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ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


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EP 7

『タガの外れたヒロインたち!屋上ビアガーデンのカオス』

「アラトォォォッ! てめぇ、ふざけんな! ただのアルコール爆弾じゃねえか!!」

 ポポロ村のホムセン『タローマン』の屋上ビアガーデン。

 俺こと神城春太の怒号が、月明かりの下に虚しく響き渡った。

 俺は、事の元凶である相棒のコック、アラトの油まみれのエプロンの襟首を力一杯締め上げ、ガクガクと揺さぶっていた。

「ひはははっ! 首が! 首が締まってるぜ店長! だがまぁ、見ろよこの光景! 俺の『イモッカ・ラーメン』がもたらした、理性の完全な崩壊劇だ!」

「笑い事か! どうすんだこの地獄絵図は!」

 俺が指差した先では、アルコール度数40の熱燗スープによってタガが外れたヒロインたちが、それぞれの『最悪の本性』をいかんなく発揮して暴れ回っていた。

「うふふふふっ……さあさあ、逃げないでくださいな〜! みんなの腎臓、私が純金で買い取ってあげますわぁ〜!」

 エルフの姫君ルナが、顔を真っ赤に染め、完全に焦点の合わない目でフラフラと千鳥足を踏みながら、村の若者たちを追い回している。

「ひぃぃぃっ! ルナ様、やめてくれ! 俺の臓器は売り物じゃねえ!」

「遠慮なさらないで! タローマン特製のメス(園芸用ハサミ)で、痛くないようにスッと取り出して差し上げますわ! 大丈夫、私には大自然の癒やしの魔法がありますから、一つくらいなくなっても明日の朝には草が生えて治りますわよ!」

「人体に草を生やすなァァァッ!!」

 俺は慌ててルナの背後に回り込み、彼女が振り回していた園芸用ハサミと世界樹の杖を取り上げた。

「ルナ! 目を覚ませ! 臓器売買はファンタジー世界でも完全なコンプラ違反だ! お前はエルフだろうが! 大自然を愛する清らかな妖精の心はどこに置いてきた!」

「え〜? 春太さぁん……。だってぇ、大自然も弱肉強食ですわよぉ? 強いものが富を独占する、それが生態系のピラミッド……うふふふっ」

 ルナは俺の胸に寄りかかり、酒臭い息を吐きながらへらへらと笑う。普段の清楚な微笑みは見る影もなく、完全に『ヤバい闇医者』の笑みだった。

「春太プロデューサー! 私を見てくださいまし!!」

 ドタン、バタン!

 ルナをベンチに座らせた直後、今度は長机の上から凄まじい足音が響いてきた。

「さあ、愚民ども! この宇宙一のアイドル、リーザの『Love & Money』の前にひれ伏しなさいですのーっ!!」

 青い芋ジャージ姿のリーザが、長机の上をステージに見立てて、ドスドスと狂ったようなベリーダンス(のつもりらしい謎の動き)を踊り狂っている。

 先ほどのレジ前での罰ゲームで浴びた『顔面パイ』のクリームがまだ頬や鼻にこびりついており、その姿はアイドルというより、完全に宴会の余興で滑り散らかしている酔っ払いのオッサンだった。

「私の輝きに魅了されたなら、今すぐここに金貨を置きなさいですの! スパチャを投げない無課金リスナーは、ホムセンのセメントで固めて海に沈めますのよーっ!!」

「机の上から降りろバカヤロウ! 行儀が悪いし、脅迫で金を取るな! お前はどこの反社アイドルだ!」

 俺がリーザの芋ジャージの裾を引っ張って机から引き摺り下ろそうとすると、彼女は「離すのですわー!」とジタバタと暴れた。

「私はトップアイドルですの! 高級肉とキャビアを毎日食べる権利があるんですの! 五円玉は金貨ですのぉぉっ!」

「まだ言ってんのかその詐欺理論! お前はしばらくタローソンの廃棄弁当抜きだ!」

 俺が強引にリーザを机から引き剥がし、芝生の上に転がすと、彼女は「ひどいですの……」とブツブツ文句を言いながら、そのまま丸くなって寝る体勢に入った。

「うぅぅ……ぐすっ。春太さぁん……ひどいよぉ……」

 休む間もなく、今度は俺の背後から、ズルズルと鼻をすする泣き声が聞こえてきた。

 振り返ると、純白の衣装を着た下級天使キュララが、空のワンカップのガラス瓶を抱きしめたまま、大粒の涙を流して号泣していた。

 彼女の背中の羽はすっかりしおれ、頭上の天使のヘイローは完全に消灯している。典型的な『泣き上戸』であり『絡み酒』だ。

「おいおい、どうしたキュララ。泣くほどラーメンが辛かったか?」

「違うよぉ! 私、もうこんな生活イヤだよぉ……!」

 キュララが俺のズボンの裾をギュッと掴み、顔を押し付けてくる。

「あのさぁ、ルチアナ先輩のバカヤローって思わない!? 『永遠の17歳』とか、絶対痛すぎる設定じゃん! こっちは毎日炎上と隣り合わせで、魔王軍とかヤラセ勇者とかと命がけで戦って配信してんのに、ちょっとコンプラ違反しただけで『神界のコタツ部屋で正座説教』とか、パワハラにも程があるよぉ!」

