EP 5
『月下の宴・開幕!屋上ビアガーデンへようこそ』
すっかり日が落ち、夜の帳が降りたポポロ村。
普段なら静まり返る時間だが、今夜のホムセン『タローマン』の屋上だけは、まるで真昼のような明るさと熱気に包まれていた。
「おぉぉぉっ! すげぇ! 屋上がピカピカ光ってやがる!」
「タローマンの店長さんが用意してくれた『LEDランタン』とやらのおかげだ! これなら夜通し飲んでも手元が明るいぞ!」
屋上のコンクリートの床には、園芸コーナーの人工芝が敷き詰められ、その上に長机と折りたたみ椅子がずらりと並べられている。
頭上には、ホムセンの『屋外用防水ストリングライト』が幾重にも張り巡らされ、星空を模したような暖色のイルミネーションが、集まった村人たちの笑顔を明るく照らし出していた。
「さあさあ、みんな! 今日はタダ飯とタダ酒が死ぬほど振る舞われますのよ! 遠慮せずにどんどん席に着きなさい!」
リーザが、青い芋ジャージの上に『宴会部長』とマジックで書かれたタスキをかけ、メガホンを持って仕切っている。
「リーザちゃん、タダ飯って言い方は下品だよぉ! これは私が稼いだスパチャ(村の復興予算)で開催されてる、愛と絆の打ち上げパーティーなんだからねっ!」
キュララが、新品の天使の羽用トリートメントでピカピカに輝かせた羽を揺らしながら、ドローンカメラをスタンバイさせている。
「はいはーい、全国のリスナーのみんな! 今日はポポロ村の復興を祝う、月下の宴会配信だよっ☆ みんなも画面越しに一緒に乾杯しようね!」
「まぁ! 月明かりの下でのパーティーなんて、とってもロマンチックですわ!」
ルナが世界樹の杖を振るうと、人工芝の周りのプランターから、夜にしか咲かない『月下美人(の突然変異の巨大なやつ)』が一斉に花開き、むせ返るような甘い香りを放ち始めた。
「みんな、今日は本当にご苦労様。そして、ありがとう」
村長のキャルルが、少しおめかしをした服装(普段の戦闘着ではなく、村の特産品である絹で編まれた軽やかなドレス)で現れ、村人たちに労いの声をかけて回っている。
その背中には、昨日の激戦の傷跡が包帯として残っているが、彼女の表情は晴れやかだった。
「ひひひ、主役の登場だぜ。道を開けな」
そこに、厨房での仕込みを終えたアラトが、巨大なキャスター付きのワゴンを押して屋上に姿を現した。
「おおおおぉぉぉっ!!」
村人たちから、どよめきと歓声が沸き起こる。
ワゴンの上に乗っていたのは、アラトが昼間から仕込んでいた、とびきりのフェス飯の数々だった。
ロックバイソンの特上肩ロースを、タローマン特製のダッチオーブンで丸ごと焼き上げた巨大な『マンガ肉』。
ルナが育てた特大椎茸に、とろけるチーズとガーリックバターを乗せて炭火で炙った『悪魔の茸ステーキ』。
そして、ポポロ村の特産品である『ずっ友ロコシ』を、甘辛い醤油ダレで香ばしく焼き上げた屋台の定番メニュー。
「どれもこれも、村の復興予算と俺の徹夜の魂を注ぎ込んだ最高傑作だ。腹がはち切れるまで食い尽くせ!」
アラトがドヤ顔で宣言すると、リーザの口から滝のようなよだれがこぼれ落ちた。
「あ、愛の塊ですの……! 圧倒的なカロリーという名の、無償の愛が目の前に山積みになっていますのぉぉっ!」
「よしよし、みんな揃ったな」
俺は、ホムセンの制服である緑のエプロンを外し、ラフな私服姿で長机の『お立ち台』の上に立った。
俺の左手には、よく冷えたエールの入ったジョッキ。
右手には、マイク代わりの拡声器が握られている。
お立ち台から見渡す、ポポロ村の屋上ビアガーデン。
笑顔で語り合う村人たち。
目を輝かせて料理を狙うアイドルと天使。
花を咲かせて笑うエルフと、頼もしい相棒のコック、そして村長。
その光景を見た瞬間、俺の胸の奥に、言葉にできない熱いものがこみ上げてきた。
前世の社畜時代。会社での飲み会といえば、説教臭い上司の愚痴を聞かされ、取引先の接待で作り笑いを浮かべ、自腹を切らされるだけの『地獄の延長戦』だった。
心から笑い合って、美味い飯を美味いと言える仲間との酒なんて、いつ以来だろうか。
「……あー、マイクテスト、マイクテスト。よし、聞こえてるな」
