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ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


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EP 7

『五円玉の奇跡!お釣りは要らねーだぎゃ!』

「ワシの聖剣ッ! 闇を切り裂くワシの聖剣はどこだぎゃあぁぁっ!!」

 ヒョウ柄のビキニパンツ一丁に、極太の金ネックレスという、視覚の暴力とも言える姿のゴルド商会会長・オロチ。

 度数40のイモッカ・スープによって前頭葉を完全に焼き切られた彼は、タローマンの店舗内を我が物顔で暴れ回っていた。

「こんな鉄のバールじゃダメだわ! こんな草刈り鎌じゃ、魔王の首は落とせにゃあだぎゃ!」

 ガシャァァァンッ! バキィィッ!

 オロチが陳列棚を蹴り倒し、園芸用品や工具が次々と床にぶちまけられていく。

「よしよし、いいぞ。もっとやれ」

 俺は安全圏であるレジカウンターの裏に身を隠し、手元のタブレットで破壊された商品のリストを高速で入力していた。

「高級防草シート、単管パイプ五十本、大型チェーンソー、ついでにちょっと売れ残ってた不良在庫の肥料も全部……。よし、これで被害総額は金貨三百枚(約三千万円)は堅いな。大企業の会長サマが直々に暴れてくれたんだ、もちろん『全額・一括・慰謝料マシマシ』で請求させてもらうぜ」

 前世の社畜時代、クレーマーに商品を壊されて泣き寝入りした悔しさを、今ここで数万倍にして晴らしてやる。俺の顔には、完全に『悪徳弁護士』のようなゲスい笑みが浮かんでいた。

「出番ですの! 私の圧倒的なアイドルの輝きを見せつける時ですわ!」

 俺の横から、青い芋ジャージ姿のリーザが飛び出した。

 彼女は、右手に『ピカピカに磨き上げられた五円玉(銅粒)』を握りしめ、一直線に狂乱のオロチへと向かっていく。

「お待ちくださいまし、勇者オロチ様!!」

 リーザが、陳列棚をなぎ倒して息を上げているオロチの前に、両手を広げて立ちはだかった。

「……みゃあ? なんだおミャーは! 村人(NPC)の娘かや! 危にゃあで下がっとれ、今からワシは魔王の城にカチコミに行くんだぎゃ!」

 オロチはロンパリになった蛇目をギョロつかせ、ヒョウ柄パンツを食い込ませながらポーズを取った。

「さすがは勇者様! その溢れ出る覇王のオーラ、この宇宙一のアイドル・リーザの目にもハッキリと見えますの! ですが、丸腰で魔王に挑むのはあまりにも危険!」

 リーザは胸の前で手を組み、ヒロインのような(ただし芋ジャージだが)可憐なポーズを作った。

「勇者様は、ご自身の偉大なる力にふさわしい『伝説のアイテム』をお探しなのでしょう? でしたら、これをご覧くださいまし!!」

 シャキィィィンッ!!

 リーザが右手を天に掲げた。

 その指先につままれていたのは、彼女が三時間かけてホムセンの金属磨きクロスで執念深く磨き上げた、真ん中に穴の空いた一枚の硬貨――五円玉であった。

「……みゃあ!? な、なんだそのまばゆい輝きは……ッ!?」

 オロチが、色付きサングラスを失った目を手で覆う。

 タローマンの天井から照らすLED照明の光を反射し、その五円玉はまるで本物の黄金のように、ギラギラと異常な輝きを放っていた。

「これこそが、私の『Love & Money』のオーラを限界まで注ぎ込んだ、プレミアム・アイドル・コイン! 真の勇者がこの硬貨を手にすれば、その穴から魔力を吸い上げ、最強の『黄金の聖剣』へと姿を変えるという伝説のアイテムですの!!」

 完全なる出まかせ。息を吐くような詐欺の口上。

 だが、イモッカによって『中二病』を極限までこじらせているオロチの脳には、この子供騙しのファンタジー設定が、最高の真実として突き刺さった。

「おぉぉぉっ……! 感じる! 感じるだぎゃあ! その小さな金属の輪から、とてつもない『黄金の波動』がビンビンに伝わってくるだわ!!」

 オロチはヒョウ柄パンツを揺らしながら、フラフラとリーザに近づき、その五円玉を両手で神聖なもののように受け取った。

「間違いにゃあ! これこそが、ワシの待ち望んでいた伝説のアイテム! この『黄金の輪』さえあれば、ワシは無敵だぎゃあッ!!」

 オロチは五円玉を天に掲げ、歓喜の雄叫びを上げた。

「おめでとうございますの、勇者様! ……ですが勇者様、そのような伝説のアイテムを手に入れるには、真の勇者としての『器』を示す必要がありますわ」

 リーザが、商売人の顔(ゲス顔)を隠しながら、オロチに囁きかける。

「この村の道具屋の店主(春太)に、そのアイテムの代金と、あなたがオーラで壊してしまったお店の修理代を、あなたの有り余る『富』で払って差し上げるのです! それが、弱き民を救う勇者の務めですの!」

「おう! 言うまでもにゃあだぎゃ! 勇者は金払いがええもんっちゅーのは、RPGの鉄則だわ!」

 オロチは力強く頷くと、五円玉を握りしめたまま、俺が隠れているレジカウンターへとドスドスと歩み寄ってきた。

(……来たな)

 俺はレジの裏から立ち上がり、わざとらしく怯えたような顔(営業スマイルの応用・弱者ムーブ)を作った。

「ひぃぃっ! ゆ、勇者様! どうか命だけは、命だけはお助けを……!」

「フハハハッ! 安心するだぎゃ、道具屋のオヤジ! ワシは正義の勇者、一般市民に危害は加えにゃあ!」

 オロチはレジカウンターの前に立つと、見事なボディビルダーのポーズ(サイドチェスト)を決め、胸毛をワサワサと揺らした。

「おミャーの店は、ワシから溢れ出る『覇気』に耐えきれずに壊れちまったみたいだなぁ! その迷惑料と、この『黄金のアイテム』の代金……ワシがたっぷりと払ってやるだぎゃ!!」

 バンッ!!

