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ブラック企業のホムセン店長、異世界で10階建てマンションを召喚する〜無限の近代インフラと最強重機で国境の村をメガロポリスへ〜  作者: 月神世一


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EP 2

『強欲アイドルの錬金術!五円玉と顔面パイ』

 今夜のホムセン屋上での『打ち上げの宴』に向けて、ポポロ村は活気づいていた。

 村人たちは復旧作業の傍らで宴の飾り付けを進め、厨房ではアラトが何やら怪しげな新作フェス飯の仕込みでフライパンを振るい続けている。

 そんな中、俺こと神城春太は、ホムセン『タローマン』の一階レジカウンターで、宴のための備品や食材の買い出し(店内からの在庫出し)の精算作業に追われていた。

「えーっと、紙コップが百個、紙皿が五十枚、割り箸と……よし。備品関係はこれで揃ったな」

 俺が電卓を弾いて在庫リストにチェックを入れていると、レジの前に、山盛りの買い物カゴを抱えた青い影がやってきた。

「春太プロデューサー! お会計をお願いしますの!」

 芋ジャージ姿の地下アイドル、リーザである。

 彼女がレジ台の上にドンッと置いたカゴの中身を見て、俺は思わず眉間を揉みほぐした。

「……おいリーザ。なんだこの中身は」

「見ればわかりますの! 今夜の宴のための、私の個人的な『ご褒美セット』ですの!」

 カゴの中には、タローマンの高級食品コーナーから厳選された品々が詰め込まれていた。

 霜降りロックバイソンの特上カルビ肉、シーラン国から密輸……いや、正規ルートで仕入れた高級キャビアの瓶詰め、さらには果物コーナーで一番高い『メロロン(完熟の一歩手前の安全なやつ)』まで鎮座している。

「あのなぁ。今夜の宴は俺の奢り(ホムセンの経費)だが、それはあくまで『村人全員に行き渡る大鍋料理』の話だ。お前個人のこんな贅沢品まで経費で落とせるわけねえだろ。これ全部で、ざっと金貨三枚(約三万円)は飛ぶぞ」

 俺が冷たく突き放すと、リーザは「むんっ!」と得意げに胸を張った。

「失礼な! 私がタダで集ろうとしているハイエナだとでも思っているんですの!? これくらい、トップアイドルである私が自腹で払ってやりますのよ!」

「……は? 自腹?」

 俺は耳を疑った。

 普段、タローソンの試食コーナーと廃棄弁当、そして公園の雑草サラダで命を繋いでいる、万年無一文の底辺アイドルが、金貨三枚もの大金を持っているはずがない。

「フフフッ。驚くのはまだ早いですの。さあ、受け取りなさい! 私の圧倒的な輝きを放つ、愛と富の結晶を!」

 リーザが芋ジャージのポケットに手を突っ込み、レジのトレイの上に『チャリンッ』と一枚の硬貨を叩きつけた。

「…………」

「…………」

 俺とリーザは、トレイの上の硬貨を挟んで、数秒間無言で見つめ合った。

「……おいリーザ」

「なんでしょうか、春太プロデューサー」

「これ、どう見ても『銅粒(あるいは前世の五円玉)』だろ」

 俺はトレイの上の硬貨を指差した。

 真ん中に穴の空いた、日本円にして五円、このアナステシア世界ではパンの耳すら買えない最底辺の硬貨(銅粒数枚分の価値)である。

「違いますの!!」

 リーザがレジ台をバンッと叩いて身を乗り出してきた。

「よく見てくださいまし! ただの銅ではありませんの! ピカピカに、鏡のように光り輝いているでしょう!?」

 確かに、その五円玉は異常なまでに磨き上げられており、黄金色に近い輝きを放っていた。

「私、昨日の夜から三時間かけて、この硬貨をホムセンの金属磨きクロスでキュッキュと磨き上げましたの! 私の汗と涙、そしてアイドルとしての『Love & Money』のオーラが、この硬貨の細胞レベルにまで浸透しているのですわ!」

「いや、硬貨に細胞はねえよ」

「五円! 五円! 御縁! 御縁! ハイッ♪」

 俺のツッコミを無視して、リーザが突然レジの前で自作の『スパチャ乞食ソング』を歌いながらステップを踏み始めた。

「私のアイドルとしての付加価値が乗ったこの硬貨は、もはやただの銅ではありませんの! 錬金術によって『金貨十枚分』の価値へと昇華された、プレミアム・アイドル・コインですの!! さあ、お釣りは結構ですから、そのお肉とキャビアを包んでくださいまし!!」

 自信満々に、堂々と、完全な『詐欺(通貨偽造)』を主張するアイドル。

 その堂に入ったクズっぷりに、俺は深い、深いため息をついた。

「あー、春太さーん。またリーザちゃんがセコいこと言ってるのー?」

 そこに、両手に大量の高級菓子やコスメ(スパチャで稼いだ金貨で爆買いしたもの)を抱えた天使のキュララが通りかかった。

「ちょっとリーザちゃん、そんな小銭一枚で高級肉を買おうだなんて、ゴッドチューバーの風上にも置けないよぉ。私なんて、昨日の復興配信で稼いだ金貨で、これ全部一括払いだもんねっ!」