「お、おい! お前、それ生配信されてないだろうな!?」

 俺は慌てて周囲を見回した。幸い、キュララのドローンカメラは床に落ちて電源が切れていた。もし神界のトップの悪口を全世界に配信していたら、ポポロ村ごと神罰で消し飛ばされかねない。

「春太さんもそう思うでしょ!? あんな駄女神、ブラック企業の上司よりタチ悪いよぉ! 有給休暇よこせぇぇっ! ボーナスよこせぇぇっ!」

「わかった、わかったから大声で叫ぶな! 上司の悪口はシラフの時に、絶対にバレない裏垢でやれって前世でも学ばなかったのか!」

 俺は泣き喚く天使の背中をポンポンと叩きながら、必死で宥めた。

「…………しゅんたぁ」

「ん?」

 キュララを宥めていると、今度は足元から、甘ったるい、聞いたこともないような蕩けた声がした。

 見下ろすと、そこには村長のキャルルが、人工芝の上にぺたんと座り込み、俺の太ももに頬をすりすりとしているではないか。

 普段はダブルトンファーを振り回して魔物を粉砕する、月兎族の誇り高き戦士。その彼女が、今はウサギ耳をペタンと寝かせ、上目遣いで俺を見つめている。

「しゅんたぁ……私ねぇ、本当はねぇ、もっと撫でてほしいのぉ……。いつも、村長としてしっかりしなきゃって思ってるけど……しゅんたの前だと、安心しちゃうの……えへへ」

「……ッ!!」

 俺の心の中の『男としての理性』が、強烈な警鐘を鳴らした。

 破壊力が高すぎる。普段のツンツンした態度からの、この無防備なデレ。

 アルコールの力とはいえ、こんな無自覚な甘えを見せられて、平常心を保てる男がいるだろうか。いや、いない。

「お、おいキャルル。お前、ちょっと飲みすぎだ。ほら、水でも飲んで……」

「やだぁ……水より、しゅんたの頭ナデナデがいいのぉ……」

 キャルルが俺の手を取り、自分の頭に乗せてすりすりと擦り付けてくる。

「ちょっ、お前ら! 俺をなんだと思ってるんだ! 俺はホムセンの店長であって、キャバクラのボーイでも保育士でもねえぞ!!」

 臓器を狙うエルフ、強欲に踊るアイドル、神への不満を叫ぶ天使、そして俺に甘えまくるウサギ。

 俺は完全にキャパシティを超え、夜空に向かって絶望の悲鳴を上げた。

「アラトォォッ! 見てないで手伝え! 今すぐ厨房に行って『陽薬草』の解毒ドリンクを作ってこい! このままじゃ村が、いや俺の精神が崩壊する!」

「ひはははっ! 最高に面白いショーだったが、さすがに店長が過労死しそうだからな。しゃあねえ、一肌脱いでやるか」

 アラトが涙を拭きながら、ようやく重い腰を上げて厨房へと向かっていった。

 それから数十分後。

 アラトが持ってきた『陽薬草ベースの超苦い解毒ドリンク(度数ゼロ)』を、暴れる女子たちの口に無理やり流し込むという、格闘技さながらの死闘が繰り広げられた。

「にがぁぁぁいっ!?」

「ペッ! ペッ! こんなの私の求めるカロリーではありませんの!」

「うぇぇん、春太さんが虐めるぅ……」

 解毒ドリンクの強烈な苦味と成分が回ったのか、それとも単にアルコールのピークが過ぎて疲れ果てたのか。

 タガが外れて暴れ回っていたヒロインたちは、やがて一人、また一人と静かになり、人工芝の上やベンチで、スヤスヤと寝息を立て始めた。

「……終わった。嵐が、去った……」

 俺はボロボロになった服を整えながら、人工芝の上に大の字に倒れ込んだ。

 昨日の魔王軍やヤラセ勇者との戦いなんかより、この一時間の方がよっぽど命の危険を感じたし、体力を消耗した。

「お疲れさん、店長。見事なツッコミと猛獣使いっぷりだったぜ」

 アラトが、自分の分の缶ビール(タローマンで仕入れたごく普通の度数の薄い酒)を片手に、俺の隣に腰を下ろした。俺の顔の横に、よく冷えたもう一本の缶ビールがゴトンと置かれる。

「……ふざけんな。明日、お前の給料から胃薬代を天引きしてやる」

 俺は悪態をつきながらも、その缶ビールを手に取り、プシュッと小気味よい音を立ててプルタブを開けた。

 屋上のカオスは嘘のように静まり返り、今はただ、秋の虫の音と、女子たちの静かな寝息だけが聞こえている。

 見上げれば、雲ひとつない夜空に、巨大な満月がポッカリと浮かんでいた。

「……まぁ、たまにはこういうバカ騒ぎも悪くねえだろ?」

 アラトが夜空を見上げながら、ポツリと呟いた。

 俺は缶ビールを一口飲み、その冷たい炭酸が乾いた喉を潤していくのを感じながら、ゆっくりと息を吐き出した。

 色々と最悪な宴会だったが、不思議と悪い気はしなかった。

 これが、俺たちが守り抜いた『平穏』の形なのだと、改めて実感できたからかもしれない。

 祭りの後の、この静かで心地よい時間。

 俺たちは月明かりの下で、ようやく自分たち自身の『本当の打ち上げ』を始めようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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