俺が拡声器で呼びかけると、ワイワイと騒いでいた屋上が静まり返り、全員の視線が俺へと集まった。
「えー、ポポロ村の皆さん。そして、我がタローマンの従業員諸君」
俺は少し照れくささを隠すように、咳払いを一つした。
「昨日は、突然の魔王軍の残党と、ふざけたヤラセ勇者の襲撃により、我らがポポロ村は未曾有の危機に立たされた。……防壁は斬り裂かれ、俺の可愛い商品たちはぶちまけられ、危うくホムセンの売上が吹っ飛ぶところだった」
ドッと、村人たちから軽い笑いが起きる。
「だが! 俺たちは負けなかった。キャルルが体を張り、ルナとリーザとキュララが時間を稼ぎ、アラトがインフラを組み上げ、俺が……まぁ、スプレーを撒き散らした」
俺はジョッキを高く掲げた。
「俺はただのホームセンターの店長だ。魔法も使えないし、剣も振れない。だけどな、お前らみたいな最高に騒がしくて、最高に頼もしい仲間がいてくれたからこそ、この俺の城(ポポロ村)は今日、こうして無事に営業を再開できた!」
「春太……」
キャルルが、少しだけ目を潤ませてこちらを見上げている。
「世界にはチートなスキルとか、一千万ゴールドの課金とか、色んな理不尽な暴力がある。……でもな、そんな薄っぺらい力なんて、俺たちの『泥臭いインフラ』と『バカ騒ぎする日常』の前じゃあ、ただの紙切れ同然だ!」
俺の言葉に、村人たちが「そうだ!」「店長の言う通りだ!」と拳を振り上げる。
「色々あったが、難しいことはこれで終わりにしよう。俺が言いたいのは、ただ一つだ」
俺は満面の笑みを浮かべ、夜空に浮かぶ巨大な満月に向かって叫んだ。
「今日、俺たちがこうして生きて、最高に美味い飯が食えることに……圧倒的な感謝を!! ポポロ村の明日と、タローマンの売上アップを祈って……乾杯ッ!!」
「「「乾杯ァァァァァァァッ!!!」」」
屋上の全員が、ジョッキやコップを勢いよくぶつけ合う。
澄んだガラスの音と、割れんばかりの歓声が、月明かりの下に響き渡った。
「いただきますのぉぉぉっ!!」
乾杯の音頭が終わるか終わらないかのうちに、リーザが猛烈な勢いで『マンガ肉』に食らいつき、その半分を一瞬で削り取った。
「あーっ! 泥棒アイドル! 私のお肉返してよ!」
キュララがドローンカメラを放置して、リーザから肉を奪い返そうと取っ組み合いを始める。
「まぁまぁ、お二人とも。お肉にはお野菜もバランスよく食べないとダメですわよ! ほら、特大椎茸さんを一口で丸飲みしなさい!」
ルナがニコニコしながら、顔の大きさほどある悪魔の椎茸ステーキを二人の口に強引に押し込んでいる。
「ふはははっ! いいぞ、もっと食え! だがな、酒はまだこれからが本番だぜ」
アラトが、自分のジョッキのエールを一気に飲み干し、口元を拭ってニヤリと笑った。
「店長、みんなの腹もいい感じに温まってきた頃合いだ。そろそろ『アレ』を出してもいいか?」
「……マジで出すのか? 明日、全員が二日酔いで使い物にならなくなっても、俺は知らないぞ」
俺は苦笑いしながら、アラトがワゴンの下に隠している『木箱』に目をやった。
「なに言ってやがる。宴ってのは、記憶を無くしてからが本番だろうが。昨日の鬱憤を、アルコール度数40のジャンクフードで綺麗さっぱり洗い流してやるよ」
アラトはそう言うと、木箱の蓋をバァンッと開け放った。
中には、ずらりと並んだガラスの容器。
そこには、油揚げの乾麺と、ロックバイソンの特濃出汁がセットされ、今か今かと『熱々のイモッカ』が注がれるのを待っている。
「おーい、お前ら! フェス飯のメインディッシュ、タローマン特製『イモッカ仕立てのワンカップラーメン』のお出ましだァッ!!」
アラトの声に、肉と野菜を食い散らかしたヒロインたちと村人たちが、ピタリと動きを止め、その悪魔の木箱へと一斉に視線を向けた。
月下の狂宴は、ここからが本当の幕開け。
理性を吹き飛ばす強烈なアルコール爆弾の洗礼が、ポポロ村のヒロインたちを未曾有のカオスへと叩き落とそうとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
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