 キュララが自慢げに本物の金貨の束をジャラジャラと鳴らす。

「ギギギギギ……ッ!!」

 リーザの目から血の涙がこぼれ、五円玉を握りしめる手がプルプルと震え出した。

「泥棒天使……! 私の太客のスパチャで買ったお菓子……! 春太プロデューサー、早くお会計を! 私のプレミアム・コインで、この泥棒天使を見返してやりますの!」

 完全にルサンチマン(嫉妬)と強欲に脳を焼かれている。

 俺は無言のまま、レジカウンターの下へと手を伸ばした。

「……リーザ。お前のその『付加価値』ってやつ、経済学的に言うと完全な『詐欺』なんだよ。アナステシア世界のルナミス帝国法においても、通貨の価値を偽る行為は国家反逆罪に相当する重罪だ」

「ご、御託はいいですの! アイドルが金貨だと言えば、それは金貨なんですの!!」

「いいや、違うな。店長がダメだと言えば、それはダメなんだよ」

 俺は、レジの下の『バラエティ・パーティーグッズコーナー』の箱から取り出した『ある物』を、右手にしっかりと握りしめた。

 それは、紙皿の上に山盛りに積まれた、真っ白なホイップクリームの塊。

 タローマン特製・宴会用罰ゲームグッズ――『顔面パイ(特盛)』である。

「な、なんですかその白い山は……?」

 リーザが怪訝な顔をした、その瞬間。

「硬貨偽造は重罪だバカヤロウ!! 目を覚ませ!!」

 俺はピッチャーさながらの完璧なフォームで、リーザの顔面の中央にめがけて、その特盛ホイップパイを全力で投げつけた。

 ――ベチャァァァァァァァァァッ!!!!

「ふべぇぇぇぇぇっ!?」

 見事なストライク。

 リーザの顔面は、真っ白なクリームの爆発によって完全に覆い隠された。

 芋ジャージの胸元にも白いクリームが飛び散り、彼女は顔を真っ白にしたまま、よろよろと後ずさりして床に尻餅をついた。

「あははははっ! リーザちゃん、顔が真っ白! ウケるーっ! カメラ回しとけばよかったー!」

 キュララがお腹を抱えて大爆笑している。

 俺はレジカウンターから身を乗り出し、冷酷な目で言い渡した。

「いいか。アイドルの付加価値だろうが何だろうが、タローマンのレジは絶対だ。五円は五円。それ以上でも以下でもない。不当な錬金術で俺の店の売上をごまかそうとした罪、その罰ゲーム用のパイで償え」

 俺がビシッと指を差すと、顔面をクリームまみれにしたリーザが、プルプルと震えながら顔を上げた。

「うぅぅ……。ひどいですの……。宇宙一のアイドルの顔面に、こんな屈辱的な攻撃を……」

 彼女の目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。

 さすがに女の子の顔面にパイを全力投球したのはやりすぎたか、と俺が少しだけ罪悪感を抱きかけた、その時だった。

「……ペロッ」

「え?」

 リーザは、自分の鼻の頭についていたホイップクリームを、長い舌でペロリと舐め取った。

 そして、目を丸くして、パチパチと瞬きをした。

「……あ、甘いですの」

「は?」

「甘くて、ミルクのコクがあって……とっても美味しいですの!!」

 リーザは泣くのをやめ、自分の顔面についているクリームを、両手でかき集めるようにして猛然と口の中に運び始めた。

「むぐっ、あむあむ……! すごいですの、これ! ショートケーキの上の部分だけを無限に食べているような、圧倒的なカロリーの暴力! パンの耳では絶対に味わえない、高級な糖分と脂質の味がしますのぉぉっ!!」

「おいリーザ、お前……」

 顔面をクリームまみれにしたまま、恍惚とした表情で自分の顔を舐め回すアイドル。

 その光景は、もはや罰ゲームでも何でもなく、ただの『異様な食事風景』へと変貌していた。

「春太プロデューサー! この『顔面パイ』、あと五発くらい私に投げつけてくださいまし! いくらでも受け止めて、綺麗に舐め取って差し上げますの!」

 リーザが両手を広げ、目をキラキラさせておかわりのパイを要求してくる。

「……お前のその底辺のたくましさ、ある意味尊敬するよ、本当に」

 俺は完全に毒気を抜かれ、額を押さえて深い、深いため息をついた。

 罰ゲームのクリームすらも、貴重な糖分として歓喜して受け入れる。この人魚の胃袋とメンタルには、どんなシリアスな嫌がらせも通じないのだ。

「チッ、騒がしいと思ったら、またコントやってんのか」

 厨房の方から、アラトが呆れ顔で出てきた。

「店長。お前のそのパイ投げで、俺はいいインスピレーションを貰ったぜ」

「インスピレーション?」

「ああ。今夜の打ち上げの『新作フェス飯』だ。甘っちょろいクリームじゃねえ、ガツンと脳天を揺らす、大人のための一撃を開発してやるよ。楽しみに待ってな」

 アラトがニヤリと悪魔のような笑みを浮かべ、再び厨房へと戻っていく。

 一方、リーザはまだ顔面のクリームを舐め続け、キュララは「汚ーい!」と笑い転げている。

 ポポロ村のホムセンには、昨日までの殺伐とした空気は微塵も残っていなかった。

 強欲と食欲、そしてバカ騒ぎ。

 これこそが、俺たちの村の『平穏な日常』である。

 俺はレジの上の五円玉(銅粒)を回収しながら、今夜の屋上ビアガーデンでアラトがどんな狂気のメニューを出してくるのか、一抹の不安(胃痛の種)を感じずにはいられなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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