和を守るのが我らの務め。それでは、我々はこれで失礼する!」
隊長が爽やかに敬礼し、騎士団の馬車がオロチと護衛たちを乗せて、ポポロ村から去っていく。
馬車の姿が完全に森の向こうへと消え去り、村の広場に静寂が戻った。
「…………」
「…………」
俺は顔を上げ、手元に残った『被害総額リスト(水増し分含む)』の端末画面を見つめた。
そして、先ほどまでの弱々しい被害者の顔から、徐々に口角を吊り上げ、最高にゲスで邪悪な『悪徳社畜の笑顔』へと表情を切り替えた。
「――よっしゃぁぁぁぁぁぁッ!! 完全勝利だぜ、お前らァァッ!!」
俺が天に向かってガッツポーズを決めると、厨房の奥からアラトがフライパンを叩きながら出てきた。
「ひはははっ! 見たかあのパンチパーマの泣きっ面! 店長のアカデミー賞級のヤラセ泣きに、警察も完全に騙されてやがった!」
「最高だ! これでゴルド商会の横暴な買収は完全に立ち消え! おまけにタローマンの修繕費と、数千万規模の損害賠償金(慰謝料マシマシ)が転がり込んでくる! これぞ合法的な錬金術だ!」
俺とアラトがハイタッチを交わしてバカ騒ぎをしている横で、キャルルが呆れ果てて額を押さえていた。
「……アンタたち、本当に悪党よ。あの騎士団の隊長さん、すごく真面目ないい人だったのに、見事に利用して……。良心ってものが痛まないの?」
「良心? そんなものは前世のサービス残業と一緒にドブに捨ててきたよ。大企業のクソ上司には、これくらい容赦ない地獄を見せてやらなきゃ、世の中のバランスが取れないんだ」
俺はソースのついた顔を拭きながら、晴れやかな朝の空を見上げた。
「私の五円玉……私の、プレミアム金貨がぁぁぁっ……!」
リーザだけは、いまだに床に突っ伏して、証拠品として没収された五円玉を想ってガチ泣きを続けている。
「ほら、リーザ。泣くのはやめろ。後で賠償金が振り込まれたら、今日の夕飯はタローソンの高級ステーキ弁当にしてやるから」
「……本当ですの!? 圧倒的なカロリーで、私の心を癒やしてくれますの!?」
リーザが涙と鼻水まみれの顔をバッと上げ、目を輝かせる。
こうして。
度数40の悪魔のラーメンと、一枚の五円玉、そして俺の完璧な『社畜の被害者ムーブ』によって、大陸屈指の大企業によるタローマン乗っ取り計画は、完全に粉砕された。
俺たちの愛するポポロ村の『日常』は、インフラと盤外戦術の力によって、また一つ強固なものとなったのである。
読んでいただきありがとうございます。
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