 オロチは、リーザから受け取った『ピカピカの五円玉』を、レジのコイントレイに力強く叩きつけた。

「さあ、受け取るだぎゃあ! それが、ゴルド商会……いや! 勇者オロチ様からの、圧倒的な支払いだわ!!」

 コイントレイの上で、チンッ……と軽い音を立てて、一枚の銅粒(五円玉)が転がった。

 被害総額数千万円の店の損害と、伝説のアイテムの代金。

 それを、この世界で最も価値の低い『五円玉一枚』で支払おうとしているのだ。

「……あ、あの、勇者様? これは……」

 俺がわざとらしく震える声で尋ねると、オロチはニヤリと笑い、親指で自分の胸を指差した。

「ワシの気前が良すぎて驚いとるみたいだな! 気にすんな! おミャーらみたいな貧乏人には、一生拝めないような大金だぎゃ!」

 そして、オロチは最高のドヤ顔を浮かべ、店内に響き渡る大声で、こう叫んだ。

「釣りは要らねーだぎゃ!!」

 ……完璧だ。

 俺は心の中で、スタンディングオベーションを贈った。

 パンツ一丁の半裸で他人の店を破壊し。

 偽造硬貨(五円玉)を伝説のアイテムだと思い込み。

 それで支払いを済ませたつもりになって「釣りは要らない」とドヤ顔を決める。

 これ以上ないほどの『社会的な大恥』と『犯罪のオンパレード』。

 ルナミス帝国の法律に照らし合わせれば、「公然わいせつ」「器物破損」「威力業務妨害」そして極めつけの「通貨偽造および詐欺罪」。役満である。

「ワハハハハッ! 待ってろよ魔王! 今すぐワシが、その首を刈り取ってやるだぎゃあぁぁっ!!」

 オロチは五円玉をレジに放置したまま(もはやアイテムを手に入れたという設定すら忘れているらしい)、ヒョウ柄パンツを食い込ませた豪快な後ろ姿で、ホムセンの自動ドア(手動)をぶち破り、夜のポポロ村の広場へと猛ダッシュで飛び出していった。

「「「キャァァァァッ!!? 変態よぉぉぉっ!!」」」

 外から、夜風に当たっていた村の女性たちの悲鳴が響き渡る。

「……ふははっ。行ったな、勇者サマが」

 アラトがフライパンを片手に、のれんの奥から出てきた。

 俺はレジのトレイの上で虚しく光る五円玉を指先でつまみ上げ、ニヤリと最高に邪悪な笑みを浮かべた。

「ああ。これでもう、アイツの逃げ道は完全に塞がれた。ゴルド商会のオロチ会長は、ただの『薬物中毒で発狂した半裸の変態偽造犯』として、明日の朝刊の一面を飾ることになる」

「やったですのーっ!! 私の錬金術が、ついに大企業を打ち倒しましたわーっ!」

 リーザがバンザイをして飛び跳ねる。

「……アンタたち、本当に人間の血が通ってるの?」

 倒れた陳列棚の陰から、キャルルがドン引きした顔で俺たちを見つめていた。

「いくら腹の立つクソ社長だったからって、わざと酔っ払わせて、偽物のお金で支払わせて、パンツ一丁で村を徘徊させるなんて……魔族でもそこまでエグい真似はしないわよ」

「甘いな、キャルル。売られた喧嘩を合法的に、かつ相手の尊厳を根こそぎ奪って勝つのが、大人のビジネス(報復)ってもんだ」

 俺は五円玉を証拠袋ジップロックに丁寧に入れながら、キャルルに指示を出した。

「キャルル。村長として、今すぐルナミス帝国の駐屯騎士団に『緊急通報』を入れてくれ。『重度の薬物中毒らしき半裸の男が、村の店を破壊して暴れている』とな」

「……はぁ。わかったわよ。本当に悪党ね、春太は」

 キャルルがため息をつきながら、通信用の魔道具を取りに走る。

「さて、アラト。警官(騎士団)が到着するまでの間に、もう一仕事だ」

「ああ、わかってるぜ。この『被害現場』を、さらに悲惨に見せるための偽装工作だな?」

「その通り。倒れた棚の数をもう三つ増やし、ガラスの破片を派手に散らしておけ。俺は自分の服を少し破いて、『暴漢に襲われた可哀想な店長』のメイクをする」

 俺たちは、悪魔のような手際で『完璧な被害現場』の製作に取り掛かった。

 明日の朝、オロチが目を覚ました時、彼を待っているのは絶望的なまでの証拠と、多額の賠償金、そして拭い去れない『半裸の勇者』の汚名である。

 社畜の怒りとインフラの力、そして度数40の悪魔のラーメンが生み出した、極上の喜劇ざまぁのフィナーレが、静かに幕を開けようとしていた。

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